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青葉決戦

 5月初旬。15頭のライバルたちが東京競馬場に集結した。

 グレードワンのポテンシャルを持つ馬も混じるなか、観客たちの視線は2頭のウマに集まっていた。


 1番人気、葦毛のG1馬エレオノールペルル。

 G1阪神ジュベナイルフィリーズ、G1桜花賞、G2チューリップ賞の3つの勝ち鞍を持つ名牝である。

 そして2番人気が、栗毛のG2馬……小生こと赤リボンのサイレンスアローだ。

 G2東京スポーツ2歳ステークス。G3共同通信杯。G3札幌2歳ステークスの3つの重賞勝ち鞍を持つ小柄な競走馬だ。


 3歳馬で最も強い馬と、3歳馬で最もクセのある馬の対決を見るためか、この青葉賞は開始前から大いに盛り上がっていた。

「メグちゃん、お互いに頑張ろうね!」

「はい。Dメルさん!」

 エレオノールペルルの背には、フランス出身の名騎手Dメルが跨り、小生の背にはいつも通り新発田恵騎手が跨った。

「……」

「……」

 そして小生とペルルは視線だけで挨拶を交わして準備運動を行う。今日は天候も良く芝の様子も良好。更に風も穏やかなので絶好のレース日和。

 馬たちの態度に眼力、騎手との息の合い方を観察していると、最後の直線で誰が前にいるか、誰が追い上げてくるのかおおよその検討がつく。

 多分だが、今回は小生とペルルの一騎打ちになるだろう。ならば……走り方ひとつしかない。


 各馬はスムーズにゲートへと収まり、ペルルも、そして最後に小生もゲートへと収まった。

 東京競馬場の2400メートル戦が……いま始まった!



 全員が問題ないスタートを切りペルルは5番手に、そして小生は最後尾へと付けた。


――この負けることの出来ないはずの戦いで……追い込み!?


 ペルルはそう言いたそうに小生を睨んできた。しかし、騎乗しているDメルの表情は納得したと言わんばかりだった。


――アリだね。この青葉賞は2400メートルの戦いだ。今までこんなに長いレースを走った経験はないのだから、序盤から終盤のどこに体力があっても無駄にはならない


 メルの表情の通り、2400メートルは東京競馬場を文字通り1周する。スタートの直線、第1コーナー、第2コーナー、向こう正面でも平坦なコースが続くが、最後に控える直線コースには面倒な上り坂がある。


 実際に向こう正面まで走っているが、順番が入れ替わった馬はいない。

 ペルルだけでなくライバルたちの数頭が小生を見てきた。恐らく、何をしでかすかわからない小生が最後尾を走っていることが不快なのだろう。

 ペルルはと言えば、ゴチャゴチャと考えることを止めたようだ。彼女の背には経験豊富な騎手が跨っている。彼の指示に従えばいいと判断しているように思える。


 先頭が第3コーナーへと入るとペルルは少しずつ動き始めた。

 第3コーナーの中腹で4番手に上がり、終わり付近で3番手と並び、第4コーナーへと入ると3番手を抜き去り、中腹で2番手と並んだうえに1番手とも距離を詰め、後半で2頭とも抜き去った。

 Dメル騎手も満足そうに頷いている。どうやらこれは彼とペルルの作戦通りの展開のようだ。


 小生は相変わらず最後尾だ。ペルルとの距離は目算で16馬身差……おおよそ39メートル。

 ペルルが今、最後の直線コースへと足を踏み入れた。彼女からゴールまでは525メートルある。

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