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恵騎手の決断

 真丹木調教師や柿崎ツバメも、険しい表情で3本の鞭を眺めていた。


「どれが正解なのでしょう?」

「うーん……シュババ君ってM馬なんですよね。痛みが凄いヤツを使うと、快感を覚えてペースが鈍りませんか?」

「でも、シュババ君って音だけの鞭でスパートかけられますかね?」

「じゃあ、間を取って短いヤツ?」

「でも、メグちゃん……力がありそうには見えないよな」


 恵騎手はというと、目が女性ではなく騎手のものへと変わっていた。

 まるで刀に向かうよう雰囲気のまま鞭を取り、しっかりとその性能を確かめると、丁寧に置いて次の鞭を手に取った。

「……」

「……」

「……」

 彼女は最後の鞭を置いた。


「この鞭だね」

 恵が選んだ鞭は……何と彼女自身が愛用している物だった。


 その答えに、小生は舌を巻いていた。

 いろいろな道具を並べられてもなお、自分の愛用している仕事道具を一番と進めることは、相当こだわりを持っていないとできない。

 特に新発田恵は若いのだから、そう決断するまでに悩みも多かっただろう。

「今ので確信したよ。小生の主戦騎手を務められるのは……恵お姉さんしかいない」

「ありがとう。一緒に頑張ろうね!」


 真丹木たちやグランパスタッフたちも次々と、拍手を送っていた。

「おめでとう! サイレンスアローに認められたのは君が初めてだよ」

「というか、この仔に認められる騎手なんて、この世にいないんじゃないかと思ってた」


 厩務員の三橋さんの一言はとても手厳しいと思った。

「失敬な……小生だってちゃんとした騎手には敬意を払うんだよ。武田騎手とのやり取りを思い出せばわかるでしょ?」

「いきなり棹立ちをしてたよね」

「む~~~そういうこと言うと、名騎手に″お願いですから走って下さい″と言わせるようなウマになっちゃうよ」

「そう言わせたければ、もっとたくましくなりなさい」

 父に怒られてしまった。


 ひとしきり、スタッフや厩務員たちで笑っていると真丹木調教師が思い出したように言った。

「そうそう。そういえば今月の競馬雑誌に興味深い記事が載ってたよ」

「どんな記事?」

 そっと覗き込んでみると、そこにはブルーマンモスファームの誇る期待の2歳馬が特集されていた。


「さすがブルーマンモスファーム……」

「今年も良血馬ばかりだ」

 皆が雑誌に注目していた時、忘れられていたラジオが淡々とニュースを伝えていた。

【さて、次のニュースです。大型の台風が北海道南部に向かっています。中心気圧は910ヘクトパスカル……上陸時の最大風速は60メートル以上と予想され……】

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