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14歳の秘密

作者: まつもとい

 中学二年の新しいクラスが発表されて、

「またお前と同じクラスかよ」

「あいつ何組だって?」

 そうやって大騒ぎしていた教室に、新担任のチビジマが見たことのない生徒を連れて入ってきた。痩せた手足に長いストレートの髪と、少し人を見下したような、強い意志を感じさせる目の女子で、それがカオルだった。

 一瞬教室内が無音になって、すぐにはちきれそうな好奇心を孕んだ視線が、値踏みするように転校生の全身に集まった。チビジマが黒板に「森薫」と書いて何やら言っていたが、聞いている生徒などいなかった。

 ――タレントみたいな名前の割には、たいしたことないやん。

 ――春休み、高台の豪邸に人が入ったって。私らくらいの女の子がいるって言うてたから、あの子やない?

 ――金持ちが公立なんか来るかよ。

 クラスメイトのお節介なヒソヒソ話に臆する事無く、彼女は背筋を伸ばしてゆっくり教室を歩き、与えられた席に座ると顔を上げてまっすぐ前を見た。その堂々とした振る舞いに、何となく皆一目置いたような雰囲気だった。

 俺も転校生に興味がないわけではなかったが、席も離れていたし、それに何となく俺より人間が大きいというか、ちょっと近づきにくい雰囲気だった。豪邸の娘というのも帰る頃には裏がとれ、まあ、俺とは関係薄だな、そう思うと彼女のことは意識の隅へと追いやられた。


 午前中で始業式とホームルームが終わると、同じサッカー部のリョウスケが一緒に帰ろうと言ってそばにやってきた。

「今日は部活ないし、帰りに何か食べて、公園でパス練(習)でもしようや」

「悪い。家に昼飯があんねん」

「じゃあ、一度家に帰ってから行くか」

 俺が外で食べるのを断ったのは金がないからだ。リョウスケは気づいたはずだが、そんなことに気を遣わないのがこいつのいいところだ。

 俺たちは校門を出て、マンションの間を蛇行する道を歩きながら、すっかり花の落ちた桜並木からこぼれる光に目を細めた。この辺り一体は緩い丘陵地帯が続いており、頂は大きくわけて三つ、その真ん中を占めているのが中学校と二十数棟からなるマンション団地だ。

「なあヒビキ、あの森って転校生、どう思う?」

「どうって……、結構根性ありそうな気はするな」

「そうやろ。俺、なんかあのキビキビしたカンジがええわ」

「なんやリョウスケ、一目惚れか」

「そんなんとちゃうわ」

「そんなんやんけ」

 リョウスケはどうも俺を牽制したくて誘ったみたいだが、のっけから牽制する相手を間違えてるようじゃこの先が思いやられる。

 団地の入り口まで一緒に出て別れた。東へ向かうと戸建ての家が立ち並ぶ閑静な住宅地が広がる。あのエリアは昔から住んでいる地元の人が多く治安もいい。坂道沿いの角地にある日本家屋がリョウスケの家だ。

 反対の西側の丘が、転校生の越してきた高台で、プールやテニスコートつきの豪邸が数軒あるのだが、まさかそんな家のやつと同じクラスになるとは思わなかった。


 リョウスケと後で会う約束をして、俺は一人駅の方へと坂を下った。線路と幹線道路が谷底を走っているように見える一帯で、駅周辺こそ整備されてこぎれいなものの、道路から一本路地を入ると、古ぼけた木造アパートや、あちこちコンクリートにヒビの入った社員寮などが続いていた。

  俺が自宅のある二階建ての木造長屋に近づくと、路地に集まった小学生の一人がこちらを振り返った。今年も長屋で飼われているマリーが子犬を産んだのだ。小学生たちは給食のパンを手に、毎年この時季だけやってくる。振り返った子どもはこちらから目をそらそうとしない。俺は少しためらいながら、割れたガラスをガムテープでとめた引き戸から中に入った。

 子どもたちの明るい声が、光と一緒にガラスを通して部屋に入ってきていた。俺は制服を脱いで冷蔵庫の中の野菜炒めとご飯をレンジで温めて昼にした。食べ終わると、順番を間違えたと思いつつ台所で手を洗い、シンク下の米びつから米を三合とってお釜で洗った。米と水をきっちり計ること、手早く洗うこと、最低一時間は浸すこと。それがうまく炊く秘訣だと母に今でも言われる。小学生の頃から何万回聞かされたか知れない。

 米を炊飯器に仕掛けたらサッカーボールを持って外に出た。子どもたちは相変わらず子犬に夢中だ。俺は東の丘の向こうにある公園で日が沈むまで、リョウスケとボールを蹴り続けた。

 

 辺りがすっかり暗くなり、腹が減って家に戻ったものの、母はまだ帰っていなかった。マリーは子犬とともに小屋に入っているようだ。俺はシャワーを浴びてテレビをつけ、横になってぼんやりとお笑い番組を眺めていた。

 はっとして目を覚ますと、母が台所で夕飯の仕度をしていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。体にタオルケットがかけられており、座卓には既に鯖の塩焼きとほうれん草の胡麻和えが並んでいた。テレビは消されている。小さな家なのに、母が帰ってきたのには全然気づかなかった。目が冴えなくて瞬きをパチパチやっていると、母が煮物用の鉢とグラスを二つ抱えて居間に入ってきた。

「やっと起きたわね。ご飯ついできて」

 俺はのろのろと二膳よそい、冷蔵庫から麦茶を取り出した。座卓の前に座ると、母が「いただきます」と手を合わせる。俺も小さな声で「いただきます」と言ってテレビをつけた。母は眉を少し上げたが何も言わなかった。

 壁の時計は八時半を指していた。食事はいつも二人だ。父はいない。俺は父親の名前も顔も知らない。ただ、「響」という名をつけてくれたとだけ聞いている。墓参りに連れて行かれたこともないから、もしかしたらまだ生きているかもしれないけど、名前も教えられないような関係だったんだろうと、いつからともなくわかってた。幼い頃は周りの子どもたちに片親だといじめられて母を恨んだこともある。とはいえ、寸暇を惜しんで一生懸命働く母を見てきて、今はもう母の選択をとやかく言うつもりはない。

 母は鉢に盛られた筑前煮を取り分けながら言った。

「明後日の金曜日ね、また遅くなるのよ」

「うん」

「最近残業頑張ってるから、会社で食事に連れていってもらえるの。……いいかな?」

「俺に聞くことやないやろ」

「ありがと。夕飯は冷蔵庫に用意しておくから」

 母は法人担当の保険営業として、これまでも残業や外食がなかったわけではないが、俺が中学生になってからはむしろ積極的に残業をし、特に最近は夕飯を外で食べてくることが増えた。仕事上、人付き合いも大切だろうし、全部俺の進学費用のためだと分かっているから、それをどうこう言うつもりはないし、玄関のガラスのことも言わなければ、携帯が欲しいとも言わない。むしろ俺より小さな体でそこまでしてくれることに、自分が愛情を注がれていることを実感する。

