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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
1章
3/8

破壊

「彼女の事、調べがつきましたよ」



 翌日。ゲブとテミスに頼んでいた彼女の資料を、ゲブが渡してきた。出来ればテミスから受け取りたかったぞ。



「さすがテミス。あとで買い物に行こうな?」


「新しい洋服が欲しい」


「二人共、私を無視しないで下さい」


「······」



 俺は資料を受け取り、かけている眼鏡を外して資料を記憶した。この眼鏡がなければ、次々にどうでもいい記憶が蓄積されてしまう。しかも人を見た場合、その人の本質まで記憶してしまう。本当に忌々しい能力だ。



「資料は全て記憶したよ」



 俺は記憶し終わった資料をゲブに返し、また眼鏡をかけた。時間にすればほんの数分だ。眼鏡をかけている時も記憶は出来るが、集中しないと時間はかかる。つまり眼鏡を外した時は、俺が若干本気モードだと言う事だ。


 せっかく二人が彼女の事を調べてくれたんだ。資料から抜粋して、彼女を紹介しよう。



 彼女の名前は月島 芹華(せりか)十八歳。月島 彦根の娘だ。っと言っても、実の娘ではない。六歳の頃、月島に引き取られたらしい。


 月島が彼女を引き取った理由はただ一つ、彼女の『千里眼』を利用するため。そしてその『千里眼』こそが、彼女を不幸にした原因だ。


 それから月島は、彼女を六年かけて信仰神に仕立てあげた。彼女が喋らないも、月島が彼女を神にするための仕業だ。


 そう言う意味では、彼女は今回の一番の被害者だな。しかし、彼女が助かるかどうかは、シヴァの配慮しだいだ。


 基本的に派遣された神は全ての事象に関わる。その中でシヴァがどのように動くかなど、俺が制限出来るわけじゃないからな。



「神藤、千里眼の事も調べた方がよかった?」


「いや、彼女の生い立ちがわかればいいよ」


「······洋服······」


「ちゃんと買ってあげるさ」



 俺が笑いかけながらテミスの頭を撫でると、目を細めて笑顔を浮かべた。洋服を買ってもらえるか不安に聞くテミス萌え~!そして頭を撫でられ喜んでるテミスは超萌え~!


 この猫っぽさは本当に反則だ。語彙力の低下が凄まじい事になる。



「千里眼とはどのような力なんですか?」



 人がせっかく萌え死のうとしてるのに、このKYめ。仕方ない。ゲブへの褒美は、千里眼の説明だな。



「千里眼とはその名の通り、その場に居ながら千里先まで見通せる力だよ。仏教の四天王の一一尊(いっそん)広目天(こうもくてん)が行使出来たとされ、また媽祖(まそ)に使役されている鬼に、千里眼が居るんだ」


「つまり千里眼は、神の力に等しいわけですね?」


「そうだな」


「芹華が喋らないのも、千里眼のせい?」


「······」


「千里眼は原因に過ぎない。調べてもらった通り、月島が人前では喋らせないようにしたんだ」


「調べていてそれが一番疑問に思いました。人はそう簡単に喋れなくなるんですか?」


「もちろん簡単じゃない。だが幼少期に過度の精神的ストレスを受けていれば」


「何かの拍子に喋れなくなる······」


「そう。彼女の場合、過度の精神的ストレスは幼少期に親に棄てられた事でクリアしていた。あとはその精神状態を利用すれば、喋れない人形の出来上がりだよ」


「っ!?」



 月島にとって彼女を養子に選んだ理由は、千里眼もあるが、自分の操り人形に仕立てやすかったんだろ。


 そして何より施設としても、そんな化け物を引き取ってくれるのは願ってもいなかった事だろうしな。



「心因性失声症と言う症状がある。これは精神的な負荷が原因でなるものだ」


「そんなのがあるの?」


「あぁ。ただその症状を月島が知ってたかわからないが」


「彼女をそうさせたのは、間違いなく月島のせいですね」


「月島のせいだけじゃない。彼女を恐れ手放した両親にも罪はある」



 まっ、親権を放棄して十数年経つんだ。今更その事を責める気にはならないけどさ。だがもう少し自分達の事だけではなく、彼女の気持ちも考えて欲しかったがな。



「······」


「今回珍しくやる気なのは、彼女を自分に投影してるからですか?」


「投影なんかしてないよ。ただ······」


「ただ?」


「少しやる気を出して、月島が作り上げた秩序を破壊するだけさ」



 そう言って浮かべた表情は、神さえ殺せるモノだったと後で言われた。それ程までに今回の依頼は、僕の感情を逆撫でたんだろ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ガハハッ! 待ってたよ神藤君!」



