路地の女の子
次は食べ物が見たいな、と思いつつ、お金がないのでそんなことも言えないな、などと考えながら男の子の並んで歩く。けれど、まだ数歩しか歩いていないのに、男の子はピタリと足を止めた。
「……お姉ちゃん。」
その顔は、真剣な表情をしていた。何かを見つけたのだろうか?
「……血の匂いがする。かすかだけれど。」
人間より、獣人より遥かに強い五感を持つ人狼。その嗅覚は、水のかすかな違いも嗅ぎ分けられるほどだという。
「行こう!」
そう言って男の子が私に手を差し出した。私は頷いてその手を取った。
はあ、はあ、と息を荒げながら走る。男の子は、一切苦しそうではなかった。これが種族の差か……。けれど、いまはそんなことを言っている場合ではない。誰かが怪我をしているかもしれないのだ。五十路で向かわないと。
「匂いが濃くなってきた。」
近づいている、と、男の子は言った。あまり重症だと私の回復魔法では治せないかもしれないから、そこまで重い怪我じゃないと良いんだけど……。
「ここだ!」
男の子が指さしたのは、細い路地だった。よく見ると、奥に女の子が倒れている。
「大丈夫!?」
急いで駆け寄る。どうやら意識はあるようだ。女の子は起き上がって、
「こないで!」
と叫んだ。その手には、小さなナイフが握られていた。
あれは、警戒している目だ。怯えている目だ。……何か、あったんだ。
「大丈夫よ。危害を加えるつもりはないわ。」
心からの笑顔で笑いながらそういうと、どうやらその女の子は信じてくれたようで、安心したのかパタリと倒れてしまった。
「えっ。だ、大丈夫?」
ゼラ、あの子は?
「気絶しただけ。怪我も、転んですりむいただけみたいだよ。」
ゼラは冷静に事態を分析し、そう教えてくれた。
「気絶してるだけみたいだよ。私は、怪我を治しちゃうから、そこで待っててくれる?」
男の子は真剣な顔のまま頷いて、一歩後ろへ引いた。私の邪魔にならないようにしてくれているのだろう。
「怪我をしているのは膝。治してあげて。」
女の子を仰向けに寝かせ、膝に目を向けると、右膝をすりむいていた。
治れ。
心の中で一言そう念じると、膝の怪我は淡い光とともに消えていった。
「この子、どうしようか?」
どこかに運んでやりたい。けれど、どこが良いだろうか?
「いまなら転移魔法が使えるよ。」
て、転移魔法?
「そ。聞いたことないかな?」
聞いたことはある。けれど、かなりレアな魔法で、人間国でも数人しか使い手がいなかった貴重な魔法だ。
「いまはレベル1だから、いったことのあるところにだけ転移できるはずだよ。」
本当に使って良いのだろうか?人狼の、この男の子の子のは信頼しているつもりだが、他の誰かに見られていないとは限らない。転移魔法の使い手は貴重。つまり、狙われやすいのだ。
「僕が家まで運んで行こうか?僕にも、そのくらいの力はあるよ。」
ここは、やはりこの子に任せるべきだろう。少し目立つかもしれないが、仕方ない。私の力では、彼女を運んでやれない。
「お願いね。」