第四話 母の裏切り!?ホスト竜馬
「本田さん、見てほしいものがあるんやけど……」
同じ研究室で同じ修士1年の中山明江が、遠慮がちに話しかけてきた。
「何やろか?」
本田家の三女・桜子は、微笑を浮かべて明江の差し出すタブレットの画面を見る。
その場で桜子の表情が凍り付いた。
そこには東京・新宿歌舞伎町の、トゥルーラブというホストクラブの、竜馬という源氏名の男の隣、見覚えのある、一竹辻が花の着物を優美に着こなした、本田家の母・実里が写っていた。
インスタグラムのいち写真だった。
駄目押しの様に、「京都の美魔女・実里さんにシャンパンタワー頂きました!」と添え書きしてある、
桜子はタブレットを手に固まっている。
「本田さん、堪忍え。恥をかかせるつもりやなかったんやけど。知ってはらへんみたいやから、一応知らせといたほうが、ええって思うて。余計なことやったわ。ほんま堪忍え」
桜子の表情の劇的な変化に、明江は焦った様に言い訳の言葉を連ねる。
桜子は張り付いたような笑顔を浮かべ、「よう写ってはるわあ。うん、うちの母です」喉から声を絞り出すように言う桜子に、明江は痛ましげな視線を向けた。
人気ユーチューバーで、元・ミス京大の本田家の三女・桜子が、人から憐れまれるという前代未聞の事態に、打ちひしがれている頃、母の実里はうきうきと小説の執筆にとりかかっていた。
それが本田家を巡る嵐の幕開けだった。
桜子は動揺のあまり、姉の麗香にインスタグラムのURL付きの、メールを送った。
3分もしないうちに、麗香から返信が来た。
短く「もう知ってる。話は帰ってから」それだけ書かれたメールを、桜子は涙目で凝視していた。
意気消沈している桜子とその原因を、教授を筆頭に研究室の全員が知っている様子で、桜子に教授は言った。
「今日はもう、することも少ないし帰っていいよ」
桜子は反論する気力もなく、穴が有ったら入りたかったので、素直に「そうさせて頂きます」と研究室を後にした。
帰宅した桜子を、どことなく華やいだ様子の母・実里が迎える。
「おかえり。寒かったやろ?今日のお夕飯はイタリアンのフルコースにしてみたんえ。楽しみにしといて」
桜子は言葉に詰まり、無言で自室に閉じこもった。
麗香お姉さま早う帰ってきてと、願いながら。
実里と母のお手伝いしていた百合が首をかしげる。
「桜子ちゃん、何かあったんやろか?」
母の実里がつぶやくと、百合も不思議そうに応じる。
「お母さまがお元気になられたと思ってたら、桜子お姉さまの様子が、おかしくならはったわ」
百合の言葉に実里は肩をすくめる。
自分が原因だとは、微塵も気づいていない実里だった。