表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

第9話 〜希望の世代 ヤミ〜

【平和の象徴】ギルドメンバー File.3


 ヤミ・アーム


「何故ですか!? 何故アイツをそんなに贔屓するのですか!?」

「ガーデ。ならば、ヤミに勝って見せろ。1人で一師団と同じ実力を持つ、暴れ馬を」

 闇ギルド、緊急集会。第9師団のユラが殺られ、10ある師団のトップが集まる中、1人だけ居ない人物がいた。

 それは第0師団といわれ、師団員は1人しかいない特級師団。彼一人で他の師団と遜色がないと言われる、最強の師団。

「ユラが殺られたのですよ! あの忌まわしき仮面集団に! 今すぐに仮面集団の正体を暴いて全員で押しかけるべきではないですか!? なのにこんなに大事な集会なのにヤミは来ていない!」

「そんなにヤミを贔屓する理由が分からないのか、ガーデ?」

 背筋をなぞる凍る声音で女は、ガーデを静める。闇ギルド最強といわれるギルドマスター。ニアは白の衣装と、煌びやかな宝石を身につけ。薄い下着のドレスのような服装。チラチラと見える谷間と太ももは、脇は誘惑そのもの。ユラに引けを取らない、美貌で長いテーブルに置いてあった、葡萄をもぎり、パクッと1口。

 ガーデは冷や汗が止まらなくなり、首が1周、薄く切れ、赤い血の輪っかが出来る。

「よし、静かになった。ユラの変わりは私が探そう。私達の目的は元よりダンジョンの解放だ。仮面集団ではない。では、解散」



「クソ喰らえだ!」

 岩壁にめり込む、ガーデの右手。ヒビが当たりを埋めつくし、彼の握力の強さを物語っている。

 身長3メートル。スキンヘッドで髭を蓄えた、無骨な印象。黒の修道服を身につけている。第4師団を纏める、云わば4番手となる実力者。才能値は【92】。

 才能値とは云わば、その人物の強さの値。ダンジョンでモンスターと邂逅し、倒すまで、どの武器を使い、どの技を使い、どんな戦い方をしたか。その中で培われた経験が、才能に直結する。

 才能値が高ければ高いほど、平均的な身体能力は高く、そして各々突出した才能を積んでいく。ガーデならばこの握力。2メートルに及ぶ巨躯な腕を伸ばし、人やモンスターを掴めばそこで勝利は確実になる。他にも魔法や武器の扱い方、才能値が高ければ高いほど何かしら自分の武器を持っている。

「ヤミ……。どうもアイツはきな臭い。神出鬼没であり、アイツが現れると必ず師団員を殺す。許されているのはそれ相応の仕事をしているから。だが、違うだろ。師団員を殺すあの目付きは、私怨でしかなかった。ギルドマスターは……何故あいつを!」

 ガーデは自分の首をなぞり、唾を吐き捨てる。

「殺してやる。ギルドマスターの寵愛を受けるのは私なんだ……!」




「おっ? ヤミ、得物の修理か?」

「ああ。頼むよ、ミルク」

 庭の工房。肌が焦げるように熱い工房。石造りの工房の壁にはハンマー、炉、鞴、金床な、山積みの石炭。入口付近には樽の中に乱雑に置かれた失敗作。

「……これが失敗なんて、ミルクは凄いね」

 白の包帯のようなものを顔に巻き付き、鋭い目付きしか顕になっていない相貌。華奢な体つきで、163センチほどの身長と白の動きやすそうな長袖、長ズボンの服装。暗殺者をイメージする、服装に似合う、青色の長刀をミルクに差し出す。

「1本100万ゼイウスで売っても遜色はないよ」

「あははは、それを売る気はないな。武器ってもんは使用者を守るためにいる。使用者を最後まで味方してくれるのは武器だ。武器は裏切らない。だから、俺は武器が一生最強の味方でいてくれるような武器を作る。ヤミのようにメンテナスにしょっちゅう来てくれる奴がいると嬉しいよ。こいつは必要にされてるって、職人冥利に尽きるよ」

 ミルクは腰に下げてあった布を頭に巻く。茶髪の短髪が隠れ、優しい目付きが垣間見る。ミルクは「今日も見てくか?」とはにかみながら言うと、ヤミはああ見てくよと出口付近の丸椅子に腰をかける。ミルクは棚に置いてあった砥石を取りだし、置く。一呼吸、双眸を刃に集中させ、押す。工房が眩く光り、ミルクは額に大量の汗をかく。

「一刀入魂。1回研ぐだけで、常軌を逸するほどの気迫が伝わる。本当に凄いよ。って……もう聞こえてないか」

 ミルクの集中が、世界と自分を断絶させる。黒の瞳に瞼が閉じることはなく、呼吸も浅い。死に際と隣り合わせ、目の前の得物に全神経を注ぐ。1回、1回、1回と数を重ねる毎に、ヤミの相棒が輝く。血を吸いすぎ、人を殺し、ボロボロだった刀が息を吹き返す。ヤミも呼吸を忘れ、その至高の領域を目を奪われる。

