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八.神剣の仕業

倒れたティアナを看病し、丸二日が過ぎた。


ジュミルはあのあと慌ててベッドに運び、急いで氷水を用意して、彼女を看病した。


いつものようだと思ったが、いつも以上にティアナの熱は高く下がらず、目を覚まさなかった。


「姉さん。このままじゃ…」


下がらない熱に、連続寝込んでいたための栄養不良に、このままでは本当に死んでしまう。


「やっぱり医者を…っ」


でも、そのお金が手元にない。薬を買ったり、医者をあまり呼ばなかったのはティアナにもはっきり言われていたからだ。


「金がなくても…そうだ!ルードリッヒ様に頼めば…っ」


ハッと思い出したように、ドアの方に体を向けると、その近くの壁に置いていた神剣に目が入った。


「な…!?け、剣がっ!」


置いていた神剣が眩い光を放っていた。


ジュミルは微かに息を呑み、何が起きているのか確かめようとそれに近づこうとした。刹那、目が眩むような眩い光が彼を襲い、視界を奪われる。反射的に目を庇い後退した。


「うわっ!一体なにが…っ!?」


何が起こったのか、混乱する中、光は徐々に弱まり始めた。ジュミルが再び目を開けると、そこにあったはずの神剣が無くなっていた。


「えっ?なんで!?どこにっ!?」


ギョッとして周りを見渡し、もう一つの変化に気づいてしまう。今の今まで、ベッドに寝込んでいたティアナの姿が消えているではないか。


ジュミルは大きな悲鳴を上げた。








******





……剣とティアナが消えたその数分前。


ルードリッヒは頭を悩ませていた。


久しぶりに再会したティアナとまた、喧嘩のような別れ方をした。


修復するのは難しいと、もう諦めているが、神剣や獣神のことは別だ。


「全く、なんであんなに頭でっかちに…オッホン!おい…っ、リュード!いつまでもそんなところで落ち込んでいるんじゃない!」



目につくような場所じゃない。奥の壁脇で座り込み落ち込んでいる。それも獣の姿で。



あれからずっとあそこで落ち込んでいて、はっきり言って鬱陶しかった。


「ティアナ…嫌われた。もう、生きている意味なんてない」


よほど堪えたようだ。人間に化ける獣人族だと知られれば、昔と一緒にはいかない。数年のブランクもあり、態度も変わるだろう。


「おい、いい加減にしろ!そこでウジウジしていても彼女との関係はかわらないんだぞ!悩んでいる暇があったらもう一度行って縋りついて来い!」


自分もティアナとうまくいかなかったため、余計にイライラさせられた。ルードリッヒがうんざりして怒鳴りつけるが、リュードはふいっと顔を背け、聞く耳など持たなかった。


「…あのなぁ〜っ、一回だけでそうそう理解してもらうなんて無理なんだよ。あの性格じゃあ、一生かかっても和解なんてできないだろうなっ。本当に、厄介な女だよ」


続けてティアナの態度を思い出し、ネチネチ悪口を述べる。そうすることでルードリッヒは少しだけ気持ちが軽くなった。しかし、それを聞いたリュードが、落ち込んでいたと思ったのに、突然体を起こし、「グルル」と唸り声を上げた。

 ルードリッヒがハッとそちらを見れば、リュードが今にも噛みつきそうな勢いで彼を睨み、牙を剥いていた。


「黙れ!ティアナの悪口を言うな!」


急変したリュードに驚いたルードリッヒだが、自分が何故怒鳴られなければならないのかと、その理不尽さに、また苛ついた。


「…リュード。お前こそ立場を弁えろ!今はお前は私の使用人なんだぞ。間違って主人である私に偉そうな態度をとるな!」


ルードリッヒもイラついている事で、二人は険悪なムードに。


リュードは獣姿で噛みつきそうな勢いで威嚇し、ルードリッヒは主人として威厳さを保ちながら冷たく見据え、両者一歩引かずに睨み合っていた。


すると、突然。パッと二人の間に、唐突に光とともに剣が現れる。


ビクッと二人が驚きに動きを止めると、目の前の剣が現れたと同じく、ガシャン!と音を立てて床に落ちた。


ハッとして、二人は目が覚めたように我に返り、現れた剣に近づく。


「こ、これは…?あ…」


ルードリッヒが先にそれに近づいて手を伸ばすと、リュードも同じく剣の前に移動する。


「これって、神剣だ。なんで、急にここに…」


床に落ちた剣を間近で見て、それが国宝の神剣だと気づく。途端に剣が再び眩い光を放ち、二人の視界を襲った。


「うっ…!」


「くっ、何が……ぶへぇっ!!?」


次の瞬間、呻き声を上げたリュードと同じように呻めいたルードリッヒが突然潰れたような声に変わる。


「な、なんだっ!?えっ?…てっ、ティアナっ!?」


ルードリッヒの真上に突如現れ、彼を押し潰したのは、ここにいないはずのティアナだった。


リュードは慌てて近づき、ルードリッヒの背中の上で、ぐったりしている彼女にハッと顔色を変えた。


「まずい!呪いの症状が出てる!」


そう叫び、リュードは獣姿から人型に変わった。ルードリッヒの上からティアナを抱き上げてベッドに寝かせると、最初に現れた神剣を持って、自分の左腕を軽く斬りつけた。


「くっ…、これで…!」


斬り付けた傷口から血が滴る。神剣に自身の血がつくと、パァァと発光して、赤い血は不思議な現象を起こしてキラキラと輝く液体に変化した。


「ティアナ、薬だよ!」


ベッドに寝かせたティアナを再び抱き起こし、口元にその変化した血を近づけて声をかけるもなかなか口が開かない。このままでは手遅れになる。


「ごめん…!これしかないんだ!」


先に謝って、リュードは神剣に着いている変化した血を自身の口の中に入れてから、腕の中で眠るティアナの口を塞いだ。


「う…っ、ん…はっ!」


そのまま口の中にある液体をティアナの口の中に流し込むと、ごくんと彼女が喉を鳴らした。


「は…!ティアナっ!」


口を離して、彼女の様子を窺う。ぐったりして死人のように真っ青だった彼女の顔色が戻っていく。


「リュード!これは…!?何があった!」


床に下敷きになっていたルードリッヒが目を覚まし、慌ててベッドに近づいてくる。


「危なかったよ。…ティアナは神剣の気に当たりすぎて、毒に侵されていたんだ」


ルードリッヒが眉を寄せて、顔色が戻ってスヤスヤと眠り始めたティアナを見つめる。リュードは微かに息をつき、眠り出した彼女を見て安心したように微笑んだ。

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