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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
2章
6/8

困惑

 それから3日後。私は、『神様派遣会社』へと向かいました。乙葉達にも相談したけど



「きっと詐欺だよ」



 と、私を止めたんです。


 そう思うのが普通だよね。だけど、どうしても気になったんです。だって私はあの現場を誰よりも近くで見ていたんだから。



「えっと······ここだよね?」



 名刺に書かれている住所を頼りにその場所まで来たのはいいけど、そこは古びた廃ビルでした。



「······よしっ!」



 最初は入るのに戸惑いましたが、私は意を決して中に入ったのです。目的はただ一つ。あの人達が何者か知るために。



「いらっしゃいませ」


「茜、待ってた」


「Zzz······」


「司さん、茜ちゃんが来ましたよ」



 『神様派遣会社』と書かれた看板のある部屋へ入ると、そこにはショッピングモールに居た男性と女の子、そして褐色の肌で赤髪の男性と、とても綺麗な女性が居ました。



「んぁ?あぁ······ゲブ任した······Zzz······」


「司!まったくこの人は」


「茜、コッチに」


「お茶、淹れますね」



 私は女の子に誘われるまま、その空間には不釣り合いなソファーへ移動し座った。


 その他にも最新式の家電品、高級そうなコップ、そして寝ている男性以外の服装等々、上げればキリがない程に、不釣り合いなモノで溢れかえっていたのです。



「さて。色々と聞きたい事があると思いますが、まずは自己紹介から。私はゲブと申します」


「テミス」


「月島 芹華です。っで、そこで寝ているのが神藤 司さん」


「私は如月(きさらぎ) (あかね)です」


「よろしくお願いします茜さん。ではまず何が聞きたいですか?」


「貴方達はいったい何者?」



 ゲブと言う人の問いに、私は一番知りたい事を聞きました。元々それを聞く事が目的だったし。


 その問いにゲブさんは少し考えた後、若干曖昧な答えをくれました。、


「そうですね······。人ならずモノ、っと言った所でしょうか?あっ、芹華は普通の人ですよ」



 人ならずモノって事は、人じゃないんだよね?まさか去り際に、神藤とか言う人の言った



「君は神様を信じるかい?」



 って言葉と関係が?



「ご名答」


「えっ?」


「こらテミス。思考を読むんじゃありません」


「最初に読んだのは神藤」



 何?思考を読むって?思考って事は考えている事だよね。つまり、この人達には私の考えが筒抜けって事?



「私達、人の思考や内面が見えるんですよ」


「こら芹華も。せっかく人が普通って紹介したのに」


「芹華は普通」


「普通だよねテミスちゃん」


「普通の人は人の考えなんて読めないですよ」


「神だから」


「私は千里眼で」



 さっきから普通の普通じゃないのって。私から見れば全員普通じゃないんだけど。それに神ってワードが聞こえたけど、聞き間違いじゃないよね?



「ふぁ~······あっ?まだ話し終わってなかったの?」



 私が思考を巡らせていると、芹華さんが紹介していた神藤さんがソファーから起きた。もしかしてこの人も神様なの?



「悪いが僕は神様じゃない。ついでに彼女、芹華もね」


「私の考えを読めるの?」


「普段は読まないようにしている。読んでしまえばそれだけで息苦しくなる。だけどキミの声は強すぎて、否が応でも読めてしまった」


「まさかあの時、私の名前を知っていたのも何かを読んだから?」


「あぁ、名前はキミの内面だ。ゲブ、資料」



 神藤さんがそう言うと、ゲブさんが戸棚から何かの資料を取り出し渡した。いったい何の資料なの?



「如月 茜、14歳。私立光陽大附属中学校に通い、陸上部に所属。100mの中学生記録を保持し、未来の女子日本代表エースとして期待される。しかし、去年の秋大会で足を負傷。それ以降、スランプに陥る」


「ちょっ!?そんなのどうやって!?」


「ゲブとテミスにかかれば朝飯前だよ。因みにスリーサイズは、上から72ーー」


「ーーわっ!わっ!」



 何なのよこの人!人の個人情報を······って!



