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人外(人)生は荷が重い  作者: 和日太
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序章~人外への道 2~

 自称、誠実だという悪魔の望み、それはかねてより最期を迎えると決めていた死に場所にいく事、だそうだ。

 とてもそうは思えないが、以外にお年寄りで死期が近いらしい。

 その死に場所が私達の住む世界にあるので、こちらに来るため契約者を探していた、ということだった。


 今私と話している状況は、本体(といっても幽霊のような実体のないものらしい)は魔界的な所にいて、例えるなら電波ジャックして私に電話かけてる状態である、という割りと現代風の説明をされた。


 …ちなみに私だったのはまったく何の意味もなく、目についたとこで死んでいたそうだ。…まったく失礼な話だ…


「お主は幸運だぞ。我はこの世界に執着しているわけではないからな。

 …契約さえ守ってくれるなら、お主の身体を修復した後、主導権を渡してやるし、事が終われば我は消えるのだからお主に失うものは何もない!後は好きに生きるがいい。どうだ?」


 …正直まだ19歳なんかで死にたくない。それに、なにより……

 ただ、私の注意の無さと運の悪さで、大切な親友に癒えない心の傷をつけていいはずがない。

 いまだ私に謝りながら嗚咽を繰り返す愛を見て、私は決心する。


「悪魔さん、やっぱり私、死ぬわけにはいかないから………お願いします」


 悪魔は、何故かすぐに答えなかった。

 どうしたのか、といぶかしんでいたところ、もし姿現せていたなら満面の笑みを浮かべていただろうと思うほどの、歓びを声にのせて悪魔は笑った。

 そうしてから、よく通る声が、宣言するように高らかに響く。


「了解した!契約内容は、お主の蘇生と身体の主導権をお主に譲ること、そして我は彼の地での最期を迎えられたならば完全なる自由をお主に与えよう!

 我が名は金烏(きんう)!この名はお主ごときには呼ばせられんが…我が契約者だ、お主には特別に「きんちゃん」と呼ばせてやる!

 契約には互いの名が必要だ。お主の名を教えよ。」


 …色々つっこみたい…けど我慢しよう…。


「草加瑞希です。…よろしく、きんちゃん。」


 悪魔なんて自称する声のみの存在の言うことなど、本来信用してはならないと思う。

 間違った選択をしている気がして、心臓が早鐘を打っているような気分だ。


 しかし、この時の私は、ただ、親友のために死ねないという気持ちが強かった。

 相手は悪魔で、信用なんてできる存在じゃない。もし、契約に多少の認識の相違があっても受け入れる覚悟で臨んだつもりだった。


 …しかし、受け入れるつもり、でしかなかったと後悔するのは、すぐ後の事となる。



  ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 目を開けた瞬間、飛び込んできたのは知らない男の人の顔面アップだった。


 近い!!驚きすぎて声もでない!

 あちらも驚いたように固まっている。


 切れ長の目に鼻筋が通ったおじさまだ。これぞロマンスグレー!といった黒髪と白髪が絶妙にまじった髪が清潔にセットされていて格好いい。…しかしいくらナイスミドルでも、初対面の女子大生にこれは明らかなセクハラだ!


 叫ぼうと思ったとき、おじさまの顔より更に至近距離にあったため焦点が合わず見えていなかったものの存在に気づいた。


 メス。

 医師が手術で使用する皮膚等を切り裂く刃物。


「ぎゃあぁぁぁああぁぁあ?!!!!」

「…お主、下品だぞ…」

「助けて!!」


 きんちゃんの声が脳内に響く。蔑むような声だったがどうでもいい。何故目が覚めたらこんな目にあっているんだ!身体を動かそうとして、失敗する。手足は鎖で寝台に縛り付けられていた。


 ……身体がある!!ってことは生き返らせてもらったはずなのに、なんで縛られてるの?!いきなりサイコキラーにでも捕まっているというのか?!


「落ち着きなさい、僕は医者だ」


 …医者??おじさまの言葉でよく見てみると、確かに医者の格好をしている。ネームプレートには「根塚大学附属病院 第一外科 医師 宇治宮正樹」とある。


 ……医者ならメスを持っていてもおかしくない…いやいやいや、人を拘束して顔にメスつきつける医者がどこにいる!!


