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神様派遣会社  作者: 快刀乱麻
1章
1/8

出会い

 暦は3月。まだ春と呼ぶには朝と夜は肌寒いが日中はそれなりに暖かく、昼寝をするには丁度いい季節だ。


「ふぁ〜······」


  そんな陽気の中俺は、ビールの空き缶や酒のつまみが乱雑に散らばっている机に、そこだけ綺麗に整然と積み上げられた資料をしり目に、うたた寝へと洒落込もうとしていた。


 何故俺がこんなクソ面倒な案件をしないといけないんだ。どこかの暇な警察にでもたらい回しにすればいい。うん、そうしよう


 などと考えつつ、横になっているソファーの感触を確かめながら視線を天井に向けると、その天井への視線を遮るように見慣れた顔がそこにあった。



「司!何を寝ようとしてるんですか!」


「煩い黙れ。そして天に帰れ」


「私は地の神なので天には帰れません」



 その見慣れた顔の正体とは、褐色の肌に赤み掛かった髪を耳下まで伸ばし、見るものの眼を離さないオーラを放つ。それは地の神、ゲブだった。


 地の神ゲブはエジプト神話に出てくる一人。エジプト神話においてゲブの話はかなり有名であり、ヘリオポリス九神(エネアド)として崇められている。


 そんな神であるゲブが何故この現世に実体として存在し、俺と言い争っているのか。それはまたおいおい話そう。だってそんな事どうでもよくなるような可愛らしくも呆れた声が聞こえたからだ。



「また馬鹿なやり取りしてる」


「何故私まで馬鹿のくくりに入ってるのですか?」


「我々の業界ではご褒美です!」


「ダメだこの人······早くなんとかしなければ······」



 俺とゲブの言い争いを罵倒してきたその声の主は、多種多様な書籍が積まれた本棚に囲まれたソファーから読んでいた本をテーブルに置き、怪訝な顔で見てきた。もっとも、その顔も可愛いのだが。


 彼女の名前はテミス。テミスはギリシャ神話に出てくる、法と掟の神。位置付けはティーターン。


 ギリシア神話においては、ティーターンとオリュンポス神の戦いの後、敗れたティーターンは主要な神の地位を失い、神話においても多くの神が言及されなくなり、また地位が低下している。


 だが、オリュンポスの時代になってなおその地位と威勢を変わりなく維持した神はテミスだけな事から、それ程までに彼女の存在は特別なものなのだ。


 っと!少し講釈が長くなったがそれはさて置き、テミスの姿に注目してほしい!


 金髪のゆるふわロングに碧眼!ティーターンとは思えない小柄な出で立ちで現世での年齢帯としては10歳前後の容姿に神の神々しさで可愛いのに美しいときた。


 そして何よりクールな性格なのに、たまに見せるデレた時のギャップがたまらない!



「神藤、全て聞こえてる」


「キミはエスパーか!?」


「エスパーではなく声に出てましたよ」


「お前に聞いてない」


「テミスと私の差は何なんですか!?」



 これがこの『神様派遣会社』のいつもの日常だ。いつもと違うのは依頼が入ってる事ぐらいか?



