三題噺第35弾「楽園」「洗濯機」「バカな小学校」
ここは“楽園”だ、と誰かは言っていた。
たしかに飯はうまいし、温泉はあるし、女性は美しい。
けど、何か物足りない。
なんだろう。このモヤモヤした気持ちは……。
そうか、俺はサバイバルがしたいんだ。
飯も、温泉も、女もいらない。
いるのはただひとつ。
ジャングルを駆け抜ける道具。
それだけでいい、それだけあれば生きていける環境で生きていたいんだ。
ここを出よう。
「すまんが、ここを出て行く」
「ここを出て行くと言うのか、なぜだ?」
仲間のヒゲもじゃの彼が止めるが、俺はもう決めたんだ。
「ここは楽園かもしれないが、物足りないんだ。サバイバルの環境に身を置きたいんだ」
「じゃあこうするしかないな」
ドキューン。
「うっ……」
俺は……撃たれた……のか……。
このまま……なにもせずに……死ぬのか……。
「起きて、起きてってば」
「ん、んん」
「いいかげん起きてよ」
目の前には赤いランドセルを背負ったツインテールの小柄な少女が立っていた。
「ん? ここは?」
「何言ってるのよ、授業中ずっと寝てて、もう帰る時間よ?」
ん? 俺は撃たれて死んだような。
手を見ると小さな手がそこにある。
夢だったのか?
「さ、帰ろ」
「手を引っ張るなよ」
教室を出ると、5ー2と書かれた札がかけてあった。
“バカな小学校”だと?
夢にしてはリアリティがあったなぁ。
「それにしても、こう君はよく寝るよね。夜寝れてないの?」
「そうか?」
「うん、心配になるくらい寝てる」
「そんな寝てるのか?」
「今日なんて五時間目からずっと寝てたよ?」
「今日だけだろ」
「ううん、昨日だって寝てた」
昨日、昨日ね。まったく思い出せない。
「じゃ、俺こっちだから」
「俺? こう君が俺なんて変」
あれ、夢の一人称がうつったのかな。
さっさと帰ろ。
「じゃあね」
「ただいま」
「おかえり」
家に帰ると、“洗濯機”の中に体操服を放り込む。
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