「こいつ、お主が起きるまであの凶器でお主の手足切ってはニヤニヤしていたぞ」


 悪魔が囁いてきた。


「ぎゃあぁぁぁ!!!!怖い!!人殺しー!!だれかぁー!!!」


 思わず叫ぶ。

 しかし、コンクリート打ちっぱなしの室内は、窓ひとつなく、たった1つの扉もぴったりと閉じられている。

 外に声など届きそうもなく、私の声は憐れにも部屋を反響するだけだ。


 私が愕然としていると、も突然ロマンスグレーの不審者が笑いだした。


「フフっ!人殺し……?君は死なないだろう?」


 …何いってんだ、こいつは。さっき死んでたとこですけど?


「そして人ですら…ない」


 その台詞とともに、宇治宮とかいう医師が手首を返し、私は首を切られた!


 …激痛が走り血が吹き出し…


 あり得ないことに、吹き出した血液は次の瞬間、私の体内に戻り首筋の痛みも消えた。


「……」


 色々と、驚きすぎて言葉が出ない。


「…素晴らしい」


 …一体どうなっているのか。私はきんちゃんに生き返らせてもらって…それで私の身体はどうなった??


 暑くもないのに汗が頬をつたう。


「き、きんちゃんさん?」

「ふむ、この男はお主の身体の回復力が随分気に入ったようだな!」

「違う!聞きたいのはそこじゃない!なんでこんな身体になってるのっっ?!」


 明らかに普通の人間ではなくなってしまっている!!これは、凄いでは済まない大問題だ。

 私の焦りと裏腹に、きんちゃんはそれは得意気て説明し始めた。


「お主の使えん身体に、我の魔力を血液に置き換えて身体中に廻らせてやることで、あらゆる傷も治す、驚異的な回復力を実現させたのだ!!

 欠損すら再生可能だぞ!しかも自動(オート)!!凄いだろ!!!」


 自慢気な悪魔の声にはキラキラした誉めて欲しいオーラが漂っている。


「そ、それ、それ完っ全に人じゃないっすよね…??」


 反対に私は反論する気力すら奪われかすれ声しか出ない。

 精神的に憔悴していた私は、伸ばされた宇治宮の手に気づかず、首を絞められる形で押し倒されてしまった。宇治宮は微笑んでいる。そして実験材料をみる眼で射抜くように凝視される。


 怖い。知らず全身が小刻みに震えてしまっていた。


「草加瑞希さん、心配しなくても大丈夫。君はこれから医療の更なる発展に貢献する貴重な存在なんだ。出来うる限り丁重に扱うことを約束する、どうかご協力頂きたい。」


 小さな子供をあやすような声音で宇治宮が言う。


「君の素晴らしい回復力、この能力の解析が出来れば死から救える人々が大勢いる。不幸な事故で寿命を全うできない人や、たったの数日で散ってしまう小さな命が救えるんだ!遺され悲しみに暮れる家族だって救える!!

 そうなったら、どんなにか素晴らしいだろう!」


 そして宇治宮は、血走った眼で微笑んだ。


「…君は死なない。人々を救える成果がでるまで、いくらでも研究できる…」

「きんちゃんーー!!!とりあえず、この場をなんとかして助けてぇ!!」


 とりあえず、精神的なダメージが限界だ!

 しかし、今ひとつ危機感にかける悪魔は、


「助ける…?契約に入ってないぞ」


 書類の内容、確認してます?とでも言いたげだ。

 お前は役所の役人かっ?!!


「そんな事言ってる場合かっ!言っとくけどこのままだったら確実に監禁されて解剖コースだから!!目的地に行くなんて不可能になるからねっ?!」

「ちょ、ちょっと待て、それは困るっっ!!」


 やっと事態が飲み込めたらしい。


「し、しかし、その身体の主導権はお主にあるのだ。我が前にでるのは契約に反するぞ…

 そもそも、今のお主の身体には我の魔力がみなぎっている。お主が念じるだけでその程度の拘束、簡単に壊せるぞ」


 なんだか、益々普通の人間からかけ離れた存在になってるよ発言だった気がするが、今はそれよりこっちが先決だ!