「新しいクラスはどう? 担任の先生は誰?」

「国語の小島。背が低くて痩せててメガネかけてるから、チビジマって呼ばれてる」

「そういう呼び方はやめなさい。来月三者面談でお会いするね。友だちはできそう?」

「うん。リョウスケと今年も同じクラスやった」

「そう、それはよかったねえ」

 ふと、転校生のことを思い出した。だが、高台のことを母に話すのはためらわれて、俺はその後無言で飯を食べ続けた。


 翌日からは一年の頃と何一つ変わらない毎日――自宅から三十分歩いて登校して、授業が終わるまでじっと我慢して、放課後は部活でサッカーやって、うちに帰ったら炊飯器に米を三合磨ぐ――が始まった。学年が変わったくらいで環境が急に変わることはない。そう思っていた矢先のことだった。

 団地の入り口の少し入り込んだところに、家族経営の小さなコンビニがあった。部活の後、スポーツドリンクをよく買いに行く店だ。コンビニと言っても夜間は店を閉める、酒屋につまみや菓子を置いたような店だった。店の外には自販機が並び、その脇には空のビールケースが積みあがっていて、外から店内すべてを見渡すことはできない。店の中も、三列しかない細い通路を、背の高いスチールラックに並べられたワインやウイスキーの酒瓶がカウンターからの視線を遮っている。店の一番奥と、入口正面に防犯カメラがついているが、それが見せかけのオモチャで、本当は録画なんてできてないことを俺たちは知っていた。

 万引きしようと言い出したのは、サッカー部二年のリーダー格、ヨシナオだった。店番がオヤジではなくばあさんだったらやろう、六人で店に行き、二人ずつカウンターで飲み物の精算をしている間に、あとの四人が菓子や雑誌を失敬しようということになった。

  俺としては、ただでさえ金がないことでグループからはみでることが多かったので、合せられるところは合せておきたかった、その程度の気持ちだった。かくして店を覗くと、カウンターに座っているのは、背中の曲がったばあさんで、他に客もいなかった。 

 最初の二人が店に入り、一番奥のペットボトルが並んだ陳列棚に向かう。時間をずらして残りの四人が店に入り、「喉が渇いた」「何にしよう」などと言い合いながら、二人ずつ二手に分かれて通路を進んだ。俺はリョウスケの後について、窓ガラスに沿った通路を歩いた。だんだん心臓の鼓動が早くなる。見られているような気がして思わずカウンターを振り返ると、リョウスケに腕をはたかれた。

  最初の二人がペットボトルを持ってカウンターへ向かう。千円札か五百円玉で支払うはずだ。リョウスケが目配せをしたので俺が盾になると、彼はマンガを鞄の中に落とすようにして入れた。……何も起こらない。聞こえるのはレジで小銭がぶつかる音だけだ。

  リョウスケともう一人がペットボトルを取ってカウンターへ向かう。既に精算を済ませた二人はカウンターのそばから離れず盾となる。口の中が異様に乾いていた。部活のせいか、緊張のせいか分からない。棚に並んだ商品を睨む。「また千円かい。小銭ないのかい」というばあさんの声を聞いて、俺は震える手でシリアルバーとチョコレートを鞄の中に入れた。やはり何も起きない。成功だ。

 ほっと息をついて何となく振り返ると、ビールケースと自販機の間に誰かが立っているのを見て背中に電流が走るような感覚がした。隙間からまっすぐ俺を見るその目は、驚いているでもなく、咎めるでもなく、純粋に面白がっているようだった。すぐあの転校生だと気付いた。

「ヒビキ、いくぞ」

 ヨシナオに呼ばれ我に返った俺は、あわてて奥へ行ってペットボトルを取りカウンターで精算した。俺が最後なのは、二百円しか持っていなかったからだが、ばあさんと転校生への恐怖で、その金を床に落としてしまった。

「何してんだよ」

 リョウスケがわざとらしく笑って俺の肩を叩き、小銭を拾ってばあさんに渡した。鼓動が、心臓が頭の中にあるのではないかと思うほど大きな音で聞こえていた。皆は少し強張っていた肩の力が抜け、目配せしたりガッツポーズをしながら店を出て行く。俺はつり銭を受け取り、汚れたスニーカーを見つめながら店を出た。外に出たとたん、皆の笑い声が弾けたが、俺は笑えなかった。

 転校生の姿はどこにも見えなかった。


 森薫が俺に近づいてきたのは、万引きをした翌日の放課後だった。授業が終わるまで、チラチラと彼女の様子を窺っていたのだが、もともと一匹狼タイプで誰かと噂話をしている様子もないし、俺の方を見ることもないので、昨日のあれは見間違えだったのかとさえ思うようになっていた。だからロッカーで話しかけられたときは、醒めたくない夢から無理やり起こされたような気分だった。

「音楽室の裏の非常階段に来てや」

「……」

 教室から出る際リョウスケを探したが、もう部活に向かったようだった。見つかると面倒だ。クラスメイトに見咎められないよう時間差で音楽室裏に向かうと、森薫は階段に腰掛けて丘の裏側を眺めていた。俺の姿を認めると、

「座りいや」

 と顎で指示する。彼女は奈良との県境から引っ越してきたと誰かに聞いた。大阪北部の俺たちより少し訛りが強く、より「大阪弁」らしくてなんとなく迫力があった。俺は彼女の三段下に腰掛けた。

「ヒビキやろ。頼みたいことがあるねん」

 いきなり名前を呼び捨てにされたことにたじろいだ。

「……頼みたいこと?」

 カオルは頷くと、俺を押さえつけていた視線を遠くの景色に移した。

「うちは、母親が早くに死んだから父親と二人やねん」

 意外な気がした。何不自由ないお嬢様だと思っていたから、小さな同胞意識を覚えた。が、弱味を握られているだけに、自分も片親であることを馴れ馴れしく話すことはしなかった。

「うちの父親って、もうすぐ五十やねんけど結構モテんねん。社長やし、金持ちやし、娘が言うのもなんやけど、見た目も結構かっこいいしね」

 俺は彼女と同じように非常階段の前に広がる景色に視線を投げた。丘の裏側から低地にかけて大きな運動公園になっており、その向こうに別の学区の中学校が小さく見える。右の方は西の高台で木々に埋もれた豪邸がぽつぽつと顔を出している。あんな家に住んでるかっこいい男なら、モテて当然だ。

「うちの父親ってオープンやから、新しい彼女ができたらたいてい家に連れてくるねん。モデルとかスチュワーデスが多いかな。私と三人で旅行に行くこともある」

「そういうの……お前はいややないんか」

「カオルっていうねん。……べつに気にはしてへん」

 彼女がごく自然に名前を言ったことに驚いた。俺は女子を名前で呼んだことなどなかった。カオルが白い脚を組み直す。スカートの隙間からチラリと太ももが見えて、思わず目を逸らしたが、彼女はそんなこと全く気にしてないように話を続ける。

