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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
1章
4/8

新しい仲間

「アナタが少しやる気を出すだけで、こうも世界の秩序が乱れるんですね」



 ゲブは新聞の一面に書かれている『未来への記』の記事を見ながら、どこか呆れたような口振りでそう言った。



「だから言っただろ?俺がやる気を出したらどうなるかさ」


「神藤、芹華はどうなるの?」



 俺は事件の後もおやっさんに芹華の事を任せていた。警察······っと言うより、おやっさんと思兼なら大丈夫だと思っている。


 だが問題はその後だ。調書が終われば二人の手から離れる。そのままおやっさんに面倒を見てもらうにしろ、なかなか難しい所だ。



「施設に戻るのが一番いいんだが、彼女の生い立ちを考えれば難しいな」



 もしくは一人暮らしで独り立ちも考えられるが、彼女の境遇を考えるにそれも難しいか。



「神藤、月島から巻き上げたお金で芹華を助けれない?」


「巻き上げたとか人聞きの悪い」


「事実」


「確かに。そのお金は芹華一人ではなく、施設に寄付したよ。そっちの方が多くの人が救われるからね」



 今回のような事件は、今後も起こる可能性がある。金の無い施設を脅し、特殊な力を持つ子供を買う事が。その抑止力の為に、俺は施設へ寄付したのだ。


 もっとも今回は、その特殊な力の中でもかなり厄介な力だったから、施設の人達も彼女を手放したわけだが。


 それでもお金があれば、まだましな人間に貰われてた可能性は否定出来ない。



「入信されていた方々はどうしたんですか?」


「もうちょっとマシな新興宗教団体へ入信させたよ。本当に面倒臭かった」


「既存の神を信仰させなかったんですね」


「最初からそれが出来ていれば、新興宗教には入信しないさ」



 日本にある既存の宗教とは、仏教、神道、キリスト教、最近ではイスラム教もか。それら宗教は元々親等がそこに属してない限り入信しにくい宗教だ。その分、新興宗教は窓口が大きく入信しやすい。だから今回は新興宗教に入信させたのだ。


