神様なんていない
「ねぇねぇ知ってる?」
「何々?」
「今話題になってる新興宗教事件、何でも神様が関わってるって噂」
「何それ~?都市伝説か何か?」
神様?そんなの居るわけ無いじゃない。もし居るなら、どうしてこうも世界は不公平なのよ。
「ねぇ、茜はどう思う?」
「どうせただの噂でしょう?」
「それが捕まった全員、神様が······神様が······って、言ってるんだって」
「うわ~······怖っ」
「······ふ~ん」
もし居るなら文句言いたい。どうして練習を頑張っていた私だけ、こんなに辛い思いをしないといけないの?ってね。
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「今日のニュースも、新興宗教事件ばかりですね」
「ほっとけ、ほっとけ。人の噂も75日って言って、すぐに忘れ去られる」
「75日って長い」
「モノの例えだ。今は昔と違って流れが早いから、もっと早く忘れ去られるよ」
俺達は何時ものように、のんびりと部屋で寛いでいた。仕事、仕事と煩いゲブも、今回ばかりは黙ってニュースを見ている。まっ、俺達の仕事は、あまり表沙汰になったらマズいからね。
ただ少しやり過ぎた感は否めないが、さっきも言ったように皆すぐに忘れるさ。
「神藤、暇なら洋服買いに行きたい」
また寝ようかな?っと、思った時、雑誌を読んでいたテミスからデートのお誘いを受けた。
「テミスとデート!」
「違う。芹華が学校に行ってるから、神藤に頼んでるだけ」
「バッサリですね······」
「ありがとうございます!?」
「変態」
「変態ですね」
確かに今の俺の容姿だと、テミスと歩いてる時点で捕まるだろ。せっかくだから軽く身支度を済ませるか。でも、テミス以外の女性から声をかけられたらどうしよう。
「それは無いですね」
「神藤、変態オーラ出てる」
「君達はエスパーか!?」
「ボキャブラリーが少ない。神藤、もっとセンス磨いて」
「もっと罵倒して下さい!」
「はぁ~······」
深い溜息をついたゲブを残し、俺とテミスはショッピングモールへ向かった。ここはよく芹華が、友達と遊びに行くらしい。
しかし大学に行き始めてすぐに友達が出来るあたり、元々人を惹き付ける力があるんだな。
そんな事を考えていると、テミスが周りのお客がこっちを見ている事に気付いた。
「神藤、皆が見てる」
「見てるな」
ショッピングモールまでの移動手段は車だった為、それほど気にならなかったが······。やはり俺達の格好が目に付くんだろ。
テミスはその金髪碧眼に合わせるかのような純白のドレスに、ピンクのリボンをあしらっている。その容姿は神と言うか天使。
そして俺はそのテミスに合わせ、真っ黒のスーツを着ている。そりゃ目を引くよな。だってテミス可愛いし。
「神藤も決まってる」
テミスがデレた~!!これで勝てる!!何にかには知らん!!まさに有頂天とはこの事だ!!
そんな周りの視線を浴びつつ、俺達は買い物を楽しんだ。対応してくれた店員さんは、かなり緊張してたがな。
「大量」
「いっぱい買ったな」
「芹華とゲブのも買ったから」
久々に好きなモノを沢山買えてご機嫌のようだ。しかし、そのご機嫌を損なう様な不穏な空気を出している者がいた。
「ところで神藤、気付いてる?」
「あぁ······あの客、動きが怪しいな」
「どうするの?」
「どうしてほしい?」
「質問に質問で返すのは感心しない」
「悪い悪い」
「······神藤の格好いい所見たい」
テミスにそう言われたら頑張るしかないよな。さて、久しぶりに格好いい所を見せる為に、悪い子にはお仕置きだ。
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「茜、いいのあった?」
「このシューズかな?あっ、こっちも良さげ」
「そんなのより、可愛い服買えばいいのに」
「今は夏の大会が大事だから」
乙葉も静香も、スランプの私を心配してくれてるのはわかるけど、今は練習がしたい。でも怪我して練習もまともに出来てなければ、スランプにもなるよね······。
「キャッ~!?誰かその人を捕まえて!?」
「!?」
「「茜!?」」
女性の店員さんが悲鳴を上げた後、そのお店から黒いカバンを抱えた男性が逃げるのが見えた。
私はその瞬間、その男性目掛けて駆け出した。スランプ中だけど、アレ位なら追い付ける!
