サイレンスアローの策
美浦トレーニングセンターに戻ると、真丹木調教師がタブレット端末をもって待っていてくれた。
「真丹木さん!」
「シュババ君、青葉賞制覇おめでとう……ペルルもあと一歩だったね」
「今日は彼に、親子どんぶりにされてしまいました」
親子どんぶりというのは、同じ馬主か調教師の管理する馬が2頭以上出走して、1位と2位を独占することだ。こういう冗談を言えるなんて、ペルルもだいぶ日本に慣れてきたなと思う。
「はははは……それくらいの余裕があるのだから頼もしいよ!」
真丹木が言うとペルルも少しだけ照れくさそうにした。
「約束を果たせなかったので、私は予定通りオークスで戦いたいと思います」
真丹木調教師は頷いた。
「わかった。後で板野社長に伝えておくよ」
ペルルは納屋へ戻る際に、小生の耳元で言った。
「ダービー馬になることは……貴方に任せるよ」
小生はしっかりと彼女の目を見て頷いた。
真丹木と2人きりになると、小生はあらためて聞いてみた。
「ところで真丹木さん。お父さんはなんて?」
「ドドドなら、美浦支部に来てくれと言っていたよ」
「…………」
小生は共同通信杯が終わった後のことを思い出していた。
グランパ牧場の美浦支部で転がりながら電話をしていたとき、お父さんに頼んだことはモニター越しにアドバイスしてもらうことだ。
お父さんにも種馬としての仕事があるため、どちらかと言えば小生の方が予定を合わせる形になるだろう。
真丹木に連れられてグランパ牧場の美浦支部へと到着すると、何と父ドドドドドドドドドの姿があった。
「お、お父さん……!」
「共同通信杯や青葉賞の戦い……じっくりと見せてもらった」
彼は険しい表情で言った。
「名馬サイレンスアローは、去年の暮れに行われた朝日杯は先行策を取って失敗してから戦術を変えた。共同通信杯は後方から、青葉賞は最後方から勝負を挑んで勝った。つまり……負けられない東京優駿でも後ろからくる」
小生が頷くと、ドドドは笑った。
「私が他の厩舎の先輩馬なら、そう考えるだろう」
「調教師でもそう思うだろうね」
真丹木も同意してくれたようだ。
「お父さん。小生が密かに仕上げてきた伝家宝刀の技……使い物になるかどうか、しっかりと吟味してもらっていい?」
ドドドドドドドドドは頷いた。
「もちろんそのつもりで来た。東京優駿では、武田騎手やDメル騎手や福原騎手はもちろん。ブルのヤツが慕っている健治お兄さんや、困ったときの大川騎手が揃い踏みするだろう」
「日本ジョッキーオールスターズだね」
ドドドは笑った。
「楽しそうだな」
「そこに新人を卒業したばかりの恵お姉さんで殴り込みをかけるんだよ。つまらないはずがない!」




