真丹木厩舎に戻ってビックリ
年が明けて1月の中旬。
美浦トレーニングセンターに戻ると、小生は愕然とした。
「チャイロジャイロ……何があったんだい?」
「話しかけないでくれ。今は集中して体を休めてる」
「……」
今まではサボりの常習犯であり、少しでも目を離すとペースを落とすお困り馬チャイロジャイロが、たっぷりと汗のにおいを漂わせるアスリートになっていた。
意味がわからない小生は、隣の納屋にいるグランパレードを見た。
「何があったの?」
「わかんねーけど、ウマ格が変わったように体を鍛え始めたんだ」
「ええ……」
普段は厳しい真丹木調教師も、嬉しいのか気味が悪いのか判断に困っている表情をしている。
「真丹木さん!」
「な、何だい……チャイロジャイロ?」
「明日はプール調教をお願いします。脚元にまだ少し不安がありますから」
「……お、おう!」
エレオノールペルルも、何とも言えない顔で言った。
「なんだか、サイレンスアローに対抗意識を燃やしているように思えるのですが……」
「そういえばコイツも、共同通信杯に出走するんだっけ?」
グランパレードが質問してきたので、小生は頷いて答えた。
「うん。でも急にどうして……やる気を出したんだろう?」
チャチャカグヤ姉さんも含め、4頭でチャイロジャイロを眺めると、当の本馬は飼い葉をガツガツと食べながら厩務員の三橋さんに「おかわり!」と言っていた。
グランパレードは難しい顔をしながらこちらを見た。
「去年の台風で、同級生たちが死んじゃったことを気にしてるのかね?」
「ああ、あれは酷かったもんね……」
小生は納得しかけたけれど、エレオノールペルルは首を傾げた。
「それなら、去年からこういう態度でなければおかしくありませんか?」
「確かに……」
グランパレードは再び視線を上げた。
「じゃあ、牝馬に振られた」
「そもそもチャイロジャイロだと、告白自体しないと思う」
「それもそうか」
今度はチャチャ姉さんが言った。
「では、サイレンスアローのように好きな仔ができた……とか?」
「チャチャさん、アイツはチャイロジャイロですから!」
「……」
「……」
これで全員が、それはないかと納得してしまうから困る。
結局なぜチャイロジャイロが、まじめにトレーニングするようになったのかわからないまま、小生たちは共同通信杯当日を迎えることとなった。




