皐月賞の戦い
この日、中山競馬場には18頭の駿馬たちが集まった。
1番人気はホープフルステークスと弥生賞を制したウマナミジミー。倍率は1.7倍と高い人気をたたき出している。
2番人気はシリウスランナー。ヒダカダーロの人気は4番である。
小生はその様子を、グランパ牧場美保支部から観戦していた。
どのライバルが東京優駿戦で妨げとなるのか、今からしっかりと確認しておきたいと思う。
入場から準備運動。そしてゲートへと同級生たちが次々と誘導されていく。
赤い旗が掲げられると、中山競馬場のスタッフたちは駆け足でゲート前から立ち去っていった。
「いよいよか……」
ゲートが開くと同時に18頭の駿馬たちが駆けだした。
競馬場は歓声に包まれていたが、競走馬たちの打ち鳴らす蹄の音が力強く観客席にまで響いてくる。その中でも特に強い音を響かせていたのが、先頭を走るウマナミジミーだった。
5番手にはヒダカダーロの姿があった。どうやら彼は先行馬として戦うようである。
200メートルほど走ったとき、馬群が2つに分裂をはじめた。
先行するウマナミジミーのグループと、5番手以降を走るヒダカダーロのグループである。更に走り続けても2つの群れの差を埋めようとする競走馬は現れずに、両者の差は開くばかりである。
第2コーナーになると、ウマナミグループとダーログループは6馬身ほどに広がり、ウマナミジミーが下り坂を折りていく。第3コーナーに入ると、10馬身近くヒダカダーロたちは突き放される展開となった。
するとヒダカダーロの表情が厳しくなった。彼は少しずつ脚運びを速めて馬群を牽引していく。先頭を走るウマナミジミーとの差は、第3コーナーの中腹で8馬身ほどに縮まり、第4コーナーの中頃で5馬身差となり、最終直線前では、分裂していた群れも合体した。
現在の1番手はウマナミジミー。2番手はヒダカダーロ。両者の差は2馬身まで縮んでいる。
ゴールまであと280メートルほどで、遂にウマナミジミーとヒダカダーロは横並びになった。彼は慌てることなく先頭をヒダカダーロに譲っている。坂道で再び挽回できると計算しているのだろう。
ほぼ同時に、最後尾からシリウスランナーの追撃も始まった。
ラスト200メートルの急坂を前に、先頭はヒダカダーロ。ウマナミジミーは2番手。シリウスランナーは7番手に位置している。
坂道に踏み込むと、ヒダカダーロの足さばきは切れ味を増した。5馬身近く放されていたウマナミジミーも対抗するように坂道を駆け上がるが、思ったよりも差が縮まらない。
先行する2頭に立ち向かうようにシリウスランナーも速度をあげた。
ヒダカダーロは危なげなく坂道を駆け上がっている。2番手のウマナミジミーとの差は少しずつ縮まっているが、中腹でも3馬身半のリードを保っており、シリウスランナーの追撃もヒダカダーロには届かないようだ。
先頭のヒダカダーロが坂道を登り終えた。残り100メートル。
残り50メートルに差し掛かったとき、先頭は依然としてヒダカダーロだった。
2番手のウマナミジミーとの差は2馬身。3番手のシリウスランナーとの距離も3馬身半である。シリウスランナーの追い込みには勢いがあり、残り30メートルでウマナミジミーと並んでいた。
残り20メートル。先頭はヒダカダーロ。2番手はシリウスランナー。その差は2馬身。
残り10メートル。先頭はヒダカダーロ。2番手はシリウスランナー。差は2馬身半。
ヒダカダーロはペースを緩めずにゴールした。
2番手のシリウスランナーとの差は2馬身半。シリウスランナーとウマナミジミーの差は半馬身だった。
そのレースを全て見終わった小生の顔は笑っていた。これほど心躍るレースを見たのはずいぶん久しぶりな気がする。
彼らと東京で戦いたい。どこまで自分の力が通用するか確かめたいと、心の底から願っていた。
「ダーロ……」
小生は唇を震わせながら呟いた。
「君に相応しい二つ名は暴君じゃない。不屈という言葉こそ相応しいと思う」
皐月賞 優勝:ヒダカダーロ




