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動き出すペルル

 小生たち牡馬が皐月賞を意識していたとき、エレオノールペルルは桜花賞制覇を達成するために動き出していた。

 彼女が攻略しようとしていたのはグレードツーに指定されているチューリップ賞である。

 桜花賞もチューリップ賞も阪神競馬場で開催される上に、距離も同じとなっているため、文字通り前哨戦となるレースである。


 ペルルはここでライバルたちと相まみえたが、4馬身近い差を付けてゴール。最優秀2歳牝馬の実力をライバルたちに見せ付ける結果となった。

 勢いに乗る彼女は、グレードワンのレース桜花賞でも堂々とした姿でライバルたちを威圧した。

 そしていざレースが始まると、先行馬としての強さを存分に発揮し、栗東を中心とした猛者たちを次々と置き去りにして1着ゴールを決めた。



 彼女が帰ってくる日、小生はグランパ牧場美保支部の芝生の上に転がって、お父さんと電話をしていた。

「そう……じゃあ、弟にエッチな本が見つかったと……」

【ミホノスピカは、あのファイルがただのエッチな本でないことを見抜いていた。もう少し暗号は工夫すべきだな】

「じゃあ、可愛い弟には稼げ! と言っておいて」

 父さんは電話の向こう側でクスッと笑った。

【わかった。あと……例の件も前向きに検討しておこう】

「頼んだよ!」


 電話を終えるとタブレット端末を鼻先で操作した。今度はペルルのデータを見るためである。

 今の彼女の成績はこうなっている。


新馬戦            1着 着差6馬身半

G3アルテミスステークス   1着 着差4馬身

G1ジュベナイルフィリーズ  1着 着差1馬身半

G2チューリップ賞      1着 着差4馬身

G1桜花賞          1着 着差2馬身半


 まるで、年末に年度代表馬に選ばれたチャチャカグヤ姉さんの戦績を見ているようだ。こんな牝馬にケンカを売るとは、幼少期の小生も豪いことをしてくれたものだと思う。

 そう独り言をつぶやいていたら、姿を見せたペルルが小生の戦績リストを咥えていた。


新馬戦            1着 着差アタマ差

G3札幌2歳ステークス    1着 着差アタマ差

G2東京スポーツ杯2歳S   1着 着差アタマ差

G1朝日杯フューチュリティS 2着 着差アタマ差 勝者:シリウスランナー

G3共同通信杯        1着 着差アタマ差



「お祝が遅くなったけれど、共同通信杯の優勝……おめでとう」

「ありがとう」

 ペルルは自分の置いた小生の戦績リストをじっと眺めていた。

「しかもきれいにアタマ差で勝つなんて、偶然にしては出来すぎているね」

「最初の2戦は狙ってやったけど、残りは偶然だよ」

「……そう」


 エレオノールペルルはじっと小生を眺めていた。こちらの言ったことを疑っている様子はない。むしろ、強い関心を示している表情だ。

「サイレンスアロー。貴方は昔……私にとって唯一無二の馬になると言っていたよね」

「うん。その約束なら果たすつもりだよ」

「私もまた、サイレンスアローにとって最も恐ろしいライバルになりたいと思っているの」


 小生は唾を呑んだ。彼女の恐ろしさは同じ厩舎にいるので日常的に理解している。いやむしろ、小生ほどエレオノールペルルの恐ろしさを知っている競走馬もいないだろう。

「…………」

 彼女の瞳をじっと眺めると、小生のリストのシリウスランナーと言う場所を映していた。そしてその表情はとても気に入らなそうに見える。


「……もしかして」

「実は私……さっき、板野社長と話をしたの」

 頷くと彼女は話を続けた。

「次の青葉賞で優勝すれば、東京優駿に挑戦してもいいとチャンスを貰うことができたわ」


「まさか……君は僕を……?」

「ええ、青葉賞も東京優駿も1着馬の欄に私の名を刻み込みたい。そうすればサイレンスアローも誰が一番恐ろしいか身をもって理解する」


 何が彼女を駆り立てたのかはわからない。わからないけど、これほど恐ろしい馬と組み合ってはいけないと、昔の小生なら思っていたんだろうな。

「エレナ」

 そう呼ぶと、エレオノールペルルは目を丸々と見開いた。普通はペルルと呼んでいるので、とても気になるのだろう。

「な、なに……?」

「何を目標にしようが、それは君の勝手さ。だけどね……」

 そこまで言うと、小生は強くペルルを睨みつけた。

「うちの牧場には、種馬としての競争に敗れた馬に……もう一度チャンスを与えよう。夢を持ってもらいたいという思いで……一生をかけて、その血を繋いでいこうとした男がいた」


 ペルルは喉を動かした。

「僕はその、まだ見ぬその人に敬意を持っている。優勝レイを持ち帰って、その努力は無駄でなかったことを証明したいと思っている」

 ペルルは一歩身を引いた。

「この思いを壊しに来るというのなら……僕は化け物となって相手をしよう」

 そう言って微笑むと、ペルルは恐々とした表情のまま笑った。

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