ドドドドドドドドドの胸中
ジュニアよ。お前の夢は何だ?
はるか昔にサイレンスアローにそういう質問をしたことがあった。まだまだ小さい仔馬の彼は、その質問に戸惑いを見せたことを今でもはっきりと覚えている。
同じくらいの年齢の私なら迷わずダービー馬と答えただろう。ウマチューバーという答えを聞いたときには時代と共に仔馬の考え方が変わったのかと思った。
だけど、サイレンスアローは違った。親バカかもしれんが、仔馬時代からダービー馬になるということの過酷さを理解していたように思えた。あの年でもしっかりと自分の将来と向き合っていた賢い仔だ。
だからこそ、彼が大きく育てないことを申し訳なく思った。
サイレンスアローが他の馬の1.3倍くらい飼い葉を食べて、十分な睡眠や運動をとっても体重は400キログラムに満たない。
必死に戦う息子に、私はその程度の体しか提供してやれなかった……
そんな彼に私は何をしてやれただろう? どんな言葉をかけてやれる?
お母さんや牧場スタッフのために頑張れ?
エレオノールペルルのためにも走って来い?
お前の逃げは完璧だから観客たちに見せてこい?
馬運車の中で必死に考えたが、どうすればサイレンスアローの力になってやれるのかわからなかった。久しぶりに対面するわけだが、昔のように投げ槍になっていたらどうしよう。やっぱり優駿なんて自分には無理だと言い出したらどうやる気を出させればいいのだろう。そういう不安がずっと私の胸にはあった。
不安に思いながらも久しぶりに会うと、サイレンスアローはたくましく成長していた。
たっぷりとしたまつ毛の下には、しっかりとした意思を持つ瞳が光っている。そして話を聞いてみると、是が非でも優駿を制してダービー馬になるという極めて強い意志を持ち、更に十分な下準備をしていることを理解した。
彼になら私の夢を託してもいいと思った。
私は3歳まで自分の走り方を理解できなかった。東京優駿にも出走したが、好走できないまま走り切るのが精一杯だった。だが、サイレンスアローは違う!
当日に集まる競馬ファンの皆には是非……サイレンスアローの瞳に注目して欲しいと思う。
この仔はわかりやすくやる気をアピールすることは少ない。大好きなペルルの前以外では、本当に大人しい仔だ。
だけど何をしなければならないかきちんとわかっており、しかもやり遂げる力を持った仔だ。
だから、私が現役時代に使っていた覆面を送ろうと思う。
存分にターフで暴れてきてほしい!




