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人外(人)生は荷が重い  作者: 和日太
3/6

一難去ってまた一難

「…兵器の実験でもしてたのか?」


 その日、郊外の高級住宅街にて爆発が起こったという通報をうけ、現場に到着した消防隊員の第一声がそれだった。


 鉄筋コンクリート製の頑丈な建物。その地下室の天井から、上にむかって直径1メートル程の穴が建物を貫くようにあいている。


 顔をあげれば、上からは綺麗な夕焼け空が覗いている。

 沈みかけた太陽の光が、気絶し倒れているチリチリパーマの男を優しく照らしていた。





「ぎゃあぁぁぁああぁぁあ!!!!たすけてー!!!」


 叫ぶ。

 私の意識は影の中にあるのできんちゃん以外聞こえてないだろうが、叫ばずにはいられない。

 きんちゃんが操っている私の身体は、今空を飛んでいた。まるでかの有名な戦闘民族のようなスピードで。

 そして、今の私はその影である。


 夕焼けに照らされてできた影は地面にあるわけで、高速飛行物体のスピードに追随するしかない地面の影は、そのスピードと車やらバイクやらに踏みつけられる恐怖を味わっていた。


 …いや、実際は影なんで踏みつけられないけどね……そういう問題じゃなくてとにかく怖い!!!


 な、生身じゃなくて良かった…これ生身だったら涙やら鼻水やら涎やらその他諸々で大惨事になってたかも……


「どうだ、我の魔力の素晴しさが理解できたか?!まだまだ力の一端にすぎんがな!!」


 先程、ミサイルのような破壊力で建物の下から上まで風穴を開けて飛び出し、そのままアクロバット飛行を繰り広げるドヤ顔の悪魔わは興にのって得意満面だ。

 日頃ストレスでも溜まっているのだろうか、非常に爽快な笑顔で楽しそうである。

 もっとも私はそれどころではない。


「ぎゃあぁ!!前!前に家!!ぶつかるぶつかるー!!!」


 …実際は建物の壁やら屋根の表面を滑るように通りすぎるだけなのだが。


「きんちゃん、きんちゃーん!!とまってぇぇー!!」


 涙とともに懇願し、止まったと思ったら「凄かったろ?!」とキラキラした瞳をした良い顔の悪魔は電柱のてっぺんにいたりする。


 夕陽に染まる空が非常に美しく、普段よりも空が広く近い。

 絶景なのだが、絶叫系が大の苦手な私は、恐怖でそれを楽しむ余裕はなかった。


 そんなわけで、とりあえず、落ち着ける我が家へ行ってもらうことを懇願し、再びの高速移動に涙することになった。



 わずか五分後。

 我が家の玄関にたどり着き、やっと身体の主導権を取り返すことができた。

 きんちゃんは先程まで私がいた、私の影にいるようだ。


 ……それにしても、身体の疲労感が半端ではない。今にも倒れてしまいそうだ。というか何もないところで躓くほど、足すらまともに上がらない。


 ……あれだけめちゃくちゃされたら身体もおかしくなるよね……

 しかし、これから考えること、やることは沢山ある。


 まずは愛のことだ。

 きんちゃんと契約したあと、目が覚めるまで意識がなかったので、彼女があの後どうなったのか全く分からない。

 とりあえず、一刻も早く私が生きていることを伝えてあげないと……


「まずは電話?でも死んでると思ってる人間から電話とか……めっちゃホラーかな??……」


 1人呟いていると、遠くからサイレンの音が聞こえる。思わずびくり、と震えてしまう。

 さっきの高速飛行未確認物体のせいであることは明らかだからだ。

 ここまでの道のりで、気づいた人たちが驚きながら指差してみたり、写真をSNSにあげてみたり、驚きすぎて事故ったりしていたのだ。


「し、死人出てたらどうしよう………」

「大丈夫だろ、死ぬような惨事は起きてなかったぞ」


 お気楽な返事が脳内に響くが、例え死人が出てても気にもならないだろう悪魔の言うことだ、信用できない……

 頭が痛くなってきた……


 問題が多すぎて限界なので、ここらで糖分を摂取して落ち着いてから行動するほうがいいかも、と重い身体を預けるようにしてドアを開けた。


 しかし、ここで落ち着くことはまたもや出来なかった。


 玄関ドアに鍵がかかっていない。

 ということは中に家族がいる、ということであり、もちろん私の事故の知らせは受けているわけで……



 私をみた家族に鼓膜が破れるかと思うほど叫ばれることとなった。



 父母と祖父は、私の事故の知らせをうけて病院に行ったが、死亡の知らせを受け、さらに遺体が消えたと知らされ、母など卒倒したそうだ。

 警察から何かあれば連絡するから自宅待機してくれと散々諭され、泣きながら家に戻ったところ…なんと私が帰ってきたのだ、そりゃまた大騒ぎになりますよね。


 家族に号泣され、混乱しながら詰め寄られ、悪魔と契約して生き返りましたとか…人間じゃないみたいとか…そんな説明、できるわけがない!この状況、私には荷が重すぎる…


 額から滝のような汗を流しながら固まっていると、空気の読めない悪魔、きんちゃんが動いた。


 彼は今、先程の私のように影になっていたのだが、悪魔なので何でも有りのきんちゃんは、ミミズのようにウニョウニョっと私の影を動かすという芸当を行ったのだ!

