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弟、母と共に牧場に出る

 2025年の3月も下旬になったとき、弟は母カグヤドリームと一緒に放牧エリアに出てきた。

「おかーさん、これはなーに?」

「これはちょうちょ」

「ちょーちょ?」

「そう、ちょうちょ」

 ちょうちょとは大雑把な。仕方ない、ここは小生が正確に教えてあげるとしよう。

「正確にはスジクロシロチョウ。小生たちの住む北海道では5月くらいから出始めるものだけど、今年は暖かくなるのが早かったからね」


 弟と母はポカンとしていた。

「スジ……なんだっけ?」

「スジクロシロチョウ。中国東北部、シベリア東部、朝鮮半島、日本国内のほぼ全土でみられる蝶々みたいだよ」


 お母さんは目を点にしたままだが、頭の切り替えの早い弟、カグヤドリームの2025は脚元の草に視線を向けた。

「じゃあ、このくさは?」

「ノラニンジン。またの名をワイルドキャロット。ヨーロッパからやってきた帰化植物だよ」

「きか……ショクブツ?」

「お外の国からやってきた草という意味ね。花言葉は幼い夢。こんな見た目だけど道の隅とかにも生えることができる強い植物だ」


「え、えーと……お兄ちゃんほどでなくていいから、ほどほどに物知り博士になってね」

「う、うん……おかーさん」

「ちなみに、お母さんの名前はカグヤドリーム。優勝した一番おっきな大会はG1のチャンピオンズカップ」

「え、うん……」

「戦績は25戦6勝。稼いだ賞金は……2億と4200万円」


「に、におく……?」

「この牧場で、新人のスタッフさんが朝から晩まで働いて手に入るのが1万円という紙のお金1枚」

「う、うん」

「それを4年の間に、2万と4200枚稼いだってこと」

「そ、それって……とってもすごいことなんじゃ……?」

「うん。だからお母さんは凄い。ちなみにお父さんはもっと短い間にたくさん稼いでるよ」

 視界の隅にお父さんとお姉さんの姿があった。

 2人とも機嫌がよさそうなのは、僕が両親の説明をしたからかな?


「どれくらいたくさん?」

「お父さんは、1年と10か月くらいで4億円以上……つまり4万枚以上は稼いでる」

「そ、そうなんだ……」

「そうなんだよ弟よ」

 小生は一呼吸置いた。

「だから、お兄ちゃんからお願いだ。誰よりも速くなれ」

「う、うん……」

「そして、稼げ!」

 たっぷりと期待を込めたのだが、弟はキョトンとしていた。

 恐らく、お兄ちゃんの方が稼げるでしょと言いたいんだろうが、そんなことはない。お前の方が体も大きくなるし、セクシー牡馬になる可能性を秘めているんだぞ。


「こら、お兄ちゃん。貴方がまずしっかりしないと駄目でしょう!」

「全くもう。お母さんは厳しいんだから~」


 その直後に、のどかな空気を引き裂くような悲鳴が響いた。

 視界を少し動かすと、何とクマが乗り込んできている。しかも厄介なことに体の大きなヒグマだ。

「ヒャッハー!」


「坊や、下がって!」

 母カグヤドリームは、弟の盾になるようにクマと弟の間に割って入った。ヒグマも空腹なのか一番弱そうな弟に狙いを定めている。

 兄としては、2方向からヒグマを攻撃できるように立って、母を援護したいところだ。

「父上、母上!!」


 姉チャチャカグヤに同級生のエレオノールペルル。更に父ドドドも駆けつけてくれた。これで6対1になったのだが……クマも引き下がる気配はない。

 次のクマの狙いは、どうやら小生のようだ。

「ふははははははは……〇ねぇ!」

 ずいぶん遅いな。このクマ……寝ぼけてるのか?


 小生は「下がって」と言うと、クマの鼻先に左ストレート蹴りを見舞った。ポキュっという関節か小骨が折れる音が脚を通して伝わってきて、クマは血を噴き出しながら牧場の柵に後頭部をぶつけて倒れ込んでいた。

「……」

「……」

「……」

 近くで遊んでいた同級生やスタッフが驚くのはわかるけど、お父さんたちまで唖然としないでほしい。

 特にお母さんは、小生が牧場を抜け出して川で泳いでいたことくらいわかってるじゃないか。


 しょうがないから何かくだらないことでも言うとしよう。

「クマを相手にするときは、熊手を構えて自分を大きく見せるのも手だ」

 一同が固まるなか、姉さんはハッとした様子で言った。

「……それって、洒落ですか?」

「……」

「うん」

 場は一瞬にして白けた。


「これはクマったね、にいちゃん」

 弟よ。やはりお前はうてば響くお馬さんだ。ここは兄さんがしっかりと仕込んであげよう。


 そして、稼げ!

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