人狼の男の子と怪我をした母親
ぺろり。狼の下が私のほおを舐める。
え、なに、なに!?味見されてるの?
「お姉ちゃん。」
ん?誰かいる?
「お姉ちゃん。眠いの?」
……もしかして、この狼が喋っている?いやいや、まさかそんなわけ……。
「お姉ちゃん?」
口が動いてる。マジか。
「……はじめまして。私はカトレア。……あなたは?」
食べられないか不安な中、不安を押し切ってなんとか声を出す。
「こんにちは、カトレアお姉ちゃん!僕は人狼だよ。」
人狼。それは、この世界で獣人の頂点に立つ種族。って、どうしてそんな子がここに!?
「お母さんは!?お母さんとお父さんは!?」
貴重な人狼に、誰もついていないなんて。目が飛び出そうなほど驚いた。人狼は魔素をもち、魔族でもあり、人でもあり、獣でもある。とくに、獣人は人狼を敬愛していた。人狼は、貴重な存在なのだ。そんな存在である人狼が、1人でこんなところを出歩いているなんて。
「お父さんなら、遠いところに行っちゃったってお母さんが言ってたよ。もう二度とこっちには戻って来れないんだって。お母さんは……。」
遠いところ。つまり、それって……。
「死んで、しまったんだろうね。」
寂しそうな声でゼラがそう言った。ゼラの声は、私にしか聞こえないらしいから、きっと、この人狼の心を傷つけてはいないだろう。
「そっ、そうだ、お母さんが、お母さんが……。」
人狼の男の子は焦ったような声をして私の服を引っ張った。
「怪我して倒れてるの!」
人狼の男の子は、私の首元の服を噛み、自分の背中へ乗せた。
「きゃっ!?」
さすがの私も驚き、走りはじめた人狼の男の子にがっしりしがみつく。
「落ちないでね。」
この子は私をお母さんのところに連れて行くつもりなのだろうか?と言っても、私にはレベル1の回復魔法しか使えないし、どうしよう?
しっかり捕まっていれば、ある程度落ち着いて考えることができるものだ。どうやってこの子の母親を助けようと考えているうちに、人狼の男の子はピタリと足を止めた。
「お母さん!人を連れてきたよ!」
お母さん、と人狼が呼びかけたのは人型の女の人だった。人に返信しているのだろうか。
その右足には矢が突き刺さり、血が溢れ出ていた。
「ど、どうしよう。」
不安にさせてしまうからいけないと分かっているのに、つい声に出てしまう。
「落ち着いて、私の言う通りに治療して!」
焦る私にゼラが声をかけてきた。私は小さくこくりとうなずき、人狼の母親に近付いた。




