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001 ハンバーグにも色々あるみたい

珍しく自分の誕生日が水曜日だったので、記念にUPしてみました

 最寄り駅から自宅まで歩いて五分弱にある自宅は、私からすれば移動や買い物にとても便利な場所。

 そもそもここに引っ越してきた時は、駅周辺に居酒屋が数軒、スーパーが一軒、洋服や雑貨店が数軒と、少し淋しい感じだった。

 けれど住み始めて数ヵ月後に駅前開発が始まり、二年程かけて綺麗に整備された駅周辺にはお洒落なカフェやこだわりのある飲食店、更には駅ビルなんて物まで出来てしまったので、様々なお店が開店した。そのおかげで周辺にはお洒落なマンションやお店が建ち並び、いつしかファミリー層や独身女性に人気のエリアとなっていた。


「は~…今日も頑張った!」


 駅から自宅まで一切寄り道をせず、とにかく自宅であるマンションへと急いだ。その理由はちょっと恥ずかしいけれど、とてもお腹が空いていて、早くご飯が食べたかったから。

 ようやくマンション入り口に辿り着いた途端、私はつい声を出してしまった。

 …ご近所迷惑になるかもしれないけれど、毎日こうやって無事に帰って来た自分を褒めるようにしている。勿論それには理由もあって、『今日も頑張ったぞ!』『きちんと仕事してきたぞ!』『不健康じゃないよ!』という意味を込めている。

 私――小竹紗矢加おだけ さやかが住んでいるこのマンションは駅前開発前に出来たものだけど、未だ綺麗だと思う(外観や内観も)。それでも新しく出来たマンションと比べると、小さく感じてしまう。

 …そりゃ向こうはファミリー層を狙っているマンションなので、こちらと比べると部屋数や広さも全然違うもんね。けれど独り身なので不満や不便はないし、何より駅前開発前に契約したので、周りと比べて家賃が安くて助かっている。

 しかしいつまでも入り口に仁王立ちしているのは迷惑になるので、早々にエレベーターで自宅のある階へと昇る。運良く誰もエレベーターを使っていないので、すんなりと移動することが出来た。

 そうして自分の部屋がある階に辿り着き、鍵を差してドアを開けた。


「ただいま~」


 声を出すと同時に室内からお味噌汁の匂いがしてきて、この食欲をそそる匂いをつい嗅いじゃう。


(ああ、今日のご飯はなんだろう?)


 クゥ~。

 ご飯を想像して、そしてお味噌汁の匂いにつられたからか、お腹が小さくなっちゃった。

 恥ずかしい思いをしつつ、玄関の鍵を閉めて靴を脱いだ。

 ガチャン。

 鍵を閉めた音に気付いたのか、それとも私の帰宅の声に気付いたのか、台所のドアが開いて、ひょこっと同居人――倉橋圭悟くらはし けいごが顔を出した。


「さやちゃん、おかえり」


「ただいま~」


 圭ちゃんは私の二歳下の幼馴染。最初に圭ちゃんと会った時は、圭ちゃんの兄――私と同級生の壱葉いちはの後にピッタリと付いていた。

 私といっちゃんは幼稚園に入る前からの遊び友達で、毎日公園やお互いの家で遊んでいた。そこに何時しか圭ちゃんも加わり、次第に三人で遊ぶようになっていった。

 けれど私といっちゃんが中学校を卒業してからは疎遠になり、つい二ヶ月前に久々に再会した。

 それもうっかり私が入院してしまったその病室に、突然母が圭ちゃんを連れてやって来たのだ。

 毎日点滴にお世話になっていることや寝たきりなのが少し恥ずかしかったけれど、圭ちゃんとは思い出話や中学卒業後の話などで盛り上がった。どうやら入院している私が退屈しないようにと、話し相手になってくれたようだった。

