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黎明の森に深く沈む  作者: 津村
93/107

現在7 傷痕③


「私たちね、今日ここへタイムスリップをしてから、色んなことを思い出して、色んなことを知ったの。紗夜ちゃんと理事長の話も聞いたし、橘先生の日記も読んだ」


 紗夜ちゃんの見開かれた目に、大人になった私が映る。


「私は最初、紗夜ちゃんがここへ来たことは不運だと思った。紗夜ちゃんは知らなくてもいいことまで知ってしまったから。でも、知ることは大事なことだと思う。知ったからこそ、できることがある」

「真由ちゃん」

「私たちがなんでタイムスリップをしたのかは分からない。でもこうなったのには理由があると思う。誰かが何かをしなくちゃいけないって。きっと目的は一つなの。確かなことは何も掴んでいないから、ハッキリと言えないけど……。 だから、この時代で何があったのか、私に教えて欲しい。この学校へ来た紗夜ちゃんと同じ。知ったから、すべきことがあるの」


 真剣な私に、紗夜ちゃんは戸惑いつつも頷く。


「これから先の未来に何があったかは分からないけど、真由ちゃんたちの力になるなら、なんだって教えてあげる」

「ありがとう」


 机に寄りかかる紗夜ちゃんが、足を組む。


「そうね。最初はね、何も知らなかったの。私、中学生の時に心臓の移植手術をしてね、それから心臓の記憶や感情を共有するようになって……それでこの学校のことや、藤堂先生のことを知った。初めは驚いたし、当然いっぱい悩んだ。夢にしてはリアルで、悲しいことだったから。でもね、記憶の詳細が気になって仕方がなくなった。まるで小説をなんとなく読み進めるうちに、いつの間にか夢中になってしまった感じ。私は強烈に知りたくなったの。特に、心臓の持つ最期の記憶の人物は誰なんだろうって」

「橘先生のこと?」

「そう。知りたかったから、努力をしたわ。それでやっとこの学校に入ることができた。これも知ってるかな、私と理事長は親戚なの」

「はい、橘先生の日記に」

「親戚なのに、大叔父から声をかけて貰うまでにかなりの時間がかかった。あの人は真面目だから、生徒に実力のない教師はつけたがらないのね。……あ、これは自慢話」


 ニコッと笑う紗夜ちゃんに、私も笑い返す。


「ここへ来て、色々と調べた。茉莉子のこと、茉莉子が好意を抱いてた先輩のこと、そうしてこの心臓の記憶を辿っていくうちに、最期の記憶の人物が橘先生であることを突き止めた」

「茉莉子さんを殺した犯人を知って、紗夜ちゃんはどうするつもりだったの?……復讐したかった?」

「それは難しい質問ね。結果として橘先生も被害者だった訳だし。余命がすぐそこまで迫ってる中で、とても罪を償えとは言えなかった。でも犯人探しをしている時は、確かに復讐心はあったかな。私は茉莉子と一心同体だったから、彼女と同じように悔しさも強く感じてた」

「殺めようと?」

「それはない。絶対に真相を吐かせてやろうとは思ってたけど。私ね、今日明日にでも死んでしまいそうだったところを、茉莉子に助けてもらってるの。だから命の重みはよく知ってるつもり。だからこそ、私はどうしたかったのかな……。それがあなた達が入学した頃の話」


 確かに紗夜ちゃんの立場は難しい。


 私でもきっと堂々めぐりをしてただろう。


「柊平くんとの話を聞いてもいい?」

「うーん。そうねぇ。生徒にこういう話をするのには抵抗があるんだけど、十七歳の真由ちゃんに黙っていて貰えるなら、今回だけは、ね」


 わざとらしいウインクをするその一瞬の無邪気さに、私は紗夜ちゃんが人並みの幸せが描かれたコートを身に纏っているように感じた。


 かつての自分のように、刹那的なように。







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