「うちの父親、結構遊び人やねん。だから相手もころころ変わる。でも、父親は結構あからさまに彼女より私のことを大事にしてくれるから、私ら、うまくいってる」

 俺は相槌を打ちながら聞いていたが、話が見えなかった。早く部活に行かなくてはならないのだが、じっと聞いているしかない。こっちの焦りを知ってかしらずか、彼女はのんびり話し続けた。

「なのに、今回はどうもいつもと様子が違うんよ」

「違うって、何が?」

「うーん、なんとなく。なんとなくなんやけど、本気っぽい気がするねんな」

 彼女はかぶりを振る。艶やかな髪がさらさらと流れた。

「本気やと、困るんか?」

「困るわけやないけど、何か気になるやん? だって本気やったら、結婚して私の母親になっちゃうかもしれへんねんで」

「どんな人?」

「それなんよ」

 彼女が俺の隣に座り直し、ぐっと顔を近づけてくるので少し仰け反った。

「今回は、なかなかうちに連れてこうへんわけ。だからまだ会ったことないねん」

「じゃあ、親父さんに頼んで連れてきてもらったら?」

 カオルは口を尖らせた。どうも、それはしたくないらしい。自分が呼び出された理由がようやく分かった。


 カオルの計画は単純だった。父親のスケジュールを調べて、デートの予定のありそうな日に、会社の前で待ち伏せし後をつけようというものだった。そんなに上手くいくわけないと思ったが、弱味を握られているだけに、彼女が納得するまでは付き合わざる得なさそうだった。

 スケジュールを調べるのは簡単だった。彼女が父親のパソコンでスケジュールを見ると会社名でなく、イニシャルで予定を書き込んでいる日がぽつぽつあるそうで、それを片っ端から調べるという。少々うんざりしながらも、俺たちは放課後に駅でおちあって出かけるようになった。


 カオルの父親は、林業の他に大阪市内で家具の製造販売会社を経営している。もとは奈良の小さな林家の次男坊で、美大で家具のデザインを勉強したそうだ。

  死んだ母親は奈良でも指折りの大きな林家の一人娘で、ひとつ年下の父親と見合いし婿養子として迎え入れた。その母親が病死したのはカオルが七歳の時だった。気位が高く、薬のせいで髪が全部抜けた姿を父親には一生懸命隠していたのに、葬式の時、葬儀屋が気づかなかったのか、ウィッグが少し浮いていたのが可哀想だった――そんな話を、地元の駅から大阪へ向かう電車の中で聞いた。

 父親の写真を持たされた俺が、会社の斜め前にある公園で張り込み、出てきたら電話連絡する段取りだった。カオルは会社の人たちに顔を知られているから、ということで少し離れた喫茶店で待機していた。電車賃や携帯電話は、全部彼女が用意してくれた。

 父親の会社は、四ツ橋は立花通りのそばにあった。家具屋筋として知られるこの辺りの建物にそれほど大きなものはない。二、三階建ての家具屋、小ぶりなマンションや雑居ビル、古い戸建ての住宅などが不規則に続く。そのあいだあいだに、洒落た洋服屋やカフェ、美容院などが点在する。

  父親の会社は五階建てビルの一階を作業場にし、二階三階に事務所を構えていた。一階には時々トラックがついて荷物の上げ下ろしをしていて、そのたび洒落た椅子や家具が出てくる。製造は中国で、輸入後の修理はここでやっているそうだ。

 父親は社用車を使わずタクシーに乗ることが多いという。四ツ橋筋まで三、四分歩くとあっという間に流しのタクシーを拾ってどこかへ行ってしまうのだそうだ。それでは父親を見つけてすぐカオルに電話しても、とても間に合わない、こんなのできるわけないと訴えると、相手を見つけてくれたらあのことは一生黙っておく、でも、ここでやめたらチビジマに言うと脅された。

 仕方なく部活をさぼるのだが、帰りは部活の時より遅く、週に二日、三日と続くとさすがに怪しまれる。

「最近随分遅いね」

「二年だからね、部活の中心だし」

 母に言われて、用意していた答えを返す。

「ヒビキ、最近部活さぼりすぎなんちゃう?」

「ごめん、この頃お袋の調子が悪くてさ」

 リョウスケたちの追求に母子家庭を盾にかわす。

 カオルはどうやって遅い帰宅の言い訳をしているのだろうか。

「私、結構昔からこんな感じやから、お手伝いさんも何にも言わへん。言って私が怒ったらクビになっちゃうし。父親は私のこと信じてくれてるし。家庭教師には、今月は有休って伝えたし」

 そうやってひと月近くが過ぎた。公園に潜んでいると蚊に襲われるようになり、虫除けスプレーも用意してもらわないと、などと考えていたところに父親が出てきた。一階で作業をしていた従業員たちが挨拶する。父親は足をとめ、彼らに何か話しかけた。俺はその間に公園を出て電話をかけた。

「出てきた。俺は先に四ツ橋筋に向かってる。タクシー捕まえとくわ」

「私、間に合わへんからさ、タクシーで追いかけてて。目的地に着いたら連絡ちょうだい」

「ええ? 俺一人かよ」

「このチャンスを逃してもう一ヶ月張り込みしたい?」

 舌打ちしてもどうしようもなかった。俺はタクシーを捕まえ乗り込むと、父親が来るのを待って、あの車を追いかけてほしいと頼んだ。

 運転手が怪しげな顔をするので咄嗟に「おやじなんです。お袋に頼まれて」と口走った。お陰で「子どもが顔を突っ込むことやないんちゃうか」「このまま帰って何もなかった言うたるのがお母さんのためちゃうか」などと的外れな説教を受ける羽目に遭ったが、最後は「君もたいへんやなあ」と同情され、運転手は疑いもせず前の車を追いかけてくれた。

 父親の乗るタクシーが止まったのは、ネオン街から少し離れた一軒家レストランの前だった。ライトアップされた玄関にイタリアの国旗がかかっている。正面から中は見えない。   

 俺は建物の周りをぐるりと回ったが、高い塀で囲われており、中は一切覗けなかった。電柱に書いてある住所と店の名前を電話で連絡する。どうせカオルは父親が出てくるまで待つと言うに決まってる。

「ねえ、もうちょっと待ってて」

 到着するなりカオルはどこかへ走って消えてしまった。俺は足元に落ちていたコーヒーの缶を蹴った。いいように使われてしまっている。これが今日で最後だと信じたい。

 俺は周囲に怪しまれないよう、レストランの斜向かいにあるビルとビルの間の細い路地に身を置いて、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。

 見上げた細い空はリトマス紙のように、じわじわピンクにブルーがさしていく。母が今日は遅いと言っていたので助かった。九時や十時になってはサッカーを言い訳にするわけにもいかない。

 しばらくしてふと見ると、店の前でカオルがキョロキョロしている。俺が半身だして手を振ると嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お腹すいたやろ? サンドイッチ買うてきた」

