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ウマナミジミーの胸中

 今喋っているのは、ウマナミジミーという競走馬です。

 栗東トレーニングセンターの片隅にある、木下厩舎に置いてもらっています。


 僕がサイレンスアロー君のことを知ったのは、牧場主が忘れていった雑誌を覗き見したときです。きれいな栗毛でまつ毛の長い彼を見て、最初は女の仔かと思いました。

 可愛いなと思って、木下調教師に聞いてみたら……男の仔だとわかってとても驚いたことを昨日のように覚えています。


 さらに驚いたのは、彼があの名牝チャチャカグヤの弟だということです。

 お父さんは稀代の逃げ馬ドドドドドドドドド。お母さんは大器晩成の砂の女帝カグヤドリーム。この組み合わせは、牧場関係者の間では奇跡の配合と言われています。羨ましくて涙が出ました。


 僕は……血に恵まれていません。お母さんの気性がとても荒かったから、真っ当な種馬を呼ぶことができなかったのです。

 もし、お母さんが後ろ脚で種馬を傷つけてしまったら大変です。小さな牧場なのであっという間に潰れてしまうでしょう。

 だから、僕のお父さんはケガをしても牧場に損害の少ない成績不振の馬があてがわられました。


 血統の悪い僕は、仔馬の時代からよく虐められました。

 体が大きかったから、将来はたくさん肉が取れるって何度言われたかわかりません。ノロマノロマとバカにされることが悔しくて、とにかく走り込みをしました。

 だけど、いくら体が大きくてもどうにもならないことってあるんです。僕は体が硬いから前に脚を伸ばそうとすると変な走り方になってしまいます。その姿が可笑しかったのか同じ牧場の仔馬に何度ゲラゲラと笑われたかわかりません。


 そんな中で、木下調教師は、サイレンスアロー君の走っている動画を見せてくれました。

 きれいなフォームでしなやかに伸びる筋肉に僕は心を打たれました。カーブを進む時の脚運びなんて、真似しようとしてもお月様とスッポンです。

 どんなに努力をしても僕の体は柔らかくならないし、滑るように芝の上を走ることができない。これが、良血馬でないウマの限界なのでしょうか?



 いいや。僕は君にとって最大のライバルになりたいんだ。こんな弱気じゃダメだ!

 東京スポーツ2歳ステークス。そこで僕は初めて君と会う。この身一つで君と走り合って……僕は成長しないといけない!


 幸いにも、木下先生は才能があると言ってくれています。

 世の中には僕のように血統に恵まれない競走馬たちが数えきれないほどいる。だからレースで勝って、そういう仲間たちにやればできるってことを示してくれと言ってくれています。

 僕自身も努力は才能に勝るということを信じたい。だから、レース中は最後まで喰らいついていくつもりだよ。

 だから、全力で勝負して欲しい!

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