 更に目を向いて驚いてる人間(私も含む)を尻目に、泣きはらした目の母に何処からか出したハンカチをそっと渡す、という素晴らしい気配りを見せた。

 ……なんでも女の涙に弱いらしいが、その行動はすでに一杯一杯だった家族を卒倒させることに、見事成功したのだった。


「人間は矮小なものだとは思っていたが、我の優しさを受けとらんとは、不敬にもほどがあるっ」


 影の腕をくんで、ぷんぷんご立腹のきんちゃん。

 悪魔なのに優しさ…怒り方もあんまり可愛らしいので、つい笑ってしまい、また怒られた。

 でも確かに、何処であんな紳士の振る舞いをマスターしたのだろう。人を騙す悪魔の嗜み、とかだったら嫌だなぁ……

 などと、下らないことを考えつつ、卒倒した皆をひとまず寝かせる。


 …目の周りが真っ赤になってる…

 相当、悲しませてしまったのだろう。眠る家族の顔をみていると、ふいに涙が出てきた。

 あのまま死んでいたらもう二度と会うことすら出来なかった、と思うと頬に伝う涙が止まらなくなってしまった。


 なんだかんだで、きんちゃんのお陰でもう一度家族に会えた。愛も不必要に自分を責めるのを止めさせることができるのも、生きているからこそだ。


 ……死なずにすんで良かった……


「……おい、何を泣く?」


 きんちゃんは先程母に受け取ってもらえなかった、ハンカチを渡してくれる。

 少し困ったような声音が、彼の優しさが作り物でないように感じられた。


「ありがとう、きんちゃん。」


 素直に言葉がでる。

 すると、きんちゃんは一瞬きょとん。とした態度の後、辺りをウロウロと落ち着きなく動き回りながら、


「な、な何を言ってる。礼なんぞ、何になる。

 それより、お主の蘇生も、あの変態のくせに生真面目な変人からの脱出も終った、お主の頼みも聞いて家に戻った。

 くだらん事を言ってる暇があるなら、さっさと我の方の契約を果たしに行くぞ!」


 照れてるのかな?……明らかに照れている。

 喧嘩ごしの言葉とは真逆に、声は明るく、私の方をチラチラ見るような仕草。

 なんか、可愛いな!


「照れてるの?」

「むっ?!ば、馬鹿者!そんなわけがあるかっ…我は、偉大なる者なのだぞ!人間の小娘相手に照れるなぞ……まさかまさかっ!…」


 ……きんちゃんは意外にいじりがいがあるかも。まあ、これ以上やって怒らせてもつまんないから、この辺にしとこうかな。

 出来たら仲良くやっていきたいものね。


「分かりました、じゃあそう言うことにしとこっか。

 …でも、私はホントに生き返らせてくれたこと、感謝してるよ。だから、きんちゃんの願いも叶えるために頑張るから安心してよ。」

「…ふん、なかなか殊勝だな。」

「そう、私、約束は守るタイプですから!

 ……そこで、提案なんだけど、これからしばらく一緒にやってくんなら、仲良くしたい思ってるからさ、私の感謝の気持ちも素直に受け取っといて欲しいんだけど………どうですかね?」


 あ、なんかだんだん照れ臭くなってきたな。頬がちょっと熱くなってきた……


 影だからない筈だが、きんちゃんの目が穴があくほどこっちを見つめてきている気がする。

 そんなガン見されると、なんかマジで恥ずかしくなってきた。台詞が臭すぎたかな?穴があったら入りたい……


「……そうか。」


 きんちゃんは、ひひひっと笑う。

 今度の笑いかたは、軽薄さはなく、ただ、嬉しそうだ。


「お主の考えはわかった、では、先の礼も素直に受け取ろう。

 それでは、とりあえず、ひざまづいて我を敬うがいい!」


 ……本気で腹がたったので殴ったら、影だったので壁を殴り付けてしまった。

 瞬時に痛みはひいたものの、悪魔との信頼関係を築くのは難しいと、痛感した私だった。



 落ち着いたところで、きんちゃんはやはり早く目的地に行きたい、と言った。


「それは分かってるけど、まず、愛ちゃんに私が生きてること伝えなきゃ。家族も卒倒したまま放置出来ないし。

 おまけに、世の中じゃ私死んだことになってる上、死体が消えたことになってるから結構騒ぎになると思う。

 さっきの空飛んでたのも見られてSNSに撹拌されてそうだし、このままだと身動きしにくいと思うよ…」

「…面倒だな…」

「めっちゃくちゃ、面倒なことになってると思うよ……」


 偏頭痛にでもなりそう。

 この際、皆記憶なくなりゃいいのに…


 ん?そういやここにいるのは悪魔…


「ね、きんちゃんって凄いんでしょ?じゃあ今日の事、私が事故したとこから私に関する事ぜーんぶ他の人の記憶からけす、とかできない??」


 …勢い込んで言ってみたものの、また契約に入ってないって言われそう…

 しかし、今回はきんちゃんも私の意見に賛成だった。


「面倒ごとは極力減らしたいしな…気は進まんが、人心操作の得意な奴がいる。しかも我の言うことなら鬱陶しいほどなんでもやる奴だ。

 奴に人間どもの記憶から今回の件を無かったことにするよう頼んでみるか」


 こうして、もう1人悪魔が私の目の前に現れることとなった。

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