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四,神の剣の光

光は失うことなく保っている。



こうも続くその光の輝きに心底反吐が出る。



主人を持たない剣。



獣神やその血を持つ獣人族がいたならさぞや活躍されていただろうそれは、今はただの飾りであり、一生真の力を発揮することなく朽ちてゆく。




「虚しいわよねぇ。このまま飾らせていても使われることなく、錆びていくだけ。神もいなければ獣人も居なくなったここで、何故いまだに、主人を求めているの…?」



目の前で輝きを放つ白い剣を睨みつけながら問いかけるが、剣から当然、返事はこない。



しかし、この剣が活躍していた当時、その剣にも魂があったと聞く。



獣神を倒すための神力を持つ光の神の代理であり、神と交信ができたと噂がある。



「勇者なんていないし、いてもどう探すべきか、分からない。ただ、私は…あの国から持ち出して、奴らが慌てふためくのを見たいだけ」



語りかけても無意味だが、未だにその栄光ある時を忘れないのか、この剣は悪夢を見せつけてくる。



あの夢はそうだと思う。



あの獣人、ルビーと呼ばれた美しい人外を見せて、この剣は自分を使えと案じている??



「はぁ〜…ダメだ」




少し疲れて、ベッドに再び寝転ぶ。



気分はどうにも良くならない。



「このまま、私を餓死させる気?初めよりはマシだけど、まだ本調子じゃないわ。油断すると、気分が悪くなるのよね」




剣を手離せば済む話だ。でも、それができないからどうにもならない。



「それにしても、ジュミルはまだかしら…?朝起きたらいなかったし、もしかして昨日持ってきたバイト先に行っているとか?」




弟ならあり得る。少しでもお金を稼ごうと、真面目に働こうとする。



「ふぅ…暇よね。ちょっと、出てこうかしら?動かないのもあまり良くないし、いつもよりは気分がいいから」



誰にともなく独り言を呟き、ゆっくりとベッドから立ち上がる。



ベッドに置いた剣を見て、このまま置いていくのもどうかと考え、それに手を伸ばした。



その瞬間、ビリリ!と指先に電流が流れたような痺れが走る。



「きゃっ!な、なに!?」


思わずそれを放り投げる。



ポスッと再びベッドの上に落ちた剣を訝しげに見つめた。



発光が、弱っていた。



代わりに柄に付いている三日月の紋様が紅く輝き、鞘が白から黒に変わっていた。




「どういうこと?今まで一度も、この剣が色を変えて…しかも、三日月が輝くなんて…」



こんな状態は初めて。



その黒く変化した国宝剣、その刻まれた三日月の紅い輝きは赤い光線となって、一直線に部屋の扉の方を指していた。



「え…?な、なんなのこれ?まるで、なにかを…そう、“なにか’’感知したような…」




急に変わったその剣に驚きながら、ゆっくりとそれに触れかけた時、バンバンバン!と扉を激しく叩く音がした。



「きゃっ!」



小さな悲鳴とともに、びっくりして後ろを振り返る。



「ど、どなた?」



こっそりと扉に向かって声をかけると、唐突に扉が開いて、外から喧騒変えて息を切らせたジュミルが姿を現した。




「ジュミル!あなた、今まで一体どこに…っ」



「説教は後だよ姉さん!それより、大変なんだ!」




無断で出かけた弟を一言叱りつけようとしたが、ジュミルが鬼気迫る表情でそれを遮り、ティアナの前に駆けつける。



そのただならぬ様子に、ティアナはさっと顔色を変えた。



「大変って、まさか、もうこの剣を盗んだのがバレて…!」



「違うよ!父さんから速便で手紙が来たんだ!」



バッとティアナの前に手紙を広げる。



「えっ?もうお父様から?」



昨日の今日で?と驚きに目を見開く。



「そんなことより、内容だよ!内容!一体手紙になんて書かれていたと思う?」



「え?内容って、まさか、お金の工面ができなかったってこと!?」




それは一大事だ。



ここで路頭に迷うなんて事、あってはならない!



だが、ジュミルは首を振って、



「ち、違うよ!そうじゃなくてっ…!彼だよ!彼!姉さんが手紙に書いた彼、従兄弟殿がこちらに来るそうなんだ!」



手紙の内容を早口にまくしたてる。その瞬間、ティアナの表情が固まった。



「なっ、なっ、なんですってぇっ!?あの男が、ここに、わざわざここに、来る…??」


ギクシャクとまるでロボットのような動きで、口をパクパクさせた。



「どうするの姉さん!しかも、来るのが今日の昼ぐらいって!あと、正午まで半刻もないよ!」



(これは、何か悪いことが起きる前触れかしら?)



