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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
2章
8/8

茜色の未来

「司、貴方は行かないんですか?」


「俺が行ってどうなる?それに彼女はもう依頼人じゃない」



 まったく。本当にこの人は、人間と関わろうとしませんね。黒髪をボサボサに伸ばして無精髭を生やし、黒縁眼鏡に似合わない服装も、人を遠ざける為ですし。まっ、あれからまだ五年しか経っていないですし、仕方ない事かもしれませんが······。



「それに彼女は、間違いなく選ばれるよ」


「仮契約だけに存在するルールですか」



 司はあの時、茜さんが契約を破棄する事を予見してたのでしょうか?何か考えがあるようでしたから、私もあの時、厳しい事を言ったのですが。


 やはりこの人は掴み所がない。神である私やテミスですら彼の言動は読めない。



「きっと面白い事が起こるよ。何故なら彼女は、神様が憑いているからね」


「楽しみにしておきます」



 私は車の鍵を取り、テミスと芹華さんを連れ、茜さんの下へ向かったのです。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「茜」


「茜さん、こんにちは」


「茜ちゃん、応援に来たよ」



 私は順番が来るまで準備体操をしていると、芹華さん達の声が聞こえました。一通り顔を見渡すも、そこにはやはり神藤の姿はなかったのです。


 本当はあの人に、一番見てもらいたかったのに·······って!何で私、そんな事を考えてるのよ!



「準備万端みたいですね」


「はい!足の痛みも出てないですし、絶好調です!」


「茜、気合い入ってる」


「皆さんに私の活躍を見てもらいですから」


「本当は司さんに、一番見てもらいたいんでしょ?」


「はい······って、違っ!別にあの人に見てもらわなくて結構です!」



 私は顔を真っ赤にして、アタフタしながら言い訳をしたんですが。そうだった。ゲブさんとテミスちゃんは、人の心や考えを見れるんだったな。



「茜、慌て過ぎ」


「べ、別に慌ててなんか居ません!」


「茜ちゃん、可愛い」


「芹華さんまで!」



 うぅ~······別に好きとかそんなじゃないのに。ただあの人に逢わなければ、きっと今の私はなかったと思う。だからただ単純に、お礼を言いたいだけ。うん、本当にそれだけ。



「心配しなくても、司はちゃんと茜さんを見てますよ。その証拠に······ほら」



 ゲブさんが空の上を指差し、その方向を見ると、そこにはニケが居たのです。まるで私を見守るように。


 えっ?だって確かにあの時、神様派遣は中止した筈なのに。そう疑問に思っていると、ゲブさんが答えてくれました。



「別に彼女は、貴女に力を貸しません。ただ貴女はツイてるだけです」


「ツイてるだけ?」


「そう。神様が憑いているだけです」


「ゲブ、それ以上は言ったらダメ」


「そうですね。茜さん、彼女は貴女を見守る為に、ここに居るだけです」



 なんだか二人が隠してるみたいだけど、今は気にしないでおこう。ニケが居る。そしてそれを通して神藤が見てるって分かればそれだけでいいから。



「如月、そろそろ始めるぞ」


「はい!それじゃ行ってきます!」



 私は芹華さん達に軽く会釈し、部の仲間であり、良きライバルが待つスタートラインへ急いだ。


(よし!頑張るぞ!)


 私は部内選考の最終組。この組は、皆選ばれる可能性がある人ばかり。この組の中で選ばれるのは上位二人だけ。


 私がこの組に入れたのは練習の賜物もあるけど、友達の応援があったから。後は私の全てを出すだけ!



「ゲブ、テミス。あの子の心、とても綺麗ね」


「ニケ。あれは茜色。この日本の、日の丸の色」


「えぇ、とても綺麗な色です」


「茜ちゃんの色だね」


「ふふっ、気に入った。あの子の努力が報われるようにしとくわ」


「えっ? 二人ともどう言う事?」


「仮契約のルール」


「心の声が強く綺麗で、尚且つ仮契約で派遣を中止した場合」


「その時、派遣されてた神が力を貸す事がある」


「神様が憑く。つまりツイてるって訳ですよ」


「また司さん、大事な説明をしてないんだ……」


「彼は面倒臭がりですからね。それよりほら、スタートします」


「On your mark(位置について)ーーSetよーい



 私は一度深呼吸し、スタート位置にクラウチングの姿勢をとる。そしてよーいの合図で腰を上げ神経を集中させて……。



 ードンッ!ー



 っ!? 少し出遅れた!? だけどまだいける!


 後50! 追い付いた! ここからもっと伸びって!


 残り10! っ!? こんな時に足の痛みが!? だけど諦めない! 後、数センチなの! 届いて!



 私がそう願うと後ろから、凄い風が私の背中を押してくれたんです。


 本当に凄い風でした。まるで神様が、私の背中を押したような、そんな感覚を覚えました。


 そして結果は……。


「如月、合格だ。この調子で大会頼むぞ!」


「はい!」



 私は念願だった100mの部内選考に、無事選ばれたのです。


 戻って来た頃は冷たい視線を送ってた仲間達も、自分の事のように喜んでくれました。


 私はその喜びを芹華さん達に報告しようと、芹華さん達が居た方を見ると、そこには誰も居なかったのです。



「帰ったのかな?」



 そう思い、部活後に『神様派遣会社』に向かうも、そこには建物すら無かったのです。


 お礼を言いたかったのにな。少し心残りではあるけど、今度は仲間と一緒に、大会を目指していこうと決意しました。


 それから数週間後、芹華さんが私を訪ねて来たのです。

「茜ちゃん、久しぶり」


「芹華さん!」


「ごめんなさい。あの時、急に居なくなって」


「いえ、何か理由があったんですよね?」



 そうじゃないと、芹華さん達が急に居なくなるとは思えない。


 だけど一つだけ疑問に思った事を聞きました。



「あの後、『神様派遣会社』に行ったんですけど無くて……」


「彼処は本当に神様を必要としてる人だけが来れる、って言ってました」



 やっぱりあの人は好きになれない。でもどうしてこんなに気になるんだろ?


 私を救ってくれたから? それとも恋い?……は、絶対有り得ない!


「本当に司さんは、大事な事を端折るよね」


「本当ですよ。それなのに、どうして芹華さんはあの人の所に居るんですか?」



 私は前々から思っていた疑問を、芹華さんにぶつけてみました。


 芹華さんはしばらく考えた後、素敵な笑顔を浮かべて答えてくれたのです

 。



「命の恩人で、尚且つちょっと気になるからかな?」



 そう芹華さんが答えた瞬間、少し心がズキっとしたのです。何でだろ……やっぱり、あの人が好きになったのかな?



「そんな雄也さんから伝言。大会頑張れよ、だって」



 ただ芹華さんから神藤の伝言を聞き、すぐそんなモヤモヤは晴れました。


 うん、今は大会に集中しなくちゃ!



「それともう一つ。貴女は神様を信じますか?」


「はい!」



 私は迷い無く答えれました。だってこんな事、神様が与えてくれた奇跡だから!


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