 ―壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろー×10…

 とりあえず、力一杯念じてみたが…


「無理っ!!!!」


 ちょっと泣きそうです。


「…何故だ、全く魔力が反応しておらん…お主、身体を巡る魔力を感じて念じているか?」


 きんちゃんも予想外だったらしく、困惑した声音だ。身体を巡る魔力……?………?


「何も感じないけどっ?!」

「―――なっ……なん…だとっ?!!!我の膨大な魔力が分からないだとぉっ??!!」


 …びっくりした。脳内で大声で怒鳴られてしまった…脳震盪を起こしたような感覚に襲われる。

 ちなみに宇治宮は、きんちゃんの声が聞こえていないので私が一人で騒いでいるように見えるようだ。

 怪訝な顔をしていたが、拘束を外そうとしているのは通じたらしく、せっせと拘束を増やし始めている。


「ごめん、とりあえず謝る!だからなんとかしてぇっっ!!」


 分からないものは仕方ないと思うが、とにかく今はこの場を切り抜けないと…っっ死ぬより恐ろしい未来が確定してしまうっっ!!


「…まさか、我の魔力に気づくことすらできん者が存在するとは…大概のものは見てきたつもりだったが、ここまで才能のないものが存在するのか…??」


 しかし、きんちゃんは状況を忘れるほど呆れ返っているらしい。魔力の才能?そんなんフィクション以外聞いたこともありませんが…


「これほど鈍くてよく今まで生きていたな…

 あぁ、そうか。先ほど死んでたんだったな」

「ちょっ、その言い方は酷くない?!」


 決して、決して好きで鈍くさいわけじゃない…っ!!

 しかしこの悪魔には私の思いなど全く通じていない。


「分かった、お主には我の偉大な魔力も宝の持ち腐れだ。嘆かわしい……が、仕方ない、お主の意思で、この場を乗り切る間という条件付きで我に依り代の使用を許可しろ。

 それでなんとか契約違反にはならんだろ。

 ……まったく、お主などに使われるとは心外極まりない……嘆かわしい」


 ……こいつ…2回も嘆かわしい言いやがった…ため息3回もつきやがった……


 しかし、確かにここを乗り切るには、嘆かわしいが私ではどうしようもない。…あ、自分でも思ちゃった。


 ともかく、私は身体の主導権の一時貸与をきんちゃんに許可した。


 その次の瞬間、ふ、と気が遠くなったかと思うと、私は自分の影から事態を見守ることとなった。




  ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 ……人ではない、それは蘇生を目の当たりにした時から分かっていたことだ。しかし、見た目が人だったということもあってか、油断してしまっていた……

 宇治宮は後悔していた。こんなことならば、看護師に口止めし秘かに一人で研究するのでなく、この存在を公表して万全の体制を整えるべきだった。


 …いや、それでも足りなかったのかもしれない。

 紅炎のように身体から立ち上る、漆黒の炎をまとうそれは、人の形を象った太陽のようだ。

 肌を貫くような熱が、彼女を中心に部屋中に渦を起こしている。


 拘束されていた筈の身体は既に自由になっていた。ゆっくりと、彼女の視線が白衣の男に向けられる。その瞳は先ほどまでと違い、吸い込まれるような黄金色に輝いている。


 宇治宮は、その瞳に射ぬかれ身体がすくむ。息をすることすら出来ない。


 ー自分はここで死ぬ。


 そう直感した。

 人間が手をだしてはいけない、神の領域の存在だったのだ。あの瞳をみた瞬間に宇治宮は驚くほど素直に、納得してしまった。


 ーひひひっ


 神らしからぬ、軽薄な笑い声が響く。

 そして、突然生じた目の眩む光、凄まじい熱量をもった暴風に焼かれながら、最後になるだろう思考を巡らせる。


 ――僕が死んだら、僕の患者たちはどうなってしまうのだろう?


 心残りとともに薄れていく意識の中、声が聞こえた。


「お前の愚直な信念、嫌いじゃないぞ。」


 面白がるような口調。声が聞こえなくなったと同時に身体を焼かれる痛みが消える。それとともに、宇治宮はその意識も完全に手放したのだった。


認識の相違って色々な場面でありますよね、気を付けないと困ったことになります笑

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