「気が利くやん。たまには女子らしいことするねんな」

「トイレに行きたくてコンビニ探してん」

「なんやそれ」

 俺はサンドイッチとコーラを受け取った。なんだかドラマの中の張り込みする刑事のような気分になって、相棒へぶっきらぼうな愛情さえ沸いてくるようだった。

「カオルはさ、親父の彼女見て、それでどうするん?」

「うーん……」

「若くて美人だったらいいん?」

 カオルは首を振った。

「じゃあ、何がしたいんねん」

「……わからへん」

 少し怒ったような声だった。

「わからへんねん、自分がどうしたいかなんて。でも時々、ジェットコースターで落ちる時みたいな感覚がしたり、変な夢見たり、なんか最近おかしいねん。父親にはいつも冗談めかして聞けてたのに、今回はなんでか聞くのためらわれるし、向こうも避けてるような感じやし」

 堰切ったように懸命に話す顔を見ていると、普段少しつっぱってるような、妙に大人びたような彼女の印象が、急に可愛らしく親しみのあるものに感じられた。

「もしかして、死んだ母親もこんな気持ちやったんやろかって思うねん。妻と娘やから一緒なわけないのにな」

「どういうこと?」

 カオルは炭酸水を一口飲んで、ペットボトルに蓋をすると、それを目の前で揺らしながら話し出した。

「うちの両親見合い結婚やって言うたやろ。母親の家を継ぐための、お互い計算の結婚や。だから、父親は常に浮気しとったみたいやねん。母親の日記に書いてあった」

「日記」

「うん。母親が死んだ後、箪笥の奥から見つけてん。今浮気してるんちゃうかって思ったらお腹がきゅうってなったり、人に言われへんような夢を見るって。今の私と一緒やろ。でもさ、日記なんて死ぬ前に絶対燃やしたいやん。だからわざと残したんかなって思うねん。父親の悪行を娘に伝えたかった、とかね」

 俺たちは隣に並んで細い空を見上げた。日はすっかり落ちているが星も月も見えない、ただ濁って暗いだけの空だった。

「ヒビキんとこは? あんたんとこも二人やって誰かに聞いたわ」

 急に話を振られて戸惑った。

「あー、うん、二人。親父はおらん」

「お互い子どもは苦労するわな。親が想像してる以上にさ」

「まあ、な……俺もトイレ行きたいわ。コンビニどこ?」

 コンビニは二百メートルほど先の幹線道路沿いに建つビルの一階にあった。

 いくら片親同士とはいえ、親父の名前も知らないとは言いたくなかった。小学校でいじめられたことがあるからだ。もちろん、全員同じ中学に進学しているんだから、そういう噂はカオルの耳にも入っているに違いないが、自ら口に出すのはためらわれた。

 結局のところ、自分に自信がないからだと思う。俺に責任はないんだから、俺は何も悪いことはしていないのだから堂々としていなさいと母は言う。確かにそうなのだが、そう割り切れない何か負い目のようなものは一体どこから生じるのだろう。

 しばらく店内を見て時間を潰し、一応トイレに寄って元の場所へ戻った。カオルが何も言わずに座り込んでいるので、まだ出てきていないのだとわかった。

 どれくらいそうしていたろう。俺も座り込んでうとうとしていた。急に制服のズボンを引っ張られてはっと目を醒ますと、カオルが腰を屈めスマホを構えている。俺もその上からそっと様子を窺うと、レストランのライトの中に男女の姿が影絵のように浮き上がっていた。逆光になった女の顔は見えない。二人は俺たちに背を向けて大通りへと歩き始めた。体は触れ合うほど近く、男の手が女の手を取った。カオルがチッと舌打ちした。

「あーあ、全然顔見えへんかった。写真も真っ黒。行くで」

「……行くってどこへ?」

「後をつけるんやん」

「もう、ええやん」

 俺はすっかり気分が悪くなっていた。見たくないものを見てしまい、今すぐここから逃げ出したかった。

「あかんって。まだ顔見てへんもん」

 カオルは俺の腕をとってビルの間から表に出た。先を行く二人が通りを曲がる。俺は急かされてしぶしぶ後を追った。前方の二人は川を渡り人通りの多い道を進む。カオルがどんどん近づいていくので、振り返られるのではないかと気が気でなかったが、俺たちの気配は人ごみに紛れ、二人が尾行されていることに気づくことはなかった。

 しばらくすると大阪駅が見えてきた。自分がこんなにところにいたのかと驚いていると、二人が大きな道路にぶつかるT字路で立ち止まった。街の灯りが男女の姿をはっきりと浮かび上がらせている。俺たちもビルの陰に隠れて立ち止まった。カオルがカメラを構えて呟いた。

「結構オバサンやん。びっくり」

 女が右に折れようとしたが男は手を握ったまま動こうとしない。再び女が手を引くが、やはり男は動かない。しばらくして、男が女の肩を抱いて左折した。後を追うと二人がこぎれいなホテルに入って行くのがチラリと見えた。薄黄色の壁にヨーロッパ調の装飾が施された、洒落た建物だった。

「お茶……なんちゃう」

 俺がほっとして呟くと、カオルが馬鹿にしたような調子で否定する。

「そんなわけないやん。お茶なんてさっきのレストランで出てるわ。あのレストラン、私も行ったことあるし」

「だって、ここは……そういうホテルちゃうやん」

「ラブホテルのこと? うちの父親はそんなとこ使わへんと思うよ」

 ドアマンと目が合って、俺は駅のほうに体を向けた。頭が痛いし、胸焼けがする。少し歩いてシャッターの閉まったビルの壁に手をついた。

「ほんま意外やったなあ。びっくりした。あれが誰なんか父親の秘書に聞いてみようかな……ねえ、どうしたん? 気持ち悪いん?」

 本当のことを話すしかないと思った。

「あれ……うちのお袋」

 車の行きかう音と、人々の足音が二人の間に流れた。

「……結構、顔、カワイイよね」

 フォローする彼女の声に、俺は反応することができなかった。


 翌日から、俺は何も手につかなくなった。二人が肩を寄せ合ってネオンの間を歩く姿、ホテルの部屋で固く抱き合う姿、現実と妄想の混じりあった映像が頭の中から消えなかった。

 授業を受けていても、教師の言っていることなど何も頭に入ってこない。

 どうして、母が愛しているのは息子だけだと思い込んでいたのだろう。親族の援助も受けず、会社で男勝りに働いて、家のことも怠らず、それはすべて自分のためだと、母には自分しかないのだと自惚れていた。仕事で遅くなると言われて、一人で先に作りおきの夕飯を食べることさえ申し訳なく思うこともあった。

 頭の中を、消えない映像がぐるぐる回る。裏切られたという気持ちが黒い渦を巻く。だが一方で、母の人生なのだから俺が口を出すべきではないと、母に不信感を抱く自分を蔑む声が聞こえる。こんなことで悩んでいてはマザコンじゃないか、ガキじゃないんだからと、俺を叱る声もする。

