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ブルーマンモスファーム

 チャチャカグヤが圧倒的な勝利を収めたあとも、中山競馬場は淡々と次のレースの準備を進めていたが、テレビの前の小生とエレオノールペルルは淡々……という訳にはいかなかった。

 理由は小生の一言が気に入らなかったのだろう。

「小生たちは運がいいね。あと1年……早く生まれていたら、彼女とやり合わないといけないところだった」

「それは……勝負に……敗れていくウマの考えよ!」


「そういう考えもあるかもね」

 そう答えながらテレビを見ていると、ペルルは耳を絞った。

「やはり、サイレンスアローは期待外れのウマですね。今のレースの感想を聞いただけでもわかります」

「僕を相手に一喜一憂してくれるのは嬉しいけど、考えを押し付けられるのは迷惑だな」

「そんなことで、私の中で最低なウマになれると思っているのですか!?」

「なれるよ」


 即答すると、ペルルは目を剥いて睨んできた。

「いいですか……今の私の中では、強大で恐ろしいチャチャカグヤ先輩と、情けない弟馬のサイレンスアロー君です!」

「冷静に考えなよ。チャチャ姉さんと一緒だと賞金は稼ぎづらい。別世代だと稼ぎやすい。僕はその事実を言いたいだけだよ」

「馬主に媚びへつらう姿勢……気に入りません。アスリートなら1番を目指すべきです!」

「アスリートとして自立したいなら、まずは自分の飼い葉代から」

「…………」

 ペルルは「ああ言えばこう言うんだから……」と不満を口にしていた。そんなに心配しなくても君の中で唯一無二のウマになる計画は順調に進んでいるから安心して欲しい。



 少しするとペルルの気分も落ち着いたのか、話しかけてきた。

「次のレースで注目すべきライバルは?」

「そうだねぇ……1番はやっぱり新発田恵騎手」

 再び、ペルルの機嫌は悪くなった。

「私は、馬の話をしているんです!」

「騎手とウマはペアだからね。自分と組む騎手以外は全部が敵だと思わないと」

「…………悔しいけど一理ある」


 ペルルは大きく息を吐いた。

「彼女のどんなところが気になるの?」

「相方のウマの調子がとても悪いんだ。この13頭立てのレースで5着に滑り込めば……腕は確かだと思う」

「こういうのを高みの見物というの?」

「用法としては間違っていないけど野次馬の方を勧めたいな。ペルルは女の子だけど」



 間もなくレースは始まった。

 距離は先ほどと同じ中山競馬場の外回り1600メートルだが、3歳馬たちの戦いなので、序盤から力強さが違う。

「新発田恵騎手とマンボマンモスは……後方で温存するつもりみたい」

「普段は先行馬としてしか戦いっていないマンボマンモスを後方に下げるとは……妙手だね!」


 相手陣営の作戦を誉めると、エレオノールペルルは驚いた様子で視線を向けてきた。

「あなたが他人の作戦を誉めるなんて……」

「? 別に珍しいことじゃないよ。好手は好手……悪手は悪手だからね」

「確かにそうだけど……」


 マンボマンモスは最終直線に入ると、一気に速度を上げた。

 その力強い脚腰を動かしていき、50メートルで1頭、100メートルで2頭、150メートルでもう1頭という感じで前へと進むが、結局6着どまりとなった。


「惜しかったわね」

「こういう結果になった以上は、事実を受け入れるしかないよ」


 ペルルと少し話をしてからテレビを消そうとしたら、画面にブルーマンモスファームの青崎新社長が映った。

「この人って……」

 よく見ると、新社長はご立腹のようだった。

「社長、今回……出走した馬が3頭とも凡走しましたが、いかがお考えでしょうか?」

「我が牧場や調教師は、万全な体調管理をしている。結果が及ばなかったのは騎手の采配によるものだ!」


 青崎新社長は、更に言葉を強めた。

「特にマンボで6着なんて結果はあり得ん!」

「では、あれは新発田恵騎手のミスと!?」

「ああ、あの小娘には二度とうちの馬は貸さない! 調教師やエージェントにもそう話を付けておく」


 ペルルは同情的な視線を向けていたが、小生は黙ってテレビを消した。

「確かこのブルー何とかという牧場……大手でしたよね」

「うん、青崎ファーム、吉川牧場、岡星レッドスバルは、我が国の3大勢力だよ」


 一流騎手でも馬主と折が合わずに契約が解消されることはよくある。まあ、6着で契約解消は八つ当たりをしているようにも見えるが、部外者である小生がとやかく言うべき問題ではない。

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