「神藤、これは警察からの依頼。やっとけば恩を売れる」


「嘘!?その警察に、たらい回しにしようと思ってたのに!」


「そんな事を思ってたんですか?」


「それに、この依頼は柳の依頼」


「またおやっさんかよ······」



 テミスの言う柳とは、警視庁特殊捜査家所属の、柳 栄一郎(やなぎ えいいちろう)警部その人だ。前に力を貸して以来気に入られ、ちょくちょくと依頼を持ちかけてくる。

まっ、そのおかげでここの経営が成り立ってるんだけどさ。



「おやっさんには思兼神(おもいかね)を派遣してるんだから、自分の所で解決してほしな」


「いくら神様を派遣してるとは言え、手の出せない案件はありますよ」


「それがこの依頼」


「はぁ~······また新興宗教系か······」



 警察で、しかも神様を派遣してるのに手が出せない案件となると、依頼内容はすぐにわかった。


 つかおやっさんは、俺が動きたがらないのを知ってて、俺自身が動かないといけない依頼を持ってくるんだからさ。



「今回は新興宗教同士の対立。今はそこまで大きくない」


「ですが、放っておくと厄介ですね」


「はぁ~······」


「神藤、溜め息をつくと幸せが逃げる」


「テミス、どこでそんな知識を手に入れたんだ?」


「この本に書いてあった」



 テミスが見せてきたのは、女性向け週刊誌の一ページだった。俗世にハマりすぎだが、そんなテミスも可愛らしい。



「仕方ない。ちょっとおやっさんの所に顔を出してくるよ」



 バイクの鍵を取り、愛用のライダージャッケトとヘルメットを手にし準備を整える。



「依頼内容把握の為ですか?」


「いや、おやっさんに文句を言いにと、思兼神の契約更新をしにね。それに······」


「それに?」


「依頼内容はもう全て頭に入れているよ」


「さすが神藤。だけど、いつもその位のやる気は出してほしい」


「いくらテミスのお願いでもそれは聞けないな」


「テミスからのお願いなら、全て聞くと思いましたよ」



 からかうように言うゲブに苦笑した後、俺はマジメな顔で言った。



「聞きたいのは山々だけど、僕がやる気を出したら世界の秩序なんてなくなる。それに神様を派遣してほしいなんて、人の勝手なワガママだろ?」



 いつもと違う雰囲気とその言葉に、二人は何故か笑みを浮かべて僕を見送ったのだ。


 警視庁へ着き受付で要件を話すと、すぐにおやっさんの所へ案内してくれた。おやっさんも偉くなったよな。


 警部だから偉いんだけど、万年巡査部長だったとは思えない対応の違いだ。最初は門前払いか、出頭してきた容疑者扱いだったからな。



「待っていたよ神藤君!」


「司さんお久しぶりです」


「久しぶりだな思兼」


「私はスルーか!?」



 出迎えてくれたのは黒髪短髪かつ高身長、かつ超絶イケメンの思兼神こと、兼子 心弥(かねこ しんや)巡査部長。


 そして白髪混じりの黒髪をオールバックにし、銀縁眼鏡を掛けたシブメン。おやっさんこと、柳 宗一郎警部だ。


 因みに兼子 心弥とは、思兼が人間界で生活する上で僕が贈った名前だ。


 元々知識の神である思兼は



「人間界の事をもっと知りたい」



と、知識欲満点な笑顔で派遣期間延長の願いを申し出た。


 派遣したのが、知識欲をくすぐる警察だったのも関係あるだろ。


 今では内部で、おやっさんと思兼のコンビを、『相棒』と呼んでるらしい。どこぞの警察ドラマだよ。



「私は無視のままか!?」


「なんだおやっさん、まだ居たんだ?」


「司さん、それは少し可哀想ですよ」


「兼子君~······」


「キモいは!」



 考えてみてほしい。いい歳こいたおっさんが、泣きながら若い男に抱き付こうとする絵を。はっきり言ってキモいの一言につきる。まったく、誰得だ。



「さて、本題に入ろうか?」


「立ち直り早っ!?」


「身分上、あまり遊んでられなくてね。それに君としても、あまりここに長居したくないだろ?」


「まあ~ね······」



 はっきり言って俺は警察が苦手だ。


 今回の依頼の警察へのたらい回しも、おやっさんを通してやろうと思っていた。

そう言う意味では、おやっさんが唯一頼れる警察なのだ。


 ちなみにそれ目当てで思兼を派遣したわけじゃない。派遣される神様なんて、派遣を依頼する人の気持ちで決まるんだ。


 ここで神様派遣の詳しい内容を教えよう。聞けばよっぽどの事がない限り、神様を派遣してもらおうとなどと思わないだろ。


 まずは僕に依頼内容を話す。それが嘘であれ本当であれ話してもらう。

俺は仲介役に過ぎないから、基本派遣は行うよ。ただし、ここからが重要だ。


 一つ目。神様派遣の契約を結んだら、僕はそれ以降関わらない。


 二つ目。どんな神様が派遣されるかは、依頼を行ったその人の気持ち次第。


 三つ目。その神様が気に入らなくても契約破棄出来ない。


 そして最後の四つ目が一番大事だ。


 依頼内容とその人の気持ち次第では、依頼を終えた後、神様がその人に罰を与える事があるのだ。人を呪わば穴ふたつ、ってやつだな。


 おやっさんはこの四つ目に注目し、内部から犯罪紛いな事をする可能性のある新興宗教団体を潰す事を考えついた。


 まっ、これは思兼の入れ知恵なんだよな。神をもって、神で無きモノを破壊する。さすがは知識の神と言った所か。


 もう一つ話しておこう。俺とおやっさんの関係だ。本来なら神様を派遣した時点で、俺は関わりを絶つ。だけど、派遣された神様が派遣の延長を申し出てきた場合、契約の更新に来ないといけない。


 つまり派遣以降も、僕は依頼したその人と関わらないといけないのだ。その中で、僕とおやっさんの関係が出来上がった。


 だから俺とおやっさん、そして思兼神との関わりは、かなり特殊なケースと言える。

まっ、今更この関わりを崩す事なんて考えないけどさ。



「それじゃ本題に入る前に、思兼の契約更新をするよ」


「あれ?もうそんな時期ですか?」


「いや、後1ヶ月位残ってるけどついでに」


「なら1ヶ月後、私の方から伺いますよ」


「そうか?それなら別に構わないが」


「はい。そうでもしないと、なかなか司さんに会えませんからね」



 そう言いながら、熱い視線を送ってくる思兼。悪いけど俺に、そっちの趣味はない。こっちに来たら、ゲブを生贄に捧げるか。


 クックックッ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんだか寒気がしますね」


「きっと神藤が、悪巧みを考えてる」


「有り得ますね······」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「依頼内容の確認は······大丈夫みたいだね」


「あぁ。ここへ来る前に、貰っていた資料は全て頭に入れたよ」


「瞬間記憶と完全記憶ですか。つくづく司さんには興味が湧きます」



 こっちを見るな。何度も言うが、俺にそっちの趣味はない。それにこの二つの能力は、俺を化け物へと変えた忌まわしき能力だよ。



「ごほんっ······話しを続けよう。資料の通り、私の部下が潜入している。君は部下の紹介で中に入り込んでもらう。そして神様の派遣を行い」


「潰せばいいんだな?」


「ご名答」


「分かった。あっ、最後に確認。君は神様を信じるかい?」


「またそれを聞くのか?」


「口癖だよ。それで?」


「もちろん信じるさ」


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