 俺はため息をついて腫れている瞼をこすった。こんな顔は誰にも見られたくなかった。

 昨夜、大阪から真っ暗な家に帰宅すると、そのまま電気もつけずに布団にもぐりこんだ。

 眠ることもできずのたうちまわっていると、玄関の戸を引く音がして母が帰ってきた。俺はピタリと動きを止めて耳をそばだてた。母が靴を脱いで玄関を上がり、居間のカーテンを引く。台所で水道水を飲んで、冷蔵庫を開けた。俺が食事していないことに気づいたのだろう、階段を上ってこちらへやってくる。俺は布団を頭まで引き上げた。畳を踏み、俺の枕元に座ると「響、寝ちゃったの?」と問いかけてくる。俺は口を開いたら母を罵倒しそうで、歯を食いしばり、目を力いっぱい閉じた。何度か声をかけるもやがて諦めた母が部屋を去ると、硬く閉じた瞼の間から涙が滲んでいることに気がついて、布団に顔を押し付けて拭った。そしてそのままいつの間にか眠ってしまった。泣いたまま眠ると瞼が腫れる。子どもの頃さんざん経験したのに、またやってしまった。

 俺が俯き加減に、そそくさと次の授業のある理科室へ行こうと廊下に出ると、リョウスケが立ちはだかった。

「なあ、お前、森と何かあったん?」

 警戒するような目で聞いてくる。ああそうだったと思い出したが、何を話そうにもカオルに万引きを見られたことが起点になっており、それを話せばリョウスケは落ち込んでしまうだろう。

「お前が気にするようなことは何もないって」

「ほんまか? 目、腫れてるで」

「ほんまやって……ちょっと寝不足でな。森のことは、ほら、お互い片親やから、チビジマからなんか言われた? みたいなこと聞かれたくらいやで」

「チビジマに何言われてん」

「俺は……母親にきかれへんようなことを相談できる相手がおるか、って」

 咄嗟に誤魔化したが、リョウスケは納得していなかった。人通りの少ない廊下に俺を引っ張り込むと、俺を壁に押し付けて言った。

「お前、噂になってるの知らんのか」

「……噂って何や」

「森と付き合ってるって。ホテルにも行ったって」

 一瞬、凍りつくような感覚がした。

「そんなん……ウソや。ありえへん」

「俺も初めはそう思った。お前、女と二人きりで話すの苦手やし、ホテル代なんて持ってへんからな。でもお前らが、お前んちのそばのラブホのある道に入って行くのを二組のキムラが見たって言うからさ」

 キムラというのは、俺と同じ地域に住む隣のクラスの男子なのだが、母親が教育熱心で、電車で十五分ほどかかる有名な進学塾に通っている。子どもの頃に俺をいじめた悪ガキの一人で、普段俺やリョウスケとは口もきかない。あいつがリョウスケの恋敵だとは聞いていたが、よりにもよってそんなヤツに見られていたとは。

 いつのことかは憶えがあった。カオルが俺の家を見たがって、無理やりついてきた時に違いない。家には入れなかったが、その時、うちのそばのラブホテルの脇道に入ったのをよくないタイミングで見られたのだ。キムラのことだ。面白くなくて、八つ当たり的に俺とリョウスケの仲を悪くしようと企んでるに違いない。ほかのやつらにも俺が親友の好きな女に手を出したと噂を流して、俺を孤立させようとするかも知れない。

「そばを通っただけだ。リョウスケ、俺よりキムラの言うことを信じるのか?」

「……そういうわけやないけど、火のないところに煙は立たへんって言うやろ。事の真偽が分かるまで、しばらくお前とは話したくない」

 そう言うとリョウスケは行ってしまった。

 それから夏休みまでの半月、俺と口を利いてくれるやつはほとんど皆無だった。俺はやり場のない感情を、親たちの恋愛を疎ましく思うことで消化するようになっていった。そして気を付けてカレンダーを見ていると、母が特に遅いのはきっちり週に一度だった。妙な律儀さに笑えてきた。

 俺は米を磨ぐのをやめたが、母は何も言わなかった。


 夏休みに入ったある日の昼さがり、俺は音楽教室裏の非常階段で北向きの風を受けて一人静かに涼んでいた。期末試験が過去最悪の成績で、暑い中でてきた補講の合間だった。

「ねえ」

 ふいに女子の声がして飛び上がりそうになった。下からカオルが見上げていた。私服だった。ノースリーブの黒いワンピース姿が妙に大人びていて戸惑った。

「何してんの?」

「何って……補講や。分かってるやろ。そっちこそ何しに来てん」

「会いに来た」

「俺に?」

「まあね」

「噂が大きくなるぞ」

「私は全然気にしてへんけど。あ、もしかしてヒビキは私が相手じゃ不服なん?」

「俺はお前と違ってデリケートやの」

「オマエじゃないって。ああ、名前で呼んだらまた噂になるんが怖いんやな」

 カオルが皮肉っぽく笑いながら階段を上ってくる。俺と同じ目線のところまで来ると、急に真面目な顔になって言った。

「ヒビキと私、同じ気持ちやと思うねん」

「気にしてないって言ったやないか」

「違う。親のこと」

 カオルはまた何か企んでいるに違いなかった。もう万引きの件は取引終了だと言おうとしたがカオルの言葉に遮られた。

「私な、以前の生活に戻りたいねん。二年になる前、父親が急に広いところに引っ越すって言い出して、いややって言うたのに友だちも全然おらんとこに連れてこられた。前の家でも十分広かったのに、今は寝室が六つもあんねんで。おかしいやろ。学校も、遠くても前のところに通うって言ったのに、電車通学は危ないとか言って転校させられた。絶対、結婚する気なんやって」

 結婚。

 これまで考えないよう避けてきたその言葉は重い金属のように頭を打った。俺は焦点の定まらない視線を漂わせ、カオルの肩の向こうの高台が目に留まった。緑の中に埋もれた白い豪邸の壁が日光を反射して際立って見える。

 母親の帰宅の遅い日が目立ち始めたのは、中学に入って間もない頃だった。自分はそんなに前から母に裏切られていたのだ。母はカオルの親父と二人でずっと前から計画を練っていたのだ。カオルと同じクラスになったのも、きっと何か裏で手を回したに違いない。

 俺の中で、外堀を埋められるような絶望感と焦りが胸の内でとぐろを巻いてせりあがり勝手に口を動かした。

「俺も、昔に戻りたいわ……何かいいアイデアがあるんやろ」

 カオルの目にあやしい光が灯った。

「私を、強姦して」

 

 大阪駅で落ち逢ったのは金曜の朝だった。時間があるからと青春18きっぷを買い、鈍行電車で長野県白馬村にあるカオルの家の別荘を目指す。日が傾き始めた山の中腹にあったのは、林家の跡継ぎというだけあって、立派な総檜のログハウスだった。

 中に入ると、ひんやりとした空気に檜の香りが交じって心地いい。一階には台所、食堂、居間、バストイレがあり、二階には寝室が三つあった。居間正面にはレンガ造りの暖炉が設けられていた。

「この暖炉、ほんまに使えるん?」

「うん。建物自体はセントラルヒーティングやから、父親がカノジョにかっこつけたい時しか使わへんけど」

 定期的に風抜きをしてくれている管理人に見つからないよう、雨戸は開けず、靴は下駄箱に仕舞い、一階リビングの家具にかけられた埃避けはそのままにして、二階の部屋をひとつずつ使うことにした。