だけど後数mと言う所で、足に痛みが走ったのです。
「ッ······足が······」
やっぱり神様なんて居ない!こんな時に痛みが······!?
神様······!もし本当に居るなら、私を助けてよ!私がそう願った瞬間
「ノワァ!?」
走っていた男性が派手に転けたのです。
「ハァ······ハァ······」
私は足を止めて息を整えゆっくりと顔を上げると、そこには神々しいまでの女の子と、それに付き添う漆黒の男性が立っていました。
それはまさに、神様が現れたかのような錯覚を覚えたのです。
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「キャッ~!?誰かその人を捕まえて~!?」
その声と共に、さっきの怪しい男がこちらに走ってきた。しかも周りのお客を突き飛ばしながら。
ヤレヤレ······。盗みを働くなら、もう少し場所を考えろよな。こんな所じゃ、逃走経路もままならないのにさ。
「神藤、残り距離100m」
「はいよ」
テミスのナビと同時に、相手との距離をカウントする。建物の構造上、どうやっても俺の横を通り過ぎないと行けない。
残り数m。大声で何やら喚き散らしてるので、少しだけ進路から外れると同時に足をだす。
「よっ」
「ノワァ!?」
すると走ってきた男を俺の足に躓き、派手に転んですっ飛んでいった。いや~凄い勢いで転けたなぁ~。
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「お~い······大丈夫かぁ~?」
「死んだ?」
「あれで死なれたらたまったもんじゃない」
女の子と男性はこちらに気付かずに、転んだ男性を見ながら話してる。いったい、この人達は何者なの?それ以前に本当に人?
私が思考を巡らせていると、倒れていた男性が起き上がりナイフを構えたのです。あんなのを持ってたなんて!?
「テメェ!?」
「神藤、気が変わった。せっかく楽しんでるのに、それを邪魔した罪は重い」
「では姫にお任せします」
ナイフを構えた男性が、その二人に向かって走り出した。それと同時に、男性の後ろにいた女の子が前に出てきたのです。
「ちょっ······危ないっ!?」
「大丈夫」
「まっ、見てなって。如月 茜さん」
「······えっ?」
どうして私の名前を?いや、そんな事より女の子が!
私がそう思った刹那、女の子はその身を縮め、向かってくるナイフを軽く左手で流し、そして右手で男性の鳩尾に、正拳突きを入れたのです。
「グフハァッ!?」
正拳突きを受けた男は転けた時以上に凄い勢いで吹き飛び、その衝撃からか女の子も軽く後ろに飛びましたが、後ろに居た男性が受け止めました。
「吹っ飛んだな」
「他人の迷惑にならない方に飛ばした。後、盗んだバックはちゃんと回収した」
「さすがテミス。だけど俺の見せ場が······」
「神藤、ドンマイ」
まるで周りの事などお構いなしに、二人で会話を繰り広げてる。この人達、本当に何者?
「このバックは君に預けておくよ。あぁ、俺達の事が気になるならここへ来るといい」
そう男性が言うと、バックと名刺を渡してきた。その名刺には、『神様派遣会社』と書かれていたのです。
「さて、騒ぎが大きくなる前に帰るか」
「うん」
「それじゃ行くか」
「ちょ、ちょっと待って!?貴方達は一体何者?」
「さてな。知りたければ来るんだな」
「待ってるね」
「あぁ、そうだ。君は神様を信じるかい?」
そう男性は言い、何事も無かったかのようにその場から立ち去ったのでした。