第六話 そうだ!出版社を作ろう
ここは東京・新宿歌舞伎町、ホストクラブ「トゥルーラブ」。
意気揚々と原稿を持ち込んだ実里の小説を、ざっと一読して、竜馬は難しい顔になる。
「うちの出版社は自己啓発本とかビジネス書しか、出版したことがないんです。実里さんの場合だったら、株のデイトレードで月三百万稼ぐ方法とか、実里さん一日八回トイレ掃除するって言ってたでしょう。そういうのを開運法として紹介する本だったら出せるんですけどね」
実里はあからさまに落胆した。
「そうですか、駄目ですか。」
しばらくの間を置いて、竜馬がフォローするように言った。
「実里さんにはお世話になってるし、こういう作品専門に出してるレーベルの編集者に、心辺りがありますので、そちらからなら出せるかもしれません」
「そのレーベルというのは、ボーイズラブとかいうジャンルでしょうか?」
実里の問いに「そうなりますね」と竜馬が即答する。
今度は実里が難しい顔になった。
「決してボーイズラブを見下すわけやないんですけど、一般文芸書として勝負したいんです。直木賞候補に上がるようなん目指してるんです。」
竜馬は内心、直木賞とは大きく出たなあと思いつつ、言葉を発した。
「それなら新人賞を取るとか、箔をつけないと難しいと思います。そのレベルでないと、本も売れませんしね。実里さん、本一冊出すのに出版社がいくらかけるか知ってますか?ざっと三百万ですよ。出版社にそれだけの金額投資させるんです。元が取れて売れる目算が立たないと、本は出せません。」
竜馬の言葉にうなだれながら、実里は京都へ帰郷した。
帰宅した実里を、期待に満ちた顔の四女・百合が出迎えた。
実里は言葉少なに書斎に引きこもった。
新人賞について調べつつ、実里は別の事を考えていた。
実里の本を出す出版社がないのなら、作ればいいのではないか!
ネットで検索すると、数万円で出版社が作れるという。
出版社の運転資金は、株の利益で賄えばいい。
うきうきと出版社を作るプロジェクトが始動した。