「よく来るん?」

「冬はね。ボードしに。夏来ることはあんまりない。父親はカノジョ連れて来ることがあるみたい」

 ふと、母のことを考えた。自分は一年の夏休みや春休みにサッカーの合宿で三日ほど地方に行くことがあった。その間母はどうしていたのだろう。考えを巡らせていると暖炉の前で笑い、広い台所で楽しそうに料理する母の姿が目に見えるような気がした。

 俺たちは駅で買っておいた弁当を食べ、それぞれの部屋でテレビを見て時間を潰した。お笑い番組を見ても一向に笑えないまま夜が深まっていき、ついにカオルが俺の部屋に入ってきた。

「電話、かけよか」

 張り込み中に支給されていた携帯電話が再び渡される。俺は事前に指示されたとおり、スピーカーホンにして、カオルの自宅の父親の書斎に非通知でかけた。電話は「この電話を転送します」と言い、発信音が続いた。父親の携帯に繋がっている。緊張で心臓がばくばくいい始めたが、ベッドに寝転がって頬杖をついているカオルに悟られないよう必死で涼しい顔をつくろった。

「……はい。どちらさま?」

 穏やかで艶のある男の声だった。これが、母の恋人。この声で、いったい母に何を言ってきたのだろう。男の声が続く。

「もしもし?」

 カオルの視線を感じる。だが緊張のあまり口が動かず、息もうまくできない。

「もしもし? いたずらなら切りま……」

「――娘は預かった」

 やっとの思いで喉から搾り出した。

「……え?」

「森薫を預かった。通報したら娘を殺す」

「おい、誰だ? 娘は――」

「また連絡する」

 一方的に電話を切った。手が震えていた。ゆっくり視線を上げるとカオルと目があった。

「上出来」

「ほんまにこれだけでええんか? 親父さん、ほんまに警察に言ったりせえへんか?」

「だからこれから写真送るんだって」

 にやりと笑ったカオルは起き上がって服を脱ぎ出した。俺が思わず顔を背けると「ヒモとって」と指示が飛ぶ。

「ちゃんとこっち向いてくれな、縛れないやん。もー、下手くそ」

 下着姿のカオルを直視することができなくて、俺は叱られながら、持ってきたビニール紐で彼女の手を後手に縛り、足首もくくった。

「ちょっと!強く縛りすぎ。痛い」

「ご、ごめん」

「かわいく撮ってや」

「この状況下でかわいいっておかしいやろ。この携帯のカメラ解像度低い。ガラケーやから仕方ないけど。カオルのスマホ貸して」

「あかん。電源入れたら、GPSで居場所がばれる」

「GPS? 信用されてるんちゃうかったんか」

「信用してても、年頃の娘持ってたら当たり前やろ。反抗して余計怪しまれても逆に面倒やし。ちょっと、壁とか床が入れへんように注意してや。シーツしか写したらあかんで」

「わかったわかった」

 ああだこうだと何度も言い争いながら彼女の姿を携帯電話で撮影し終えるとカオルが上目遣いに言った。

「……ほんまに強姦する?」

「アホか」

 下着の隙間からチラリと覗いた薄い胸やむき出しになった肢にそう言い捨て、彼女の写真を父親の携帯にメールすると、俺はわざと大きな足音をたてながら部屋を出て風呂場に向かった。勢いよく出た熱い湯に口を開くと、あああと叫んで顔を洗った。その晩はあまり眠れなかった。

 翌朝、持参のレトルトカレーを食べ終わると、カオルに言われて母に電話をかけた。親に怪しまれる必要があるので、二人とも何も言わずに家を出てきていたのだが、警察に届けられても困るから心配しないように言うだけのつもりだった。それが、母に一睡もできなかったと訴えられ、胸が痛むような、少し仕返しできたと思ってすっとするような妙な感覚が胸の中でマーブル模様となって広がった。見透かしたカオルが棘のある口調で言う。

「後悔? 満足?」

「…うるさい」

「こんなところで満足せんとってよ。私ら、自分たちの生活守るためにやってるんやで」

「わかってる」

「大人の勝手な都合で、子どもの人生振り回していいなんて大間違いやってことを思い知らせてやるねん」

「わかってるって!」

 俺はいらいらして頭をかきむしった。

 言われなくても気づいていた。俺もカオルも、実際のところそんな大儀ではなく、一人しかいない親を誰にも渡したくないという子供じみた嫉妬に狂っているだけなのだと。だが生まれてこの方味わったことの無いこの感覚を飼いならせるほど俺たちは大人じゃなかった。

 その後もログハウスの中で息を潜め、日がな一日テレビを見て過ごした。

 二人が別荘を出たのは、日曜日の昼前だった。


 夜遅く家に戻った俺は、どこへ行っていたのか、誰といたのか、何をしていたのか、母に問い詰められたが一言も口をきかずにいた。母はあの男からカオルの惨状を聞かされて、不在の息子を疑い、さすがにヒステリックになるかと覚悟していたのだが、母の口調は厳しいながらも不思議と静かだった。言葉と言葉の間の沈黙から息子のことを信じてくれているのが伝わってきて、騒がれるよりむしろ心苦しかった。

 座卓に向かい合ったまま明け方になって、カーテンの隙間が白みだした頃、母が立ち上がって麦茶をいれてきた。

「ねえ、ヒビキ。話しておかなくちゃならないことがあるの」

 俺は母と目を合わせなかった。母は先ほどまでとは異なるいつもの明るい声で語り出した。

「大学生の頃、アルバイト先の会社に素敵な人がいたの。何でも知っていて、仕事をばりばりこなしてかっこよかった。でもその人は私より随分大人で、結婚していたから、私になんて興味を持つわけないと思ってた」

 初めて聞く話だった。

「卒業と同時にアルバイトをやめて就職して、二年ほどして街中でその人にばったり再会したの。懐かしくて話が弾んで、食事に連れて行ってもらったんだけど、その人は少し疲れているようだった。仕事がうまくいってなかったみたいで、私は内容が分かるから、それから時々会って話を聞くようになった」

 母がふふ、と笑って続けた。

「恋心が再び燃え上がるのに時間はかからなかった。彼が私に好意を寄せてくれていたことも分かって、付き合うようになったの。もちろん、奥さんがいたから、誰にも言えないし、しょっちゅうは会えなかった。ばかだと思うでしょ? でも、好きでたまらなかったからそれでよかったの」

 俺は母を見た。少し寂しげな笑顔だった。

「だけど、妊娠したのがわかって、それ以上会うのはよそうと決心したの。彼は子どもが生まれてくるのを本当に喜んでくれていて、男の子だったら絶対に響って名前をつけたいと言ってた。森に響く豊かな自然の音を感じられる大人になって欲しいって。だけど彼の奥さんも妊娠してね」

 母は視線を落として小さな声で呟いた。

「迷惑かけちゃいけないと思って、私は子どもを堕ろしたと嘘を言って別れたの。そのあと、生まれたのが、あなた」

 二人の間に沈黙が流れた。カーテンからこぼれる一筋の光が強く眩しくなってきて、細かいほこりがキラキラと舞っているのが見える。いつの間にか蝉が鳴き始めていた。やっとのことで声を絞り出す。

