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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
2章
7/8

もう一度翼を

「綺麗······」



 私は派遣されてきた神様を見て、思わず呟いていた。


 足まで届く美しいウェーブ掛かった金髪。純白の羽に、純白の服。そして全てを包み込むオーラ。


 神々しいとはよく言うけど、その意味がよく分かりました。



「あら?テミス久しぶりね」


「久しぶり。ニケ」



 テミスさんがその喚ばれた神様と親しげに話している。だけどそれ以上に、その喚ばれた神様の名前に、私は心当たりがあった。



「ニケって、もしかして勝利の女神ニケ?」



 歴史の教科書に書いてあった彫像、サモトラケのニケ。あれは顔が落ちているが目の前の神様は、間違えなくその彫像に似ていたのだ。



「よく勉強してるじゃないか。その通り。彼女はギリシア神話に登場する勝利の女神ニケ」


「やっぱり!でもなんでテミスさんと仲がいいの?」


「なんでもなにも、テミスもギリシア神話に登場する女神だからな」



 ここまでくると信じない方が難しい。やはりゲブさんとテミスさんは間違えなく神様だ。


 なにより私と神藤が話しを進めてる間も、テミスさんとニケは、楽しそう話していたのだから。



「さて。とりあえず仮契約は終了だ。後はキミ次第。もう一度言っておくが、本当に神様の力を使ってまで、走って勝ちたいのか考えるんだな」


「茜、頑張って」


「茜ちゃん、ファイトだよ!」


「茜さん、自分を信じて下さい」


「はい!」


「では3日後にまた会おう」



 私は皆に見送られ、その場を後にしました。ちゃんと見つめなくちゃ。私自身を。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その翌日から、私は練習に参加しました。最初は半信半疑だったけど、足の痛みも無く、すんなりと自己ベストが出たんです。


 これでまた走れる。そう思いました。だけど私に向けられた視線は、とても冷ややかなモノだったんです。



(どうして?私が居れば、全国だって狙えるのに。······私が居れば······きっと······!)


(······本当にそう?神様の力を使い皆の努力を潰してまで、私は走りたかったの?)


(そんなの全国に行ければ関係無い!)


(本当に?貴女は努力した?才能だけで走り、それが潰れたら今度は神様に甘えてる)


(甘えてない!私は······!私は······!)


(ほら。言い返せない。神藤が言った通りじゃない)


(黙って!私の邪魔をしないで!)



 頭の中で思考がぐちゃぐちゃになって、まるで天使と悪魔の囁きが聞こえる。私はいったい、どうすればいいの?そんな自己嫌悪に落ちそうになった後



「茜ちゃん、こんにちは」



 グランドに芹華さんの声が響いたのです。その姿を見た瞬間、私の瞳に涙が溢れてしまいました。



「わわっ、茜ちゃん大丈夫!?」



 芹華さんは私を心配しつつ、グランドの隅に連れて行ってくれました。一頻り泣いた後、私は芹華さんに謝ったのです。



「ごめんなさい、芹華さん」


「ううん、落ち着いたのなら良かった」



 その全てを包み込む笑顔に、私はとても癒されました。神様じゃないと言われていたけど、今の私には神様そのもののようでした。



「でもどうしてここに?それにどうやって入ったんですか?」


「茜ちゃんが心配だったから、受付の方にお願いして入れてもらいました」



 くすくすとどこか悪戯っぽく笑った後、優しく私の頭を撫でてくれました。その行動に気恥しい気持ちになりましたが、とても安心感を感じたのです。



「でも来て良かった。茜ちゃん、潰れそうになってたから」


「こう言うの、友達とかに相談しにくいし」


「それもそうだよね。う~ん······ねっ、茜ちゃん。茜の意味って知ってる?あっ、意味じゃなくて花言葉」


「花言葉ですか?いえ、知りません」



 茜の花言葉?そんなの気にした事なかった。でも芹華さんが教えてくれるなら、きっといい花言葉なんだろな。


だけどその花言葉は、私の想像していたものとは違う言葉でした。



「茜の花言葉は、私を思って、媚び、誹謗、傷、不信なんです」


「えっ?」



 茜って、そんな花言葉なの?だけど、今の私にピッタリかも······。



「あっ、その顔は、私にピッタリだな~、って顔だね」


「芹華さんも心が見えるの?」


「心なんて見えないよ~。茜ちゃんの顔を見ればすぐ分かったよ」



 そんなに顔に出てたの······?私、それだけ芹華さんを信頼してるのかな?でも確かに、芹華さんなら信頼してもいいと思ってしまう。そんな魅力にあふれてる。



「確かに花言葉はこんなだけど、茜にはもう一つ意味があるの」


「もう一つ?」


「茜の根で茜根」


「茜の根?」


「茜色ってよく言うでしょ?あれは茜の根の色、つまり茜根あかねからきてるの」


「そうなんですね?」



 芹華さん、美人な上に色々知ってて凄いな。憧れちゃう。



「つまり何が言いたいかと言うとね、根っ子、心が大事って事なの。それが茜に隠された意味」


「芹華さん······」


「なんて♪偉そうに言ってるけど、本当は司さんの受け売り」



 芹華さんはどこか悪戯っ子のような笑顔で、そう教えてくれました。あの人、私が帰った後にそんな事を教えてたんだ。


 私が居る時に教えてくれてもいいのに。やっぱりあの人は好きになれない。



「茜ちゃん、走りたいから走る。それじゃダメ?」


「走りたいから走る······」


「周りの目なんか気にせず走ればいいよ。いつかまた、周りが茜色に染まるように」



 あの人と違って、やっぱり芹華さんは優しいな。芹華さんの言葉一つ一つが、私の邪の心を無くしてくれる。


 だけどなんで芹華さんは、あんな人の所に居るんだろ?今度時間がある時に聞いてみよう。



「私、走ります。大会の事とか気にせず、走りたいから走ります!」


「うん、その意気だよ!」



 私は練習が終わると神藤のもとに行き、神様の派遣中止をお願いしました。


 神藤はどこか嬉しそうな顔をして、神様の派遣を止めてくれました。



 「仮契約で良かったな」



っと言って。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その翌日からの練習は、足の痛みは出るし、タイムは伸び悩みました。だけどそれでいいんです。今は何も考えず、走る事を楽しめば。


 忘れてたなこの感覚······。初めは走る事が大好きで陸上に入ったのに、いつの頃から未来のエースなんて言われて図に乗って······。


 だから神様は私に試練を与えた。そして私はその試練から逃げ出した。でも大丈夫。今ならその試練も乗り越えられる!



「そうだ!今度の部内選考会、芹華さん達にも見に来てもらをう」



 今出来る私の全てを見てもらって、もう大丈夫って伝えないと。よし!そうと決まれば、もっと練習を頑張ろ!


 私は気持ちを新たにし、練習に取り組みました。そして部内選考会当日を迎えたのです。



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