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大型台風の襲来

 グランパ牧場美保支部。

 小生はこの日もトレーニングを終えると、牧場で砂浴びをしている姉チャチャカグヤに話しかけた。

「ところで姉さん」

「何でしょうか?」

「次はどのレースに出走するの?」

「8月の終わりごろに開催される、札幌2歳ステークスに出ようと思っています」


 それがいいだろうなと小生も思った。

 札幌競馬場は、アサルト産駒や小生たちドドド産駒にとって走りやすい構造をしている。いくら姉が強い競走馬と言っても賞金が3000万近く出る大会なのだから、有利な場所で戦うことは定石だと思う。

「姉さんなら、得意の逃げでビュンビュンと飛ばせるね」

「本格的な練習は8月になってからと真丹木調教師も仰っていますので、今のうちにゆっくりと体を休めたいと思います」


「た、大変だドドド!」

 真丹木調教師が飛ぶように父さんの所に走ってきた。

「どうした、真丹木兄さん!?」

「猛烈な台風が近日中に上陸するぞ!」

「なに……どこに!?」

「北海道南部だってさ!」

「何だって!?」

 小生は即座に柿崎ツバメお姉さんを見た。

「がけ崩れが怖い。崖の側にある納屋から馬たちを避難させてほしい!」

「すぐに手配するよ!」


 2日後には、台風は北海道南部へと上陸し、遠く離れた茨城県の美浦にも強風と大雨をもたらした。

 雨粒は次々とグランパ牧場の美保支部にある屋根を打ち、屋根が崩れてこないか心配になるくらいだった。

「……まるで雨の鞭ですね」

「うん、納屋の周りに川とか崖が無くてよかったよ」


 その直後に、小生の視界に気になるモノが飛び込んで来た。

「あ、あれは……間違いない!」

 お父さんが真剣な顔でこちらを見てきた。

「今の雑誌のようなものは……一体、何なのだ?」

「決まってるじゃないか、紙束だよお父さん」

「真顔で言うな!」

 拍子抜けしたのか、姉さんも目が点になっていた。


「馬鹿者。何か重要なものだと思ってしまっただろう」

「虚しいものだ。令和という豪雨の前では、どんなセンセーショナルな書物も紙束になっていく」

「ジュニアよ。何でお前はそんなにマセているんだ?」

「それには、岩よりも固く海よりも深い理由がある」

「ほう……その理由とやらを、是非お父さんにもわかるように説明して欲しい」

「不可能でございます父上!」

「こら! お前が父上というのは禁止だ!!」

「どうして!?」

「煽られているように感じる」


「お父さんは稀代の逃げ馬なんだ。容易く煽れると思うな」

 そうエレオノールペルルに言うと、彼女の機嫌は少し悪くなったようだ。

「何で私に言うの!?」


 そう思った直後に、ミシミシという低く響く音が聞こえてきた。

「……え?」

「……なに?」

「……はい!?」

 なんと、グランパ牧場、美浦支部の屋根が飛ばされ、無数の雨が納屋の中に入り込んできた!?

「ごあ……屋根が飛ばされたか!?」

「冷たい……というより痛いです!」

「今なら、どんなすさまじい発言をしても……許される気がする!」


「いいや、許されんぞ! さっさと予備の納屋に行くぞ。ついてこいお前たち!」

 お父さんはこういう時に頼りになるから好きだ。雨粒のせいでその姿が見えないことが問題だが……

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