「それ、個人情報保護違反だよね!」


「悪いが俺達にそんな法律は通用しない」


「神だから」


「神様ですからね」


「······本当に神様なの?」



 私は半信半疑で聞いた。だってそう簡単に神様のどうのこうのって、信用出来る筈ないでしょ。


「茜ちゃんは、テミスちゃんが窃盗犯を吹き飛ばしたのを間近で見てるんだよね?」


「はい······」


「それが証拠。こんな小さくて可愛い女の子が、大の大人、それも男性を吹き飛ばせると思う?」


「それは······」


「それに茜ちゃん以外は、司さんが窃盗犯を吹き飛ばしたように見えてるんだよ」


「えっ?」



 確かにこの女の子は小さいけど、私以外は見えてなかったなんて。でも思い返してみれば、確か周りの人はテミスさんじゃなく神藤さんを見ていたような。



「だから神藤が声をかけた」


「私達の仕事は、困っている人に神様を派遣する事」


「それがこの、『神様派遣会社』です」



 神様を派遣してくれる?そんな事が出来るの?それなら······。私が言葉を発する前に、神藤さんがその言葉を遮ってきた。



「悪いが断る」


「まだ何も言ってないでしょ!?」


「神様を派遣してほしいんだろ?」


「だってそれが仕事って言ったじゃない!それに私が困ってるから声をかけたって」


「そう、仕事だ。困っていようが仕事に変わりない。つまりどう言う事か分かるか?」


「······お金?」


「そうだ」



 神藤さん·······ううん!神藤は悪い顔を浮かべて言ってきた。コイツ······私の足元を見てる。メッチャ、ムカつく!



「神藤、意地悪してる」


「司、困っている様子だから声をかけたんじゃないですか?」


「司さん、茜ちゃんを助けてあげて」



 神藤以外の三人はとても優しいな。それに比べてこの人!



「優しくなくて結構。慈善事業でやってるわけじゃないんでね」


「······あぁ~······司、そう言う事ですか」



 ゲブさんは何か察したのか、呆れたような、でもどこか納得したような声で呟いた。そして予想だにしていなかった事を言ってきた。



「すみません茜さん。今回の依頼はお受け出来ないかもしれません」


「どうして?やっぱりお金?」


「いえ。お金に関しては、司の意地悪です」


「だったら······」


「ですがそれに準ずる対価、茜さんの場合は······走る事ですね」


「その走る事が出来ないから、神様の派遣をお願いしたいのに·······」


「茜さん。貴女······本当に走れないんですか? いえ、違いますね。貴女、本当に走りたいんですか?」


「えっ?」



 それってどう言う事?私が走りたくないって思ってるって事?そんな事無い。だってこんなにも、練習したいと思ってるのに。



「なら何故、練習をしない?」


「だって、怪我してるし······」


「それは言い訳だ。怪我してどの位経つ?痛みは出るだろうが、練習出来ないレベルじゃない筈だ」


「それは······」


「練習しない理由、そして走れない理由。それは、これ以上挫折を知りたくないからだ」


「!?」



 挫折を……これ以上知りたくない?つまり、心のどこかでストップをかけてる。そう言う事なの?



「そうだ。さっきも言ったように、俺達はキミの考えや内面が見える。どんなに言い訳しようが、その部分までは誤魔化せない」


「っ······」


「ユウェナリスの風詩詩集に、こんな言葉がある。健やかな身体に健やかな魂が願われるべきだと。今のキミにはそれが無い」


「だって······!!」


「キミは逃げてるだけだ。挫折からね」



 逃げてるだけ。確かにそうかもしれない。私は走る事で、皆に認めてもらえた。それが無くなった今、心のどこかで走りたくないって思っても不思議じゃない。



「ふぅ······さてと。お説教モード終わり」


「えっ?」


「三日間の仮契約をしてやる。それで決めるといい。神様の力を使ってまで、走りたいかどうかをね」


「······」



 私は神藤が出した仮契約書を受け取り、数分悩んだ後サインをしました。私自身、どうしたいか知りたかったから。


 そしてサインを終えると同時に、その場の空気が一変したのです。


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