 日本は宗教の自由が許されている数少ない国。信じるも信じないも自由。そこから入信した人達がどうするかは自由だ



「芹華の件はおやっさんに任せよう。これで今回の依頼は終わり。これでまたゆっくり出来る」


「後は柳からの依頼料待ち。新しいお洋服何にしょう」


「二人とも······」



 ゲブがガクリと肩を落とした瞬間、タイミングよく入り口のドアが開いた。


 そこから入ってきたのはおやっさんと思兼、そして長かった黒髪を肩付近まで切り、明るい茶髪に染めた月島 芹華だった。


 俺はその三人を見た時、一瞬にして嫌な予感が流れた。いや、おやっさんと思兼だけならまだいい。何故彼女まで着いて来ている。


 このまま何も無いまま終わってくれればいいんだがな。



「司さん、契約更新に来ました。後、今回の依頼料です」


「今回はかなりの依頼料を弾んだよ」



 仮にも警察が、依頼料を弾んだとか言うなよなおやっさん。確かに思兼から受け取った封筒は、かなり厚くはあるけどさ。


 まっ、テミスに服を買ってあげれるならそれでいいや。今度の日曜日にでもデートに行こう。


「それじゃ思兼、契約更新をするか」


「お願いします」


「期間はどうする?更新のいらない半永久契約も出来るが?」


「それでは司さんに会えなくなってしまいますからね。一年で更新して下さい」


 俺は会いたくないんだがな。だからこそ半永久にして会えなくしたいんだが。ここは契約先であるおやっさんにふるか。


「おやっさんはそれでいいのか?昔みたいに忙しくないわけじゃないんだから、契約更新を無くした方がよくないか?更新の度に出向くのも大変だろ?」


 おやっさんは昔と違って特殊科所属だ。色々な案件を抱えてる。だからそこを攻めればいけると思ったのだが、返ってきたのは意外な言葉だった。


「いやいや。息抜きには丁度いいし、私も息子同然の君に会えなくなるのは寂しい。それに契約に関しては兼子君、いや、思兼の気持ちを尊重したい」


 息子と言われ、どこかむず痒い気持ちになりつつ、こう言うおやっさんの性格が、俺や思兼、そして多くの部下が慕う理由だろう。


 もっともそんな事を思っているなんて、口が裂けても絶対に言わないが。


 そんなこんなで俺は観念し、新しい契約書におやっさんと思兼のサインを貰い、控えをおやっさんに渡した。これで思兼の契約が一年延びたわけだ。



「用事は済んだよな?それじゃお疲れ」


「ちょい、ちょい、ちょい!」



 契約が終わり、おやっさん達を帰そうとしたら下手な芸人のようなツッコミをされた。いや、おやっさんはボケなんだが。



「彼女の事が気にならないのか?」



やはり彼女、芹華についてか。契約更新してる間、彼女はその様子を興味深気に見ていた。その事から彼女の感情が戻って来ている事は分かった。だがそれだけだ。



「俺にはもう関係無い事だ」


「だそうだよ」


「か、関係無くありません!」



 おやっさんがそう彼女に問い掛けると、今まで黙っていた彼女の声が響いたのだ。その声はとても美しくあるが、どこか儚げであった。



「芹華、喋れるようになったの?」


「はい。シヴァと言う神様が、私の『千里眼』と病気を破壊してくれたんです。それは月島の作り上げた秩序だからって」



 そんな報告は受けてないぞ。確かに月島を形成しているものを破壊する事が目的ではあったが、そこまでやってたなんてな。


 シヴァが配慮して月島が創り出した彼女の負も破壊したのだろが、報告はしてほしい。



「ただ『千里眼』だけは完全に破壊してくれませんでした。神藤さんの役に立つからったて」


「っと言う事は、まだ行使出来るんですか?」


「はい。ただ今は、集中しなければ行使出来ませんけど」



 あぁ······やっぱり嫌な予感的中だ。これから何が起こるのかはもう分かった。シヴァの野郎、俺に仕返しのつもりか。


「だから助けていただいたお礼に、神藤さんのお役に立ちたいんです!」



 ほらね、やっぱりこうなった。ただ彼女は分かってるのか?それはまた、自分の身を犠牲にしてる事に。



「悪いけど俺は、キミを助けた覚えはない。キミは神様によって助けられたんだ」


「でもその神様を派遣したのは神藤さんです!それで私は助かりました!」


「それは結果論だ。月島を壊す過程で、キミが勝手に助かったにすぎない。俺は何もしていない」


「でも······」



 俺が何故キミに、ここまで拒絶を示すのか分かってほしい。せっかく日の光を浴びれたのに、また日陰に戻る必要もないのだから。



「そんなに彼女を邪険にしなくてもいいだろ?」


「おやっさん、分かるだろ?俺がそうする理由が」


「分かるさ。だからこそキミに頼んでるんだよ。それに、彼女を引き受ける所はどこにもない」



 それも『千里眼』のせいか。いくら力が弱まったと言え、自分の内面を見られるのは嫌だろ。


 だが俺には『千里眼』の力は及ばない。力が弱まってるなら尚更だ。



「神藤、芹華を助けてあげて」


「私からもお願いします」



 ヤレヤレ······本当にお人好しな神様達だな。仕方ない。ここは折れといてやるか。



「はぁ~······分かったよ」



 僕が溜め息をつきつつ頷くと、暗く沈んでいた芹華の顔が輝いたのだ。それはまさに、芹の華が咲いたかのようだった。


「ありがとうございます神藤さん!私、神藤さんの為にーー」


「ーーストップ!その俺の為ってやめてくれる?」


「でも······」


「これからキミは、キミの為に生きるんだ。誰かの為じゃない、自分自身の為に」


「私自身の為······」


「それと僕の事は司でいい」


「司······さん?」


「まっ、それでいいや。あぁ、それからキミには大学に通ってもらうよ?」


「大学ですか?」


「そうだ。大学で色々と学んで自分自身を磨くんだ」


「本当に珍しくマジメですね」


「明日はみぞれ



 人が格好良く決めてるんだから、茶々をいれるなよな。実際問題、俺一番が疲れる事をしてるんだからさ。



「分かりました!私、自分の為に頑張ります!」


「あぁ」


「芹華さん。コイツは敵に回さなければ、とても頼りになる男だ。きっとキミの事を守ってくれるよ」



 おやっさんは何を吹き込んでくれてるんですかね?



「普段は不真面目でやる気0ですけどね」


「あと変態」


「それが司さんのいい所です」



 お前達も何を吹き込んでやがる。あとで覚えてろよ。特にゲブ。



「まっ、これからよろしくな」


「はい!」



 こうして『神様派遣会社』に新しい仲間が加わった。新生したこの会社がどうなるか、俺も楽しみだけど皆には内緒だ。さて、次の依頼まで改めてのんびりしようかな?



「あぁ······芹華。キミに聞くのを忘れてた」


「何ですか?」


「君は神様を信じるかい?」





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