王様の養子
「はじめまして、だな。」
王様が私の方を向いて手を差し出す。
「お初にお目にかかります。人間国伯しゃ……いえ、ローズに御座います。」
一歩前に出て、王様と握手を交わす。
「おかえり、マリー。何があったか、聞かせてくれるかい?部屋でね。」
外で話しては誰に聞かれているかわからない。そこにまでちゃんと考えているのは、さすが王様だ。
王様に続いてマリーちゃんと部屋に入る。ここはどうやら王様の部屋のようだ。
「そうか、そんなことが……。」
話を聞いた王様は静かに悲しんでいた。
「私は隷属魔法をかけられそうになりました。……心当たりはありますか?」
マリーちゃんは静かに王様に尋ねた。
「おそらく、娘、第一王女の仕業だろう。マリーに言うことを聞かせられなかったから、魔王を倒しに行かせられなかったから、隷属しようとしたんだろう。」
そう言う王様は、どこかで期待をしていたように沈んだ顔をしていた。
「すまなかった。」
深く頭を下げてマリーに謝る王様は、親の顔をしていた。どれだけ酷い娘でも、娘のために謝れずにはいられなかったのだろう。
「お父様は悪くありませんよ。」
そう言ってマリーちゃんはメイドの持ってきた紅茶を静かに口にした。怒っているようには、見えなかった。きっと、悲しんでいるのだと思った。傷ついているのだと思った。けれど、私にこの子を癒してやることは、できなかった。
「ローズさん、今回は本当にありがとう。その上で、提案があるのだが。」
王様が私に紅茶を進めながら私に話しかけてきた。
「なんでしょう?」
王様の目をしっかり見て返事をする。王様もまた、私の目を見ていた。
「私の養子になってはくれないか。」
どきっとした。それは、つまり。出来損ないの娘の代わりが欲しいのだろうか?
「お断り……
「もちろん、王女としての役割は果たしてもらわなくて構わない。」
王様はにっこり笑った。その笑顔は社交界でよく見てきた偽物の笑顔ではなく、心からの優しい笑顔だった。信用してみても、いいのかもしれない。
「ローズさん、君に、マリーの姉になって欲しいんだ。」
そういえば、と先ほどマリーちゃんが王様のことをお父様、と呼んでいたのを思い出す。マリーちゃんは王様の養子に入っていたのか。
「……わかりました。」
王様は、きっとマリーちゃんの心の傷を癒したいのだろう。だから、マリーちゃんが懐いている私にマリーちゃんの家族になって欲しいのではないだろうか?それなら、断る理由はどこにもなかった。
「おお、ありがとう!」
王様が私の手を取ってお礼を言ってきた。
「カトレアお姉さんは、私のお姉様になるのですか?」
可愛い顔で、マリーちゃんがこてんと首を傾げた。
「そうよ。私、マリーちゃんのお姉ちゃんになるの。」
私がそう言ってマリーちゃんの頭を撫でると、マリーちゃんは嬉しそうに
「では、これからはマリーと呼んでください。」
と私の手にすり寄ってきた。王様は、嬉しそうに私たちの姿を見つめていた。