 三日後。月島の下を訪れると、ゲスい笑い声を上げながら出迎えてくれた。まっ、三日で信者数十倍だ。笑いも止まらないだろ。


 さて······ここからが本番だ。



「約束通り、信者数十倍になったようですね」


「入信料十倍も捨てたがったが、これだけ信者が集まれば関係無い」


「では本題に入りましょう。貴方と対立している新興宗教団体がある筈です」


「ふん、本当に目障りな連中だ。何故最初にアレを潰さなかった?」


「簡単ですよ。三日だと貴方が受けた屈辱は晴れないでしょ?」


「むっ、確かに······」


「だから本契約まで、神様には待ってもらってたんですよ」



 俺は悪顔全開で、月島へ本契約の紙を差し出した。月島は俺の顔を見て脂汗を額にかき始めていた。俺の醸し出すプレッシャーが半端なく伝わっているのだろ。


「派遣期間は一週間。一週間なぶり痛めつけた後······破壊します」


「······ゴクッ。で、契約金額は?」


「そうですね······一千万でどうです?」


「一千万だと!?」


「安いと思いますがね?貴方が受けた屈辱を晴らすのと、これから更に信者が増える事を考えれば······ね」


「クッ······いいだろ」



 月島は契約書を受け取り、自分の名前と判を押した。これで月島は神から逃れる事はできなくなった。なぶり痛めつけられるのは、アンタも同じになったよ。


 もっとも、そんな需要な事を一々教えてやる義務はない。これが人間同士の取り引きであればクーリングオフも効くが相手は神だ。神にそんなものは通用しない。


 それに契約が成立した段階で、俺は関わりを捨てる。関わらない以上、契約は神の一方的なものになるからな。



「契約成立です。あぁ、監視につけていたアイリーンはどうされます?」



 アイリーンこと芹華は、身辺周りの調査が終わった後、おやっさんに生活を見てもらっていた。おやっさんには思兼が憑いてるお陰で千里眼の効果を受けつけないからな。


 もっとも監視で来ていた彼女を警察であるおやっさんに任せれば、監視の監視をしていた手下に気付かれる。


 だが相手が悪かったな。そこら辺の偽装工作など俺と思兼にかかれば朝飯前だ。だから何も知らないコイツは、上機嫌で俺を迎えたわけだ。


「アイツは用済みだ。君の好きにしたまえ」


「わかりました。では最後に。貴方は神様を信じますか?」


「ふん。信じてやる」



 それから一週間。『司援会』がマスコミを賑わせない日は無かった。


 司援会出身の大物政治家との癒着や、運営してる病院での隠蔽。そして非合法的な入信の仕方等、あげればキリがない。


 そして『司援会』に関わっていたモノは、次々に制裁を受け社会から消えた。


 シヴァは破壊を司る神以上に、世界の創造、維持、再生を司る最高神として位置づけられている。


 破壊後の創造として、まるで最初から『司援会』等無かったかのようにすぐに社会は平穏を取り戻した。


 さすがはシヴァ。ヒンドゥー教では最も影響力を持つ三柱の主神の一人だ。たかだか新興宗教を潰すには力が強すぎだな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「愉快、愉快!実に愉快だ!私に楯突くモノは、全て消える!ククッ······一千万もの大金を払ったかいがあるというものだ!」


「これで契約終了だ。まだ私の力が必要か?」


「もう貴様も用済みだ!これからは見えぬ神より、見える神だよ!」


「そうか······。なら、最後にお前を破壊する」


「なんだと!?」



 この男、神藤から契約内容を聞いていなかったのか。いや、アイツの事だ、わざと伝えてなかったと考える方が自然か。まったく、つくづくよめない奴だ。


 さて、私は私の仕事をするか。私もこの男の言動は気に食わなかったからな。躊躇う必要もなく壊せる。


「お前は一番敵に回してはいけない奴を敵に回したみたいだな」


「神藤かっ······!?アイツはいったい何者だっ!?」


「知る必要も無ければ、知る権利もない······。契約の破棄により、お前は神罰として裁かれるのだから」


「お前は死神だったのか!?」


「死神みたいな低俗なモノと一緒にするな。私はシヴァ。お前を破壊するヒンドゥー教、最高神の一人だ」


「よせ······よせ!!」


「さらば······」


「ヌワァァァァア!?」



 私はトリシューラを空間より取り出し、この男を創り出している全ての事象を破壊した。後の処理は神藤らに任せればいい。


 だがこのまま神藤の思惑通りになるのも気に食わない。


 そう言えばこの男には娘が居たな。その娘を神藤への仕返しとして利用させていただこう。ではさっそく始めるとするか。


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