そう考えて、ハッとしたように振り返ると、国宝剣の柄にある三日月は未だ紅い光を放っており、開いた扉から壁に向かって一直線に伸びていた。



「まさか…私の気持ちに反応して…?いやいや、それはないわ。奴に対する憎悪はあるけど、それがこの剣が感知しているわけがない」



思ったことが口を吐き、ティアナの言葉にジュミルが目を丸くする。



「姉さん?急にどうしたの?ベッドが何か……えっ?その剣、どうしちゃったの!?」



姉がぶつぶつと独り言を呟くため、そちらに気を取られたジュミルがようやくベッドにある剣に目を向けたのだ。



「えっ…?ジュミルも、見えているの!?この剣が黒くなって、紅く輝いているのが!」



驚いたジュミルの反応にティアナも驚いて、再び彼の方に振り返る。



弟だけじゃなく他の人もだが、この剣が毎日綺麗な光りを帯びて輝いている姿は見えていなかった。



ただの白くて飾りがいのある剣くらいにしか、見えないのだ。



「えっ?黒!?いや、そうじゃなくて、この剣がいつもと違って光っているから…!」




「剣が光って…?」



再びベッドに視線を向け、首を傾げる。鞘はいつもと違う色だ。



「ジュミル。あなたにはこの剣の色が何に見えて、どう光って見えるの?」



もしかして、彼には違う風に見えているのかと、ジュミルの方を向いて深刻そうな表情を浮かべた。



ジュミルは困惑したように、視線を姉と剣と交互に見つめた。



「僕には、この剣が白く見えているよ?それに、紅くとかではなく、全体が発光してるように見える」



ティアナの見えている剣とジュミルが見えている剣は一緒であって違うように見えているのか。



驚きと困惑に姉と弟は国宝剣を眺めると、コン、コン、と再びノックの音がした。



ハッとしてそちらを振り向く。



扉の前には、金髪碧眼に白い服を着た若い男性が立っていた。



「あ…っ、ルードリッヒ殿!」



ジュミルが男性を見て声を上げる。



ティアナはその名にギョッとした。



「この人が…ルードリッヒ?」



思わず訝しげに呟く。



ティアナが前に会った記憶の中の彼と、目の前にいる彼の姿は全く違っていたからだ。



横にいたジュミルが慌てたように扉に向かう。



「わざわざこのようなところまで足を運んでくださり、ありがとうございます!」



頭を下げて、低姿勢でルードリッヒを招き入れる。



だが、ティアナは彼のあまりの変身っぷりに空いた口が塞がらず、ポカンとしていた。



「そんなにかしこまらないでくれ。それよりジュミル。久しぶりだ。催促していたか?」



部屋に招かれたルードリッヒは、その甘い顔立ちに爽やかな笑顔を浮かべてジュミルに挨拶を返す。



(な…っ!だ、誰よあれは!!私の知っているルードリッヒでは…!)



あんな風に、ジュミルに対して友好的な笑顔を浮かべる男じゃなかった。



いつも傲慢な笑みを浮かべて、周りを見下したように見ていた。



「話の最中、失礼いたしますルードリッヒ様」



すると、そこに廊下から黒い服を着た青年が現れた。



白に近い銀の髪に、紅い目をした青年。



笑顔で楽しそうに話していたルードリッヒの顔から笑顔が消える。さっと扉にいる男性へと振り返り、



「…まだここに居たのかお前。もう帰っていいぞ」



ジュミルの時とは違う低く冷たい声で、追い払うように言った。



その態度に、ティアナはハッとした。



これこそ、彼女が記憶していた昔の彼と同じ姿だったからだ。



「えっ?話が違うっ!ルードリッヒ…様っ!オレ…いや、私は…」



そこで彼が焦ったように、突然こちらを振り向いた。


バチッと!目が合い、ティアナは顔をひきつらせた。



(な、なんでこちらを…?まさか、私も挨拶しろってこと!?)



何かを訴えるように、こちらをじっと凝視する彼に、心の中の声が漏れているのかとバクバクする。




「ーーああ、そうでした。姉さん!」



すると、ジュミルが思い出したように、ティアナを呼んだ。



今、このタイミングで行くのは気が引ける。



「ジュミル」



行きたくない気持ちが足を重くさせる。



(こんなときこそ、何かアクシデントがあれば…!)


面と向かって彼に挨拶するよりマシな事が、今、この瞬間起きればいい!



そう思ってゆっくりとティアナがルードリッヒへと近づいた、そのとき。



不意に、背後にあるあの国宝剣が、先ほどとは比べ物にならないくらいの紅く眩しい光を放った。




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