マンモス娘から言いたいこと
私はリトルマンモスと言います。牧場の牡たちからは小さすぎて牝馬扱いしてもらえませんが、一応は牝馬です。
青崎ブルーマンモスファームに生まれ、父は2冠馬、母もOP戦を制した馬だったから血統はよく、仔馬の頃は色々なスタッフさんが期待してくれました。
だけど、私の体が少しずつ大きくなってくると、スタッフさんはあまり私に注目しなくなったのです。後から生まれてきた同級生に次々と背の高さを抜かれ、初めて私は背が低いんだってことを思い知りました。
大人になった私の体重は382キログラムしかありません。
だから関係者さんたちも、私を中央で走らせるのか地方競馬に就職させるのかで揉めていました。多分、血統が良くなかったら……地方行きになっていたんだろうな。
ここ青崎ブルーマンモスファームには体格の良い馬がたくさんいるから、小柄な私は悪い意味で目立ちます。とても肩身が狭いです。
長々と自己紹介してしまいましたが、私がサイレンスアロー君の噂を耳にしたのは、そんな肩身が狭い思いをしていた時でした。
去年にゲート試験をパスしたと聞いたときには、彼は天才だと思いました。恥ずかしい話ですが、私は歩法訓練というものが苦手です。
歩いているうちに頭が混乱して、並歩をしているのか速歩をしているのか駈歩をしているのかわからなくなるのです。だけど、サイレンスアロー君はその遥か先にいるのだから声も出せませんでした。世の中にはこんな天才がいるのかと唸ったほどです。
しかし、そんな天才と思われた彼でも新馬戦では苦戦しました。
4キログラムの重量軽減を活用して、左利きに有利な東京競馬場で戦っても着差はアタマ差です。名牝チャチャカグヤと同じ血が流れている超良血馬でもある彼でさえ、身体の大きさに恵まれなければ勝ち残れないのでしょうか? そうだとしたら……とても悲しいです。
あと、どうしてもサイレンスアロー君に言いたいことがあります。騎手が新発田恵さんのままというのはどうなのでしょうか!?
札幌2歳ステークスは重賞戦です。格の高いレースになると新人騎手のハンデはなくなります。うちのような大手牧場は腕の良い騎手とパイプが太いので、不公平と言いたいのかもしれませんが、いくらなんでもこんな投げやりな態度は頂けません。
おかげで同級生たちが緩んでしまって練習をサボってばかりです。今からでも武田騎手にお願いするべきでしょう。お姉さんの主戦騎手なのだから弟君のお願いにだって耳を傾けてくれると思います。それくらいの努力はして欲しいです!
そろそろ私は馬運車に乗ります。
青崎社長は札幌2歳ステークス奪還に燃えています。去年は貴方のお姉さんのチャチャカグヤに、うちの先輩馬3頭が返り討ちに遭いました。
だけど、今年は私たちも本気です。体重500キログラム級の牡馬3頭に、ダービー馬の息子2頭、更にリーダーであるマンモスウォーリア君と、クレセントマンモス君は外国の良血馬を父に持つアスリートです。
私はオマケのような存在ですが、それでもお呼びがかかりました。
うちの社長はサイレンスアロー君に、勝機を1パーセントも残さないと言っていましたから……




