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エレオノールペルルの恋馬

 観客席はどよめきに包まれていた。人々は電光掲示板の着差を次々と指さして近くにいる人と話をしている。

 小生とペルルの着差がハナという結果に、驚きを隠せない人が多いようだ。


 一方ペルルは、鼻血が止まらない小生を心配そうに見つめていた。

「大丈夫?」

「もうじき、血も止まると思う」


「……なら、大丈夫ね」

 ペルルの姿はとても小さく、普段の気丈な少女とは思えなかった。

 小生には彼女の気持ちがとてもよくわかった。今までペルルは負けたことがない。最大のライバルであるサイレンスアローにここ一番の決戦で負けたのだから、ショックも大きいだろう。


 本当に彼女に嫌われたいのなら、ここでデリカシーの無い一言を放てばいい。だけど、僕は本当にエレオノールペルルのことが好きなんだ。こういうときに、どういうふうに振舞えばいいのだろう。

「私に勝って……嬉しくないの?」

「嬉しいよ。だけど……優駿で君と走れないことが残念だ」

 そう答えるとペルルは悲し気な表情でこちらを見てきた。


「着差をアタマ差にできなかったことを、悔しがっている訳じゃないのね?」

「しつこいよ。あれは偶然そうなっていただけだから!」

 自分でもびっくりするほど不機嫌な声が出たが、ペルルは安堵と落胆の入り交じった表情をした。

「そう……」


 何だか誤解されたままというのも嫌だと思いながら、小生は立ち止った。

「ペルル……」

 彼女は意外そうに振り返った。

「どうしたの?」


「何馬身突き放せば、君は僕を認めてくれる?」

 そう質問をすると、ペルルは笑みを浮かべて答えてくれた。

「もうとっくに認めているよ。しいて言うならば……次の優駿で私たちの強さを示して欲しい」

「…………」

「…………」

「うん!」


 話を聞いていたDメルと恵騎手は、安心した様子で微笑んでいた。

 きっとエレオノールペルルはもっと強くなって現れるだろう。だけど、それでいいんだと思う。小生たちは自分に与えられた才能を無駄なく使い、少しでも限界に近づくことを目指して行けばいい。

 もちろん、身体を壊さないように……という一番大事なことを忘れてはいけないけれどね。


 恵騎手が言った。

「そういえばシュババ君」

「なんだい?」

「もうレースが終わったから言うけど……真丹木調教師から伝えたいことがあるって」

「わかった」

 小生は美浦トレーニングセンターに戻ると、真丹木調教師に会って詳しい話を聞くことにした。

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