甘えん坊
「姉上!リジア、姉上から離れろ!」
私の異変を感じ取ったのか、アスターがリジアから私を引き剥がす。相当焦っていたのか、アスターは息を荒げていた。
「大丈夫よ、アスター。」
リジアから離れ、マリーのもとへ戻る。そして、ドアを閉めようと、ドアノブに手をかける。
「あれえ?もう帰っちゃうんですか?お姉様。」
リジアが手を揃えて、首を傾げながら私を見る。
「ええ。……また来るわ。」
「え、本当ですか!?待ってまーすっ!」
ギイィ、バタン。やっと、ドアが閉じられた。
「マリー、大丈夫?」
マリーはガタガタと震えていて、私の腕にしがみ付いて離れない。もう片方の手で、アスターの手を握っていた。
「マリー、もう大丈夫だよ。よく頑張ったね。」
アスターと2人で慰めるのだが、マリーはポロポロと泣き出してしまって、泣き止みそうな気配ない。そういえば、リジアは隷属魔法の使い手をマリーに向かって送ったんだっけ。相当怖かっただろうに、無理してついてきてくれたんだなあ。
「ありがとう。マリー。」
マリーの頭を、優しく撫でる。アスターも、ギュッと、マリーの手を握り返した。
アスターの部屋に戻ってきたところで、私たちはやっと落ち着くことができた。
よくよく考えてみたら、リジアは隷属魔法の使い手を操る、ちょっとヤバい人だ。どうしてあの時、大丈夫だと思ったのだろうか?どうしてあの時、近づいてしまったのだろうか?無事だったからいいものの、まずいことをしてしまったなあ。
「お姉様……。お姉様を、とられてしまうかと思いました……。」
そう言いながら、私の隣に座って私の服を掴んで離さない。その背中は、プルプルと震えていた。
「いいですね、マリーは甘えられて。」
アスターはギュッと自分の服の裾を握り締めていた。王子という立場の彼は、うまく人に甘えることができないのだろう。
「……隣、くる?」
「……え?」
今なら、この部屋には私たち以外誰もいない。誰にも、見られていない。
「誰にもバレないよ。甘えても。」
そう言って私が手を伸ばすと、アスターは私の横にちょこんと座り、私の服の裾を握った。
なにこれ、可愛いのが私の両隣に……。しあわせだあ。
2人をぎゅう、と抱き寄せ、頭を撫でる。2人は心地よさそうに微笑むと、そのまま眠ってしまった。
もう夜になるのだ。仕方がない。
「おやすみなさい。アスター、マリー。」