第7話 〜過ちを正す〜
「ミラー……?」
「あ、お父さん」
「その手記を見たのかい?」
書斎の灯りをつけた父親。青髪のオールバックにベージュのスーツを着こなし、体が震えている。
養子で引き取ったミラーと、使用人が跋扈する屋敷で誰も入れない場所。ミラーが居なくなったと喧騒に包まれた、屋敷で父親はまさかと書斎を訪れると、ミラーは父親の手記を拝見していた。
そこには過去の過ちと懺悔がツラツラ書き綴っていたもの。
「お父さん……これって……」
ミラーの瞳に写り返してくる、自分の姿は哀れだった。皮肉なものだと、父親はミラーへ歩み、腰を落とす。
「ミラー、昔話をしよう」
父親はミラーに恥じぬように、顔を苦渋に歪めながらも昔話をする。
「僕には愛する妻がいたんだ。妻は病弱でね。病床に寝たきりだった。薬を飲み続けていたんだけど、彼女は薬を受け付けない体でね。どんどんと衰退していったんだよ」
父親は遠い昔でもなく、今、この時でもその瞬間を頭の中で再現出来ていた。時計の秒針がカチカチと鳴る、この部屋で父親は娘の手を不格好に握る。
「その時、いい話が舞い込んできてね。病気が治せる特攻薬が出来たと聞いて、僕はその話に飛びついたんだ。だけど、その薬には先約者がいてね。その手記の通り、彼の交渉を妨害したんだ」
父親は僕は計画者で直接手を加えた訳では無いのだけどと、 口を曲げる。ミラーは父親の言葉を真摯に受け止める。
「でも、その時にはもう遅くて、妻は亡くなったんだ。悲しかったよ、絶望に打ちひしがれたよ。そんな時に君に出会ったんだ。僕にはミラーが輝いて見えたよ」
父親はミラーを乱雑に抱きつき、頭を懇篤撫でる。一時の静寂が訪れ、父親は力を入れる。
「罪を償ってくるよ。もう逃げるのは疲れたんだ。ミラーはこんなに大きくなって、こんなに可愛くなった。僕の幸せの貯水室はいっぱいだ」
父親は頬を釣りあげて、目尻を下げて優しい笑顔をになる。ミラーと父親はは滂沱の涙が止まらなかった。
「ごうかーく」
屋敷の屋根上。ミラーは瞼を開けて、快活な声でいった。蛙の仮面を揺らし、屋根上から忽然と消えた。
「デュフフ、夜ももう終わりか」
下着を履き、一張羅に着替え始める、小太りのおじさん。肌蹴ている、金髪でボブカットのミラーは着替えているおじさんを後ろから抱擁する。おじさんは鼻下を伸ばし、まだまだやるぞとズボンを脱ぎ出した時、ミラーが誘惑する。
「ワシン様、小耳に挟んだのですが。昔、悪いことをしたとか」
「……悪いこと? 私は悪いことをしすぎてねぇ〜。どのことかいってくれないと分からないよ」
「強盗。1人は計画者、1人は腕利きの元冒険者、1人はそこまでの準備をしたワシン様」
「デュフ。ミラーちゃん、いいことを教えてあげよう。それには語弊がある。私は何も関わってない。証拠もない。それ以上戯言を続けてみろ、君は私のお気に入りではなくなるぞ?」
目を見開き、黒色の瞳を大きくさせる。腰をなぞり、肩をなぞり、腕をへし折る。ボギィッと音がなり、ミラーは腕を押えて、床に崩れる。
「私は超お得位様だ。脅そうと考えない方がいい。今日はこれぐらいの贖罪で許してやる。次、私に変なことを言ってみろ。どうなるか、考えなくても分かるだろう?」
「……お得意様ねぇ〜。それで何をやってもいいと思ってる。ただの傲慢じゃない?」
後ろから幼女の声が聞こえた。傾聴しなくても、耳に入ってくる声に、ワシンは背後を振り向く。お日様が城壁を貫き、灯りを超過し光を纏った、ゴスロリの幼女。ワシンは瞠目し、傍にあった鞭を掴む。
「仮面集団……本当にいるとは思わなかったよ。私の前に現れるということは君たちのご法度を破ってしまったのかな?」
ワシンは鼻息を荒くすると、ミラーは窓淵からコツンと下りる。
「貴方、才能値64。相当の腕前ね〜」
「ははは! 情報を認知しているのなら話はやい。私は幼女をいたぶる趣味はないし、犯す趣味もない。君のような貧相な体つきは、興奮もしない」
「あら、わちゃしの魅力が分からないのは勿体ないわ。いいよ、来て」
ワシンはベロっと唇を一周して、鞭をしならせる。蛇の牙の如く直進する、鞭にミラーの肩へ。物凄い音がしたあと、痛くない。と言葉を吐き漏らし、男の首が落下する。
「こういう男が大っ嫌い。もっと華奢で、初心な子がいいな〜」
血が散漫する部屋で、蛙の仮面を被ったミラーは、腕を折られたミラーの腕を撫でる。すると腕があっという間に治り、もう1人のミラーは笑顔で会釈した。