「……その人は、俺の父親は、今も生きてるん?」

「生きてる」

「でも、俺が生まれたこと、知らへんのやろ?」

「……今は、知ってる」

「えっ……」

「響が中学入学した直後に再会したの。今度は偶然じゃなくて、私が業界紙に写真入りで載ったのを彼が取引先でたまたま見て、自分の会社の保険をうちの会社に架けかえるかわりに担当を指名してきたの」

 俺は口をぽかんと開けて母の言葉を聞くしかなかった。

「あなたの父親は森英治さん。薫さんは妹よ」

 

 俺が考えを整理するまでどれくらい時間がかかったのかわからないくらい、頭の中はパニックだった。

 カオルの親父が俺の父親。カオルは腹違いの妹。

 なぜ母は今話したのか。当然、カオルを縛り上げたのは俺だと疑って、この数日の不在を説明させるためだ。だが、今話せば計画は失敗に終わる。カオルも俺も、元の生活に戻れなくなる。だが、ああ、もう隠せない。

 俺がすべてを話す間、母は何も言わずにじっと聞いていた。だんだん表情が険しくなり、話し終わっても机を睨んだまま口を開かないので、

「そういうわけだから、森さんに電話したら」

 とせっつくと、母は静かに言った。

「電話は…しない」

「会いに行くん? そうやな、直接話した方がいいよな」

「行かない」

「誤解を解かないと。俺も一緒に謝りに行くよ」

「行かなくていい」

「……おかん?」

 母が視線を上げた。

「森さんにはもう会わない。響も、薫さんに何も言うたらあかんよ」

「おかん、何言うてんの。おかんのせいやないねんから」

「そういうことやないの」

 強い口調だった。

「あんたたちの気持ちを無視してまで結婚したいとは思わない。ええね、薫さんには、何も言ったらあかんよ。お母さんに悪いと思ってるなら、約束しなさい。ええね?」

 俺はしぶしぶ頷いた。母は結局一睡もしないまま仕事に出かけた。


 夏休みが終わる直前の夕方、リョウスケがうちへやってきた。少し照れたような顔で「ええか?」と言って玄関の上がりかまちに腰掛ける。

「森が転校するって。お前知ってたか?」

 分かっていたことだが、俺は目を見開いて少し驚いた表情を作った。カオルの計画通りだった。辱めを受けてもう自分は学校へ行けない、この町には住めないと父親の前で泣いてみせたはずだ。俺は父親に刺されるのではないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、そこは自分が穏便に済ませてほしい、全部忘れたいと懇願するから大丈夫だと言い切っていた。夏休み中にはなんとかするとも言っていた。

「知るわけないやろ。……なんで転校するって?」

「俺が聞きたくて来てんねん。一学期しかおらへんておかしいやないか」

「そやな。リョウスケは何で知ったん?」

「昨日引越しのトラックが森の家の前に来てたらしいっておかんが言うたから、さっき学校できいてきた。もとの女子校に戻るねんて。やっぱ金持ちが普通の公立に通うのは無理やってんなあ」

 リョウスケは「あーあ」と言って上半身を倒し板間の玄関に寝転がった。

「ヒビキ、お前、何か俺に隠してることないか」

「何を? あの女のことはホンマに何も知らんで」

 するとリョウスケは落ち着きなく動かしている自分の足を見ながら言った。

「あんな、 俺、少し前、森に告白してん」

「まじで?」

「そしたらな、万引きするような男に興味はない、変な噂に惑わされて友達信じられへん男にはもっと興味ないってフラれたわ。見られとったんやな」

 俺が黙っていると、リョウスケが起き上がってパチンと俺の膝を叩いた。

「お前、見られとったことを俺に言ったら、俺が落ち込むと思ってんやろ。それをネタに森がお前をパシリに使っとってんて? 万引きした俺らは自業自得やけど、森も森やんなあ」

「……」

「そういうことや。だからな、つまり、俺が言いたいのはやな、えーと、俺が悪かったってことや。ごめん、ヒビキ。ほんまにごめん。クラスのやつらには、俺から訂正しとく。虫のいい話やけど……許してくれ!」

 頭を思い切り下げたリョウスケを見て俺は何と言うべきか考えたが、色々なことが頭の中に溢れかえっていて、結局口にできたのは一言だけだった。

「……ええよ」

 リョウスケはすごい勢いで頭を上げるといつもの笑顔になっていた。

「あー、よかったあ。実はなあ、お前と廊下で話したあと、どうやって謝ったらええんかわからんくてな。お前が一人でいるのを見るたび後悔したんやけど、毎日キムラにあれこれ言われて。俺が弱かったわ。しかも女を見る目もないし」

 嘆かわしく溜め息をつくリョウスケを見て、俺はやっぱりこいつが好きだと思った。単純で、現金で、自分の気持ちにまっすぐで。

「リョウスケなら、もっとええ女とつきあえるわ」

「気休め言うな」

「マジで」

「女とろくにしゃべることもでけへん奴が何言うてんねん」

「確かにな」

「アホ」

「お前、謝りにきといてアホはないやろ」

 あれから十年、リョウスケが大学進学で上京して離れ離れになったが、今でも盆休みや正月には必ず会う。三年前お袋が亡くなったときにはすっとんできて小さな葬儀に出てくれた。お互い大学を卒業して、普通のサラリーマンになって、いくつか恋をした。カオルのことなんて、話題にも上らなくなっていた。

 

 ********************************************


 電車が乗り換えのある大きな駅に停車するとたくさんの人が出て行き、その半分くらいの人が乗ってきた。帰宅ラッシュにはまだ少し早い時間、街の中心から離れていく車両の座席でぼんやりその光景を見ていて、突然俺は心臓がぎゅっと収縮したまま戻らないような感覚に襲われた。

 原因は乗り込んできた客の一人だった。その女性は空いている座席を探して視線を素早く動かし、一旦俺の上を通り過ぎ、そしてまたゆっくり俺のほうへ戻すと、何か得意気なような笑みを浮かべて俺の隣に腰掛けた。

「驚いた。こんなところで会うなんて。何年ぶり?」

 俺の方が驚いているのはバレバレだ。咄嗟に声が出ない。彼女が続ける。

「十年、やんね。でもヒビキの顔、全然変わってないんやもん。すぐ分かった」

「……カオルも、変わってへんな」

「そう? 結構変わったと思うんやけど」

 確かに、化粧をした顔も、ふんわりカールした長い髪も、タイトスカートから伸びた白く長い足もとても美しい。胸元や腰回りは丸みを帯び、ずいぶん人目を惹く大人の女になっている。だが、あの笑い方や、鼻っ柱の強そうな話し方、何か企みを含んだような目もとは昔のままだ。

