第6話 〜過ち〜
「ふんふふーん」
「およよ? ミラーちゃん、出勤?」
「うん! まーたいい顧客先手にいれちゃった。ゼイウスで7店も果物屋を経営している、大金持ち。これで美味しい果物食べ放題だよ」
「そりゃあ、いいネ! 僕も美味しい果物、待ち遠しいな。あぁ、アレやってよ。東の国の食べ物で、お餅って物に果物を包むの。誰だっけかな〜、東の国の出身の人貰ったんだけどちょー美味しいの」
リビングのような空間で、ソファーに寝そべる、男性。黒髪をポニーテールにし、細身、2メートル弱の身長で、弓なりのような紫紺の瞳。黒色の作業着のような服装で、煎餅をボリボリと食べている。ゴスロリ姿のミラーは、頷き、黄金色の瞳を煌めて、金髪のツインテールを揺らし、行ってきまーすとリビングを出ていく。
「今日も今日とて皆、良く働いてるねぇ〜。ちょーいいネ!」
「あれ? ミラーちゃん、どうしたの? 夜空なんて見ちゃって?」
閉店した花屋。この時期は百合の花が人気。明日からフェアーを開催するこの花屋で、百合の花をせっせっと店内へ運ぶ、花に似つかわしくない筋骨隆々。半袖の上にジャージのエプロンを着て、ミラーを心配する。
「店長はいつからこのお店を開いてるんですか?」
「……あー。6年前かな。冒険者から足を洗って、開いた店だ。2年前に経営難に陥ったけど、よく保ち続けてるよ。お得意様も出来て。今日のおばちゃんにここの花が一番綺麗って言われるとやっぱり嬉しいもんだよね」
店主はそれで? とミラーに話を投げかける。ミラーは、金髪の長髪を靡かせながら振り向く。
「ある人から聞いたんですけど、2年前。ある有名な果物屋の社長からお金を奪う事件が発生しましたよね。あっ、そういえば経営難が解決したのもその時期ですね。その時の借金は150万ゼイウス……とかでしたか?」
「———ミラーちゃん、どうしてその話を?」
「3人の配分は3対1対6。店長は300万ゼイウスを貰ったとか? 不思議ですよね〜。怖いですよね」
ニコリと邪気のある頬笑みを浮かべる。店長は全身の汗腺が開き、汗が流れる。ミラーはこつこつと靴底を鳴らし、店長へ近づき、店長はジリジリと後ろへ後退していく。
「知っていますか? 襲った男性のお金の使い道を?」
「……し、知ってるよ。あの金は闇ギルドへの支払い金だったんだろ? 俺は悪いことはしてない、あの金は人を不幸にするお金なんだ!」
店長は語気を強め、机の上に置いてあった花鋏を掴む。内心、バクバクな彼の心は、彼の思考の正しい道を逸れていく。
「あら、知らないんですか? そのお金は娘を助けるためのお金だったんですよ?」
「——う、嘘をつけ! そんな出鱈目を俺は信じねぇ!」
震える右手を左手で押え、あぁぁぁぁ! と上擦った叫び声で、ミラーの胸を刺す。
「俺は……俺は。ここで花屋を辞めるわけにはいかないんだ! 冒険者時代の……死んだ相棒の信念を継いでるんだよ!」
頬が痙攣し、双眸の光をなくしていく店主。ミラーは店主の震える手を撫でるように触る。
「これは糾弾するまでもない。貴方は今もこれからも罪を犯していく。そんな人はこの世に要らない」
ボトッとミラーの腕と足が黒の液体になって、崩れていく。床に散布した黒の水。店主はうわぁぁぁ!? と瞠目し、腰が崩れる。
「何が……何が起こったんだ」
「なーにが、起こったのかしらねぇ〜」
「だ、誰だ——!?」
「可愛いわちゃしよ」
男の首が180度に反転させられ、グギィッと音が静寂な花屋で残響する。蛙の仮面を被った、ミラーがため息混じりに、首を引きちぎる。この人は道を間違えた。刺さなければ、罪を懺悔すれば、道に戻ればよかったのに。運命を間違えた。
「【産まれろ】」
ブクブクブクと床に零れた黒の液体が集結し、またミラーが産まれる。
「君はこの店を継いで、生きてくれ。いいね?」
「はい、姉さん」