ダービー馬の仔
はぁ……
ん? ああ、失礼した。我が名はシリウスランナー。
なぜ、ため息をついていたかと言えば、ついさっき(厩務員さんの)スマートフォン越しに父親から激励の言葉を貰ったからだ。
もちろん、父の種馬としての立場も理解している。
ダービー馬である父は種馬としての活躍も期待され、多くの牝馬と種付けをさせてもらえるように工夫してもらった。しかし数年かけて生まれてきた子供たちは凡走を繰り返し、700頭近い子供がいて重賞を制することができた者は、1頭しかいないという状況だ。
このままでは仕事がなくなってしまうという不安を感じているのだろう。そんな中で、我が重賞を制したから大変だ。
トレーニングを終えるたびに、厩務員のお兄さんが駆け寄ってきて「お父さんだよ」という具合になり、10分以上はお説教という状況になった。
期待してくれるのは凄く嬉しいし誇らしいが、これは少しばかり度が過ぎてはいないか? 放任主義では困るが、もっとこう伸び伸びと練習させてくれてもいいだろう。心配してくれるのは嬉しいが。
父と言えば、サイレンスアロー君の出走の話を耳にした。
なんでも、本人は放牧したがっていたが馬主や関係者の強い要望で出走することになったそうだな。父が話していたから、恐らくドドドさん辺りから伝わったのだろう。
サイレンスアロー君も馬主さんや父親から期待されて苦労しているのだろう。何だか親近感を覚える。彼の場合、桜花賞、優駿牝馬、秋華賞を制したお姉さんがいるから、かけられる期待は我以上かもしれない。
噂では、優れた相馬眼を持っていると聞いているし、今から会うのが楽しみだ。
もし、阪神競馬場で会ったら、その時は全力を尽くしてお相手しよう。
朝日杯フューチュリティステークスも、東京ダービーと同じで一生に一度しか参加できない大会だ。それも、牡馬にとって初めてとなるグレードワンの大会。
ここに呼ばれたのは名誉なことだと思う。父、母、関係者の人々のために是非……最初のG1馬になりたいところだ。




