リジア王女
アスターの部屋を出て、リジアちゃんの部屋に向かう。2人の表情には、緊張の色が現れていた。
「リジアちゃんって、どんな子なの?」
名前を呼んだだけで、少しマリーの肩がびくっとする。マリーにとって、リジアちゃんはそれほどに恐ろしい存在なのだろうか?
「ここです、姉上。」
ドアの前には、アスターの部屋とは違って護衛はいなかった。
アスターはにっこり笑ってはいるものの、その手には汗をかいていた。
自分が王になりたくて、その力を証明するためにマリーを召喚した王女リジア。我儘なのは確かなのだろうけれど、そんなに怯えるほどの性格の持ち主なのか?
マリーが震える手でドアに向かって手を伸ばす。その手を、アスターが手で包み込むようにして止めた。
「無理しなくていい。私が開けよう。」
その声は真剣だった。
「リジア?はいるよ。」
アスターが中に向かって声をかけるも、返事は返ってこない。
「はいるよ。」
もう一度声をかけてから、ドアノブに手をかけ、アスターはゆっくりとそのドア開ける。
開けた瞬間、気持ち悪くなるほど強い花の匂いが鼻に飛び込んできた。
「いらっしゃあい。新しいお姉様?」
コツ、コツと足音が近づいてくる。マリーはアスターの後ろで小さく縮こまってしまった。アスターも、マリーを守るかのように片腕を広げている。
「はじめまして。ローズと申します。」
動きたくないという足を無理やり動かし、一歩前に出る。
「まあ、お姉様。お姉様なのだから、敬語なんて使わなくて構いませんのよ?どうぞ、リジアとお呼びくださいな。」
奥から出てきたリジアは、美しい顔立ちをしていた。顔だけではない。一つ一つの動きも、身につけているものまで美しい。2人が何をそんなに恐れているのかが、わからなかった。
一歩、一歩と近づいていく。
「ダメです、姉上!」
そんな言葉、気にもならなかった。また、一歩、と近づいていく。
ふっと、体重を感じなくなった。浮いている?いや、違う。腕を引っ張られたのだ、リジアに。
ガクンと落ちていく体重を、リジアに支えられる。
「まあ、お姉様!私の親友に雰囲気がそっくり!」
私の肩を支えながら、私のほおに触れる。
「殺しちゃいたいくらい、だあいすき、お姉様。」
2人の言っていたことが、やっと分かった。この子の中には、根拠なんかで言い表せない、恐ろしさが眠っている。なぜ、なんでわからない。ただただ、恐ろしい。一体、リジアは……。
「お、ね、え、さーまっ!」
何、者……?