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秘密の特訓、遂にお父さんにバレる!

 エレオノールペルルに見つかっても僕の予定に変更はない。

 8月下旬になってもネイチャースイミングを満喫しようとしていたら……ん、森の中にボコボコになったクマ、しかもヒグマがひっくり返っていた。

「ん……なんだこれ?」


 僕も何度かクマと遭遇してやり過ごしたことはあるけど、ここまで見事に返り討ちにされているのは初めてだ。一体だれがこんなことをしたのだろう?

 首をかしげていると、後ろの藪が揺れた。

「やはりお前だったか……」

「お、お父さん!?」


 確かにお父さんことドドドドドドドドドなら、ヒグマを返り討ちにすることも可能だろう。何せ、今の彼の馬体重は470キログラムあり、脚腰にはたっぷりとした筋肉がついている。

「脱走とは良い趣味をしているなジュニアよ」

「まずは気性の難しさで、お父さんを越えるつもりだからね」

 ドドドは大きくため息をついた。


「お前はそうして、規則を見下すことしかできない馬だ。所詮エゴでしかない。お前の勝手な行動で何回スタッフたちが右往左往したと思っている!?」

「知りたい? 今日……8月27日13時半までの時点で102回。うちスタッフに見つかった回数はゼロ回だよ」

「なに……!?」

「最初に脱走したのは5月28日の11時半。僕は外の世界がとても広いことを知った」

「……」

「2番目は5月29日の10時20分。ちなみに……川を最初に発見したのが7度目となる6月2日の14時頃だよ。因みにこの日は2度脱走している」

「皆、忘れられぬ日々だ……とか言うのではなかろうな?」


「僕は規則を破ることに心を痛めることしかできない。だけどお父さんもこれだけは知って欲しい。今までの日々は決して無駄ではないと!」

 父さんは再び、大きくため息をついた。

「ここはスイミングプールではないぞ」

 語彙が強くなった。

「だいたいお前は、水が恐ろしいものだということをわかっていない!」

「しーしー お父さん、声が大きすぎる」

「な、なんだ」

「ヒグマだよ。お父さん自身がさっき言ってたじゃないか。ここは山奥なんだよ」

 父さんは何とも言えない顔をした。

「全く、小利口で口達者になったものだ」

「それは困るな。ウマだけに大馬鹿者を目指しているのに……」

「誰がウマいことを言えといった!? とにかく戻るぞ」

「うん」



 牧場に戻ると、父さんはお説教を再開した。

「サイレンスアロー、お前はなぜ怒られているかわかるか?」

 その剣幕に、僕は寒気を感じた。

 これは答えを間違えると、蹴られないまでも噛みつかれるヤツだ。慎重かつスピーディーに答えを返す必要がある。

「水の恐ろしさと牧場の外の恐ろしさを理解していないから」

 お父さんは真剣な顔をしたまま頷いた。

「その通りだ。殴らずに済みそうで安心した」

「なるほど。僕にだってわかったこともあるよ」

 そう切り返すと、お父さんは意外そうな顔をした。


「なにがわかったというのだ?」

「水やヒグマより、お父さんの方が怖い!」

 そう答えると、お父さんはにっこりと笑った。

「お前……本当に殴るぞ!」


「まあ、冗談は置いておくとして……僕はまだまだ脚腰を鍛えたいんだ。川で泳いじゃ……だめ?」

 お父さんは安心した様子で微笑んでくれた。

「そこまで心配はしなくても脚腰のトレーニングならできる」

 父さんはそっと僕の耳元で囁いた。

「秋ごろからは雪が降りはじめるからな」


 その言葉を聞き、思わず唸っていた。

 姉さんたち1歳馬たちの体つきが立派なのも、雪の上で走り込みを続けたからだろう。

「なるほど。なら今は、芝を走ることに慣れておいた方がいいね」

「そうだ。わかったら走って来なさい」

「うん!」

 少しずつ走るスピードを上げていくと、同級生の中でも速いことで評判の黒毛馬3頭と並び、曲線になると一気に突き放していた。

 これもスイミングの成果だろう。

【キャラクター紹介:カグヤドリーム(繁殖牝馬)】


 グランパ牧場のサラブレッド。

 異名:砂の女帝

 2015年3月生まれ。

 父はグランパダイオー。母はフォレストドリーム。

 毛並みは栗色。前右脚だけが白く、白斑などはない。


 主人公サイレンスアローと姉チャチャカグヤの母親。

 物覚えが悪く、デビューも遅れ、更に最初の1勝を取るのに手こずり続けるという失敗ばかりをしてきた牝馬。

 次に負けたら引退というところまで追い込まれたが、そのレースで運よく馬の合った騎手とコンビを組めたため、以降は多頭の叩き合いとなるレースでも5着外に漏れることなく好走を続けた。


 ちなみに、成績低迷時代からドドドとは親交があり、彼が脚を壊して引退した後から快進撃が始まっている。

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