 ふと気になって圭ちゃんの現状を聞いてみると、どうやら料理の腕や研究をするため、様々な飲食店でバイトをしているという。

 しかも調理師免許も持っているらしく、バイト先では厨房で働いているそうだ。そんな圭ちゃんは何故か料理上手なことをアピールしてくる。

 その話を一緒に聞いていた母からの言葉もあり、退院後には即同居。そして今では私専属の健康管理兼料理人みたいな感じに。…うう、確かに時間が無くて料理を作る…いや、食べることすら出来なかった私にとっては、本当に圭ちゃんが来てくれて良かった、って思ってるけど、いつまで居てくれるのかな…。

 いずれこの居心地の良い時間が無くなってしまうと想像すると、ちょっぴり淋しいけれど、でもいつまでも圭ちゃんをここに縛り付けておく訳にはいかない。

 気を取り直した私は明るい声で訊ねた。


「今日のご飯は何?」


「今日はハンバーグ風だよ」


 ニコッと圭ちゃんが笑う。私はハンバーグと聞いて、思わずテンションが上がってきた。


「やった! ハンバーグ大好き! それじゃ先に荷物置いてきちゃうね」


 久しぶりのハンバーグが嬉しくて、スキップする勢いで洗面所へ向かい、手洗いうがいをしてから自室へと向かう。

 荷物を置いて、部屋着に着替えている時もついハンバーグのことを考えちゃってる私。どんだけ食いしん坊なんだか…。

 あれ? そう云えば圭ちゃんは「ハンバーグ風」って云ってたけど、何か違うのかな?? 


「今日のハンバーグはなんだろう? 王道のケチャップソース? それともデミグラス? あっさりした大根おろしや玉ねぎなんかの和風ソースもいいよね…。あっ、洋風だったらチーズは乗ってるのかな? それとも中に入ってる? 和風だったらお豆腐とかひじきもありだよね。あっ、蓮根入りも美味しいよね。う~ん…見るのも食べるのも楽しみ♪」


 とにかく圭ちゃんが作る物はお店に負けないぐらい…いや、お店に勝てるぐらい美味しいと思う。それも特に私が好きなメニューだったら、もっと美味しく感じるのは何でだろう? やっぱり幼馴染だから好みの味付けとか知ってるからかな?

 着替え終えてルンルンと浮かれながリビングへ向かうと、テーブルの上にはお箸とコップが置かれていた。


「何か手伝うことある?」


 ひょこっとキッチンへ顔を出すと、お肉を焼いている匂いがした。キッチンの主である圭ちゃんは最後の仕上げをしていた。


「う~ん…それじゃごはんと味噌汁を用意してくれる? あと小鉢も」


「分かった」


 云われた通りに炊飯器から炊き立てのご飯をよそい、鍋から熱々のお味噌汁を掬った。あっ、今日のお味噌汁はシンプルに豆腐とわかめ、あと玉ねぎが入ってる。くたくたになった玉ねぎがお味噌の出汁を吸ってて美味しいんだよね~。

 もうこのお味噌汁だけでも美味しそうだよ!!と思いながら、それらをテーブルに並べていく。ちなみに小鉢は小松菜とじゃこのおひたし、人参サラダだった。


「出来たよ」


 私がご飯とお味噌汁を並べ終えたのと同時に、圭ちゃんがハンバーグを乗せたお皿を持って来た。


「うわ~!! 美味しそう!!」


 目の前に現れた大好きなハンバーグを見て思わず感動してしまった。

 どうやら今日のハンバーグにはソースがかかっていないので、どんなソースなのかワクワクしていた。すると圭ちゃんはハンバーグの後に小鉢を持って来た。そこには大根おろしが入っていた。

 ああ、今日は和風なんだ。これにポン酢醤油にかけて…って想像するだけで涎が出ちゃう。

 すっかりテンションが上がっている私を見たらしい圭ちゃんは苦笑していた。


「さやちゃん、ハンバーグに見惚れるのはいいけど、熱々のうちに食べちゃってね」


「あっ、そうだね!」


 慌てて椅子に座り、圭ちゃんと共に「いただきます」を云ってからご飯を食べ始める。

 まずはお味噌汁を一口。ゴクッ…。ふわ~温かくて心が落ち着く~。

 そして次は大好きなハンバーグ。そのお皿には付け合せとして焼き野菜――じゃがいも・蓮根・かぼちゃ・オクラ・ミニトマトが乗っていた。この焼き野菜もポン酢醤油で食べるとさっぱりしてて、焼肉のたれだとこってりで美味しいんだよね~。

 まずはお箸でハンバーグを一口サイズに切り、最初は何もつけずにそのまま食べる。


「ん?」


 ふんわり爽やかな香りと共にシャキッとした食感がある。こ…これはまさか!!


