寄り道と来客1
この部分の終わりから、今までと全く違う方向に進んでいくかと思われます。
「次の駅で降りよう!!」
私が叫んだ瞬間、タイミングよく車掌さんのアナウンスとともに電車が速度を緩める。
到着した駅は、ぱらぱらとしか利用者が見当たらない、閑散とした駅だった。悪魔二人は交通手段については私任せなので、文句も言わず素直に私に付いて降りてくる。
そのまま、私は先程見えたものに向かって歩き出した。
前方にあったのは30人ほどの列。
そしてその先にあるのは、青い空に良く映えるオレンジ色の地色に白抜きの文字が書かれたのぼり。
「死ぬまでに食べたい、メロンパンNo.1!ガリッふわっメロメロメロンパン!!!」
と書かれたものだ。
「え??本気か??」
驚いた声をあげるきんちゃん。
「え、あれに並ぶ?……え、意味がわからん……」
本気で困惑しているようだ。
黒いのっぺらぼうのような頭の影が、きょろきょろと落ち着かない。
まぁ悪魔が何かのために並ぶ、なんてした事が無いだろうからそれも仕方ない。
「…金烏さまを困らせるとは…身の程、という言葉をご存じでしょうか?」
口元は微笑みながら眼に侮蔑をうかべる外見詐欺悪魔。刺し殺すような眼力だ。
……女の子相手にする眼じゃないだろうに、狭量な奴だ。
こいつ絶対女の子にモテないな。
つい、対抗してこっちも下からジト目をむけてしまう。
「…っていうか、まさか、とは思うが……
お主もしかして、あれのために乗物から降りたとか言わないよな?!」
「うん、あれのために降りちゃった!だって無視できないもん!!」
素直に認めると、きんちゃんは固まったように動かなくなる。
もう一人は、というと……あら嫌だ。なんか爪を一心不乱に研いでるよこの悪魔。
爪がアイスピックみたいになってるんですけど。
何をするつもりなんだ。
しかし、今の私は全く動揺しない!何故ならあのメロンパンは、今年の春のスイーツランキング評価で、居並ぶスイーツ達を相手取り、菓子パンというスイーツの中では異端、とも言われた立場をものともせず、一位に輝いた強者なのだ!!
店が県外で遠く、通販もしていないので、愛と二人で涙をこらえながら手に入れるのを諦めていたのだが……
これは運命としか思えない!!スイーツ好き女子なら無視することなど出来る筈がない!
もしかすると、この出会いのために神様はきんちゃんと巡り合わせてくれたのかもしれない!!
高鳴る胸の鼓動をおさえつつ、いかにして悪魔共をまるめこむか、通常の数倍脳を回転させる。
「よし、わかった!じゃあ今から自由時間にしよ!
ダンタリアンときんちゃんは、せっかくこっちに来たんだし、二人でデートでもしてて?30分後にここに集合ってのはどう?」
「っなー?!!」
「なるほど、それはいい考えですね」
ものっすっごい嫌そうな声で抗議しようとしたきんちゃんに対し、ダンタリアンの嬉しそうなこと。チョロい。
「いやいやいや、何を言ってるんだ?!こいつと二人とか、そんな事したら延々気持ち悪い誉め言葉聞かされて、完っ全罰ゲームなんだぞ?!」
「金烏さまの偉大さを表すには、どれ程言葉を尽くしても語りきれませんからね…つい話が長くなります。
気を付けますね!
さぁ、先程の乗り物から見えた海にでも行きましょう!」
「嫌だ!!」
頬をほんのりと色付かせ、その辺の女性を片っ端から卒倒させそうな破壊力をもつ笑顔を湛えるダンタリアン。
対照的に、きんちゃんは心なしか、影が青みがかっているように見える。よほど嫌なんだろうなぁ……。
「いやいやいや!!…あ、ほら!我は影だから自由に動いたらまずいだろ?!」
活路を見いだした、と言わんばかりの勢いでこちらを振り向き、正論をいう。しかし、それを私は一蹴してやる。
「大丈夫!私は今からあの列に混じるから!きんちゃんが影伸ばしていったって、他の人の影に紛れて分かんないよ!」
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべながら言うと、きんちゃんは全身(影だけど)震えて天を仰ぎ…一瞬の間の後、閃いたように叫ぶ。
「ーあ!我もそのなんとかいうの、食べたいなぁ!!
並ぶとかいう意味不明な行為も一回やってみてもいいなぁ!!」
墜ちたっ…!
思わずガッツポーズをしてしまったのはいうまでもない。
メロンパンは、焼きあがり待ちだったようで、結局1時間ほど並んでいた。
デートできなかったダンタリアンは、不機嫌になるかと思いきや、きんちゃんの食べたい、という一言を聞き、真剣に並んでくれた。お陰で1人二個までのメロンパンを合計四個手に入れることができたのだった!
メロンパンの甘く芳ばしい香りが、それはもう、優しく鼻腔をくすぐっている。散りばめられたザラメが表面のクッキー生地のアクセントになっており、光を受けてキラキラと美しい。食べたときの食感も、きっと楽しいだろう。きんちゃんも、店員さんから受けとる頃には、
「おい、はやく、はやくどっかで食べよう!」
と本気で待ちきれないご様子。
私の我儘でここに立ち寄ったのだし、多少罪悪感は感じていたので、駅に戻ってホームで電車を待ちながら食べるとしよう。
ちなみに、きんちゃんはどうやって食べるつもりなのだろう…?
店の外は、太陽が傾き、薄闇が空を染めようとしている。
思ったより時間が遅くなってしまったようだ。今日の宿泊場所はあと8駅先だ。
電車の時間を調べようとスマホを手に取った時だった。
メロンパンの入った袋を、嬉しそうにつついていたきんちゃんが突然静かになる。ダンタリアンも眉間に皺をよせて様子がおかしい。
「ー?どうしたの?」
「客のようですね……」
「面倒だ。よし、全速力で走れ!」
その言葉と私を残し、影を伸ばしてその場から突如消えたきんちゃんとダンタリアン。
え、何??なんなの?
完全に放置された私。二人の名前を呼ぼうとした瞬間、身体の周りを渦巻くように風が吹き起こり、思わず目を閉じる。
しかし、すぐに気付く。
違う、風じゃない!!
恐る恐る、目をひらいた私が見た光景は、私の身体を中心に弧を描くように飛び回る無数の蝙蝠達だった。
この後、どうしようかな~~