G1馬になりたいライバルたち(後編)
真夜中にダートコースへと行くと、月光に照らされて砂粒が光っていた。
「見慣れたダートコースも、こうやってみると普段とは違った感じがするな」
「うん。なかなか雰囲気が出てるよね」
そう言いながら砂の上に寝転がると、きれいな星がきらめいていた。
「ああ~ これこそ青春だ!」
「お前、絶対に故郷でも不良馬だっただろ」
「そんなことはないよ。虐められる前に逃げてるタイプ」
「うそつけ! 今度、チャイロジャイロ辺りにでも聞いてみっか」
少し間をおいてから、小生は何気なく質問した。
「ダーロはどうだったの?」
「俺か? 俺はまあ……この性格だからな……」
そう言ってお茶を濁していたので、少し茶化すことにした。
「いじめっ子だったと……」
「バーロー! 逆だよ逆、いじめられてる方だ!」
そういうと、ヒダカダーロもダートコースに寝転がった。
「暴君の子供だってのに、俺は生まれるのが遅かったからチビでよ……特に仔馬のときはしょっちゅう、先に生まれたワルどもに追いかけまわされたぜ」
「ああ、うちにもそういうウマ……いたよ」
ヒダカダーロがこちらを見たので、小生は笑った。
「チャチャ姉さんに睨まれて、全員大人しくなったけど」
「ウソつけ! 絶対にそれお前にビビってるヤツだ!」
ヒダカダーロは再び空を見上げると言った。
「別に俺が虐められるのは構わねー。どうせ後で見返せばいいんだからよ。問題は……妹が前にしょげてたところだ」
小生はヒダカダーロに目を向けた。
「しょげてたって、どうして?」
「……妹も虐められてるんだよ。いじめられっ子はどんなに頑張ってもいじめられっ子のままって……そう思ってるんだ」
「なるほど。それが君の走る理由かい?」
ヒダカダーロは目を細めた。
「そうだよ。いじめられっ子だって頑張れば報われるってこと……妹にわかって欲しいからな。それもデビューまでに!!」
「なるほど。そうなると……皐月賞で頑張るしかないね」
「それ、どういうことだよ?」
「優駿は、何が何でも僕が取るからさ!」
そう答えを返すと、ヒダカダーロは笑った。
「言ってくれるじゃねえか! 首洗って待ってろ赤リボン!!」
小生が放牧先で休んでいる間も、ヒダカダーロは美浦トレセンで淡々と努力を続けていた。様子を見ていたエレオノールペルルの話では、鬼気迫るほどだったという。
そして、皐月賞の当日。小生はヒダカダーロを見送るために馬運車の前で待ち構えていた。
「……シュバカス! お前……放牧してたんじゃ……」
「何となく君の顔が見たくなって来ちゃったよ」
「気持ち悪ぃこと言ってんじゃねえ!」
そう言いながらもヒダカダーロは照れくさそうにしていた。
「じゃ、行ってくる」
「お土産待ってるよ~」
そう茶化すと、ヒダカダーロは不敵に笑った。
「優勝レイを見せびらかしてやるから、楽しみに待ってろ!」
間もなく、馬運車はゆっくりと走り出した。




