緑山異聞
大きな背中だねぇ…洗うのも骨ですよ。
多恵は不満口にそれでも楽し気におれの背を流す。洗うのは糠袋。
ここではシャボンの使用は禁止。唯一旅荘の台所で料理番が手洗いに
使うだけで、シャボンは海を汚すから、だそうだ。
町で使った水やお湯はやがて海に流れる。海からご馳走を頂くので
あればまず、皆が心しなくてはいけないと言うことらしい。
ーどうしても痒い所があったら台所から洗粉持ってきますよ。鍋の
焦げ付きなど一拭きで取ると聞きます
「冗談じゃねぇ、赤剥けちまわぁ! 」
じっさいこの糠袋とやわかいお湯で十分気持ちがいい。
ー傷だらけだ…
「ああ。いろいろあったからな」
ーおんなを巻き込んでの刃傷沙汰かえ?
「そいつも2ツ3ツあるかな…うわ! 冷てぇ! 」水を掛けられた。
ーさっばりしなんしたか とけらけらと笑った。
ーあっちのが腕山でこっちのが仏の座。仏の座の下に歓楽街があるよ
おれと多恵は湯に浸かりながら窓の外を見ている。
檜のいい香りに酔いそうになる。
お湯は緩く何時まででも浸かっていられそうだ。
多恵のからだは肩からお乳にかけてふっくら、少しあぶらののった
腰から豊かな尻。おれに寄りかかるようにして足をかかている。
そっと手を伸ばしてお乳に触る。豊かだ。大きな乳首をころころと
弄うと
ー駄目ですよ、こんな湯船でいちゃこらしてたら上気せちまいますよ
多恵の肩からお湯が玉となって垂れる。
湯気が風に煽られ飛ばされる。
「…出来た」と呟いた。「今お前の顔が出来た」
ーえ。わっちの顔? 本当に? 驚いてように振り向く。
「ああ。そうそう、この顔だ。もうちょっと垂れ目でもよかったかなぁ」
ーちょっとお前さま。早く上がりましょ! ここには鏡がないんです!
「まぁまぁ慌てなさんな。どれ、こっちぃ向きな」
おずおずと顔をあげる。多恵か。我ながら良い名を付けたもんだ。
「いい顔だ。多恵の顔だ」
と言うや
ーわっちは先に上がります! 堪らずように湯から上がっていく。
白桃のような丸くて白い尻が湯気の向こうに消えた。