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天才仔馬のキュート()な乳離れ(前編)

 脳内レーダーが牧場内の異常を感知した。

 場所は第4納屋である。今まで使われていなかったこの納屋に複数のスタッフが出入りしている。

「ねえ、サイレンスアロー……どこに行くの?」

「言わないでくれペルル。僕は今……独自調査を行わなければならない」


 牧場内にチャイムが鳴り響くと、スタッフたちは作業を中断した。

「はぁ、やっとメシだ~」

「今日は豚の生姜焼き定食だったか……楽しみだなぁ」

「このまま順調に進めば夕方には終わりそうだし、たっぷりと休むか」


 スタッフが立ち去るのを確認すると、僕は第4納屋へと入った。

 造りは普段暮らしている第2納屋とよく似ている。さて表札を見ると……ブラウンカグヤ。マッスルカグヤ。カグヤカグヤカグヤ。

「これは、お母さんたちの名前じゃないか……」


 名前を追っていくと……やっぱりあったカグヤドリーム。なるほど。これが新しいお母さんの部屋という訳か。

「乳離れを行うとみて間違いないな」

「乳離れってなに?」

 ペルルが聞いてきたので、僕はコンパクトに答えた。

「仔馬を自立させるために、母親から引き離すことだよ」

「……」

「……」

 ペルルは表情を曇らせてから言った。

「それって、仔馬にストレスがかかるんじゃない?」

 さすがに経験者だけあって、乳離れの辛さがよくわかっているようだ。


「うん。だから親子の別れの時期をいつにするかでスタッフたちはけっこう悩むみたいだよ。乳離れをやると仔馬は泣き叫ぶし、母馬もそれに応えるから牧場中が大騒ぎになる」

「どうして、貴方はそれを知っているの?」

「姉さんや父さんから聞いた」

「な、なるほど……」

「だけど、僕は泣かないよ」

 そう微笑みかけると、ペルルは苦笑した。

「その心意気は立派だけど……貴方のお母さん、そこにいるよ」


 振り返ると母カグヤドリームと目が合い、僕は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。

「まさか、聞かれているとは……」

 エレオノールペルルはにっこりと笑った。

「幸せな親子生活もあと少しなんだから、甘えてきたら?」

「心配は無用だよ……僕を誰だと思ってるの?」

 ペルルは少し考えると答えた。

「脱走のエース」

「そう。いつでもどこでもお母さんに逢いに行ける。現に居場所は既に突き止めているからね」

 そう答えると、ペルルは笑いながらも、どこかもの悲しい表情をしていた。

 やっぱり、甘えるべき時期にお母さんに甘えられないというのは辛いことなんだ。


 第4納屋から出ると、ちょうどチャチャ姉さんと会った。

「やあ」

「サイレンスアローとエレオノールペルルさん」

「こ、こんにちは」

「ペルル、せっかくだし姉さんに色々なことを聞いてみたら? 牝馬同士でしか話せないこともあるでしょ」

 そう話してみると、ペルルは表情を和らげた。

「そうね。チャチャカグヤさん……」

「私もエレオノールさんと、お話ししてみたいと思っていました」


 僕は姉さんやペルルと別れると、母カグヤドリームを追いかけた。

「母さん!」

「サイレンスアローも隅に置けませんね。いつの間にかガールフレンドまで作っちゃって……」

 表情を引き締めると、母さんも真剣な表情をした。

「……どうしたの?」

「母さん……お願いがあるんだ」

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