「蓮根入ってる?」


「正解」


 あとこの爽やかさとこの独特の味は…大葉?

 じっくり味わうようにモグモグと口を動かしていると、ほんの少し酸味を感じた。


「ん?」


 この酸味は…。蓮根、大葉と云えば…。


「梅干だよね?」


 和風のハンバーグで相性の良い物を考えた結果、梅干じゃないかと思った。

 すると圭ちゃんはふわりと笑って「大正解」と云ってくれた。


「蓮根はしゃきしゃきだし、それに梅干と大葉がさっぱりしてて美味しいね。これだったら何個でも食べれるよ」


 無事中身を当てることが出来て、私はニコニコとハンバーグを食べ続けた。勿論大根おろしも乗せて――梅干が入っているからポン酢醤油はほんの少し。うん、そのままでも美味しかったけれど、大根おろしを付けるともっとさっぱりして、お箸が止まらない。

 焼き野菜も下味が付いているらしく、どれもそのまま食べても美味しかった。でも時々味変として大根おろしやポン酢醤油をかけたりしてみたけど。

 小鉢も箸休めするには丁度良い味付けで、モリモリ食べてしまった。

 ご飯を堪能しながらも、いつものように今日の出来事やTV番組の内容なんかを話しながら、圭ちゃんと楽しい食事をしていた。しかし今日は大好きなハンバーグなだけあって、いつもより早めに食べ終えてしまった。


「圭ちゃん、今日も美味しかった。ありがとう」


 こうやって圭ちゃんが毎日ご飯を作ってくれるので、私はいつも美味しいご飯を食べることが出来ている。

 いつものようにお礼を云うと、微笑みながら「どういたしまして」と答えてくれる。


「そう云えば…なんでハンバーグ風って云ったの?」


 帰宅後にメニューを聞いた時のことを思い出し、思わず訊ねてしまった。だってこれって和風ハンバーグじゃないの?

 すると圭ちゃんは「う~ん…」と呻りながら答えてくれた。


「本当のハンバーグってもっと肉々しいというか、ジューシーでしょう? 今日のは合いびき肉を使ったからハンバーグとも云えるけど、基のレシピではつくねの材料なんだよね。それを応用した物なんだけど…これは正式にはハンバーグって云えないかも?って思って」


「?」


 分かりやすいようにと圭ちゃんが説明してくれたけれど、私にはハンバーグとつくねの違いが…鶏肉なのか、牛・豚…といった肉の違いしか分からなかった。私から聞いておいて何だけど、折角説明してくれたのに分からなくてごめんね。

 私が呆けているからか、圭ちゃんは苦笑していた。


「まっ、今はこういうのは和風ハンバーグって云われたりもしてるから、食べる人たちが納得してくれれば、それはハンバーグなんだと思うよ」


 多分食べる側の人――私だってそんな難しいことを考えながらハンバーグを食べたくないよ。

 だから私はニコッと笑って、思ったことを口にした。


「今日のハンバーグも美味しかったよ。また食べたい! でも圭ちゃんが話してくれたつくねも気になる!」


 思わずそう告げると、圭ちゃんはニッと笑った。


「そうだね。次はつくねを作ってみるよ。僕としてもさやちゃんが毎日美味しそうに食べてくれるから、つい張り切っちゃうんだよね」


 楽しそうに笑う圭ちゃんに少しだけ腹が立ち、私は不満だという態度を取る。


「もう、それってただ単に私が食い意地が張っているような云い方じゃない!」


「あはは、ごめんね」


 頬を膨らませている私に圭ちゃんは謝りつつ、当の私は今日も圭ちゃんの美味しいご飯を食べてエネルギーを充電出来たのだ。

 よし、また明日も頑張るぞ!!


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