「…………出来たぁぁぁぁぁぁぁ」

 ミルクは、椅子から崩れ落ちて、寝そべりかえる。ヤミはすかさず腰にかけていた水筒をミルクに渡す。ありがとうと快活のいい返事で水を一気飲みする。

「お疲れ様。ありがとう」

「どうってことねぇよ。この刀は思いれ深いからな。俺の至高の作品の一つだ。扱いも難しいし、手入れも難しい。その分、俺の腕も上がり、自信もつく。一石三鳥だよ」

 人を寄せつけるような笑顔で、応える。ヤミは刀を柄を掴む。刀身をなぞるように見て、刀を軽く振る。

「試し斬りするか?」

「大丈夫。これから人を殺すから」

「たっは。物騒だな本当に」

 ミルクはよっとと体を起こす。

「ヤミ。俺は武器を作る奴には覚悟と矜持がいると思っている。武器を作るなら俺が間接的に人を殺し、人を痛める物を作っている。ヤミと同じくらい俺も罪を犯している。まあ、なんつーか。毎度いっているが……」

「僕の正義を振りかざせ……だろ?」

「信頼しているヤミの正義で人が死ぬなら、俺はまだ俺を保てる」

 ミルクはにひっと白い歯を顕にし、ヤミも優しく微笑んだ。



 ピタっと雫が垂れる。岩窟に靴底が擦れる音が残響する。ゼイウスの地下深く。ヤミは包帯を顔にまきつけ、その秀英な相貌を隠している。目の光を失い、まるで無願と思わさせる雰囲気。

 ヤミが岩窟の角を間がろうとした、身を翻した時。顔を覆うどてかい手。

「死ねええええええええええええ!」

 静かに、ボトボトと”2本”の指が落ちる。次に2、3と青い刀を振り、青い流星の様にガーデの横を過ぎる。

 ガーデは瞠目もせず、踵を踏み込み腕を後ろへ。

「ヤミぃ!」

「ガーデ……どうした? その私怨塗れの瞳は?」

 切れ落ちた指がブクブクと治り始め、ヤミの刀が指に挟まれる。ヤミは舌打ちをしながら、手を離し回し蹴りをガーデの顎横に入れる。全く効いていない。彼の体が硬すぎる。

「殺しに来たんだよ! 分かるだろ、俺の気持ちが!?」

「分からないな。君の気持ちなんて」

 ヤミは横へ走り、岩壁を蹴り、ガーデの頭に踵落とす。ガーデは顔を醜く歪ませ、ヒヒヒっと笑い出す。

 岩窟に響くその声色は、背筋が凍るようなもの。ポトっとガーデの鼻に雫がこぼれ落ち、歯茎が顕になるほどに哄笑する。

 ガーデの指が掠った、ヤミの太ももの肉はクレーターのように肉が取れる。足から頭へとピギッと痺れる痛み。

「寵愛、お前だけがニア様の寵愛を受けている! お前が1番特別だ! 欲しい欲しい欲しい欲しい! 俺もニア様の!」

「ただの嫉妬か。嫉妬ほど、醜悪なものはない。はっ、笑えるな」解れた包帯から薄笑いを浮かべ、ガーデの耳朶を震わす。

「武器の力だけで成り上がった、矮小な奴が……。私を叱咤する気か!?」

 怒りが沸点に達しているガーデは岩肌を掴み、ヤミの足元までヒビを入れる。ヤミの足元が揺れ、体勢が崩れ、手を地面につける。瞼を閉じて、開けると長い腕がムチのようにしなりヤミの肩を握る。

 体がメキメキと悲鳴とも呼べる、警鐘を鳴らす。ガーデの握力は化け物だ。掴まれたら逃げることは不可能。ヤミは2メートル先にある刀に目をくべる。

「相棒を馬鹿にされてとてつもなくウザいよ。僕は」

 ヤミはガーデの腕を強く握る。メキメキ、ブチブチ、ガーデの額に冷や汗が滲む。

 ヤミはすまし顔でガーデの右腕を投げ捨てる。

「僕達の正義は全員捻曲っている。世間一般からしたら正義とはいえないかもしれない。僕の正義は友達を傷つけた人に鉄槌を下すことだ」

「ぐうっ! 何をごちゃごちゃと! 腕が無くなったとしても私は負け——」

 ヤミは懐から仮面を取る。黒に染められた仮面。目の部分が穴が空き、それ以外は全て真っ黒。仮面を被ると、青の瞳が陽炎のようにゆらゆらと揺れる。グラグラと空間が揺れ、ヤミは詠唱を始める。

「【闇を纏え 光を喰らえ 希望を喰らえ】」

 ヤミは人差し指と中指を立たせ。

「【闇深(オプスキュリテ)】」

 ヤミを中心とし、爆発をしたかのように闇が周りを埋め尽くす。光明などを消し去る。

「ははははは! あはははは! お前が、お前が仮面集団の1人だったのか! いいぞいいぞ! これを知らせたら、私は寵愛を! 希望の世代ともいわれるお前を俺は——」

「減らず口は死ぬまで減らなかったね」

 迷宮都市(ゼイウス)には至宝と呼ばれる誰も敵わない、存在が4人いる。1人は大派閥の冒険者ギルドに、1人は最弱冒険者ギルドに、1人は孤独に、1人は流浪に。その4人の後を追う、希望の世代。天上天下唯我独尊の至宝を狙い、追いつき、時代に名を刻もうとする最強の世代。今宵、1人の希望の世代はまた名を刻む。

 ヤミは青い刀についた血を、垂らし。仮面を脱ぎ、包帯を巻く。自分の相貌を誰にも見せたくないから。自分が——

 女だとは知られたくないから。

 まだ夜は長い。【平和の象徴】戦闘員のヤミは闇に身を包み、消えていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