「ヒビキ仕事は? 平日なのに早くない?」

「住宅メーカーの営業。水曜は展示場が休みやから」

「そっか」

「カオルこそ。働いてないんか」

「ちゃんと働いてるよ。外資系だから結構自由がきくねん」

「……親父さんの会社やないんか」

「いずれは継ぐけどね。今は社会勉強中。ああ、父親なら元気にしてる。一応、報告ね」

 言葉が返せなかった。カーブにさしかかり、車輪がレールを擦る音がする。やがて電車が止まり、また動き出した。俺は思い切って口を開いた。

「……カオル、あれから、どうしてた?」

「どうしてたって、普通に女子校出て、大学行って、就職したよ。ああ、大学の時ロンドンに留学した」

「……そんなことやなくて」

「ああ」

 カオルはにやりと笑う。最初から、俺が何を聞いているのか分かっててとぼけている。

「うちは相変わらず二人で楽しくやってる。ヒビキのとこは?」

「……お袋が死んだ」

 カオルがきっと振り返る。

「いつ? なんで?」

「三年前。病気で」

「そっか……たいへんやったね」

 車内にどっと大きな歓声が沸きあがり、俺は咄嗟に首を動かした。制服姿の男子学生が数人、輪になって談笑している。

「元気いいね。中学生、かな」

 カオルの呟きを聞いて、俺はあのことをカオルに言うべきかどうか考えた。母からカオルに何も言うなと約束させられた事実。だがこの、偶然の再会。中学生たち。何かの啓示のように思えた。

 彼女にも知る義務がある。

 俺は澄ました顔をした、むしろ上機嫌なくらいの、若い女の顔を見た。あの時と、こいつは何も変わっていない。だが俺はその後誰にも話せない罪悪感を抱えて苦しい想いをしてきたし、母はもっと苦しんでいたはずだ。俺だったら耐えられない。

「なあ」

「ん?」

「俺、お袋から、ほんまの話を聞いてん」

「……ほんまの話?」

 再び電車が止まる。人がごっそり降りて車内はすっかり静かになった。俺たちの周りには空席が目立ち、騒いでいた中学生たちもいつの間にか消えている。俺は唇を舐めて息を整えた。電車が再び動き出す。

「カオルの親父さんとうちのお袋、俺らが生まれる前につきあっとってんて。お袋が学生時代に親父さんの会社でバイトしたのがきっかけで」

「……」

「カオルは気分悪いやろうけど……お袋が親父さんの子どもを妊娠して、カオルのお袋さんも妊娠して、うちのお袋は迷惑かけへんように消えて一人で俺を産んだんや」

「……」

 カオルは何も言わない。チラリと窺うと、さすがに表情が消えてしまっている。たまたま電車の中で予期せず俺に会ってしまって、こんな話を聞かされたんだから無理もない。突然の事故に巻き込まれたような心持ちだろう。だが、彼女も知らなくてはならない。母には言うなと言われたが、現実にはあのことが原因でみんな苦しんだ。カオルの父親だ別れただけでなく、もしかすると真実は知らされていないかもしれない。こうやって今カオル本人を前にして、やっぱり彼女も背負う義務があると思うのだ。カオルが前を向いたまま尋ねてきた。

「なんで、別れてから十五年近くも経ってうちの父親とヒビキのお母さんは会ったん? 偶然?」

 俺も前を向いたまま静かに説明した。

「お袋が保険会社の法人営業をしているのをたまたまPR紙で見た親父さんが、自分の会社の保険をお袋のところに乗り換えて、交換条件にお袋を担当に指名してきたって」

「……」

「もし、あのまま親父さんとお袋が結婚してたら、俺ら、ほんまの兄妹になってたんやな」

 俺はもう一度横目でカオルを見た。自分のしたことの本当の重さを今初めて感じているはずだ。

 カオルの肩が震えていた。華奢な肩が小刻みに震えるのを見て俺は急に申し訳ない気持ちになった。

「ごめん。でも、俺たちのやったことは……」

 くくく、と笑い声が聞こえた気がした。

「……カオル?」

「あー、もう、ほんとおかしくて」

 髪をかき上げて俺を見る切れ長の目には涙が浮かんでいた。戸惑う俺に彼女は肩をすくめた。

「全部知ってたよ」

「親父さんから聞いてたんか?」

「ううん。父親は未だに息子が娘を犯したと思ってる」

「……どういうことや」

「だから、あたしは知ってた。最初から、全部。ヒビキと出会う前から」

 固まって動けない俺に彼女は続ける。

「死んだ母親の日記読んだって言ったやん。忘れたかな。母親は大きな林家の一人娘でさ、家を継ぐために父親と見合い結婚してんけど、なかなか子どもがでけへんでね。うちの父親、遊び人のくせになぜか子どもがすっごい好きでさ。母親は父親に悪いと思ったんか、浮気を見て見ん振りしてたんやわ。でもほんまに父親のことを好きになってしもて、表面上はしらんぷりしつつ裏で愛人のこと調べててん。だから愛人が妊娠したことも分かってた。それでも、自分に子どもがでけへん引け目から黙ってた。そしたら、できたんよ。結婚して八年も経って、愛人にできた直後にね。それまで浮気を我慢してただけに爆発してしもて。父親は婿養子やし、妊娠した妻に言われたら愛人とは別れるわな」

 カオルはにやりと笑う。

「でも男は甘い。女に子ども堕ろしたって言われたら信じてしもて。愛人は、もし息子ができたらつけたいって父親が言ってた名前をつけて育ててた」

「じゃあお前、俺のお袋のこと恨んであんなこと……」

「そんな単純ちゃうわ」

 カオルは鞄の中身を確かめながら笑った。電車がブレーキをかけ段々速度を落としていく。

「あんたの母親のことなんて、私はどうでもよかってん。ほんまやで。また付き合いだしたことは予想外やったけど、祖父母に溺愛されてる私がいややって言ったら再婚なんてできるわけないもん」

「じゃあ、どうして……」

「まだ気づかへんの。鈍いなあ」

 カオルは髪を指先でいじりながら、女同士、恋愛話でもしているかのような顔で言う。

「問題は息子よ。それまで一緒におられへんかった分、将来認知でもして家族になったら、父親はありったけのものを息子に捧げるわ。お金も、時間も、愛情も、何もかも。そんなこと赦せる?」

 カオルが立ち上がる。

「父親は男の子が欲しかったみたいでさ。私の名前、男でもいい名前やろ。でもさあ、あんたが森に響く自然の音で、私は森に漂う自然の薫りだよ。単純すぎて笑えない?」

 カオルは本当におかしそうに笑い声をあげた。

「今やからこうやって笑えるけど、私、子どもの頃あんたがいるって知って、女に生まれたのがほんまに悔しかってん。でも今は女でよかったと思ってる。男に生まれて、あんたと同じ名前になってたかもって考えると恐ろしい」

 開いた扉から発車のベルが聞こえる。

「じゃあここで」

 カオルは軽く手を振って電車を降りた。扉が閉まる。俺は本当に金縛りにあったように動けなかった。やっぱり人を見下したような目で得意気な微笑みをする彼女の顔が見えなくなっても、俺の手足は痺れたままだった。


読んで頂きありがとうございました!


初投稿ゆえ、勝手が分からない部分もあり不安ですが、お時間を割いていただいた価値があれば幸いです。

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