序章 人外への道
もっかいやりなおし!とりあえず前よりましになった←自己満足
人生の転機とは突然だ。
普段の日常の中に、いつだって潜んでいる。
その事に気づいた時には、手遅れだったりするのだけれど。
「みず~!早く行かないと売り切れちゃうよぉ?!」
その日私は、お気に入りのケーキ屋さんの新作、「林檎とはちみつがハモる特濃チーズケーキ」を手にいれるべく、スイーツ仲間の親友と歩いていた。
「愛さんよ、慌てなさんな、あそこは2時に商品補充するから、今から行けば絶対あるっ!!」
事前のリサーチは完璧なのだ。
そのために大学の三時間目はサボることになってしまったが、仕方がない。後で誰かにコピーさせてもらえば問題ない。
私は頬を色づかせ、期待に眼をキラキラさせている親友に親指を立て確約する。
「昨日は眠れなかったくらい楽しみにしてた私に、ぬかりはありませんよっ!!」
自分の中でも最高の笑顔で応えた。
というのに、彼女の目が突然見開いたぞ、なんだろう?
「みずっっ!!あぶー」
彼女が声をあげたと同時に、頭を殴られたような衝撃に襲われる。
「ーーっっいったぁーっ?!!」
「……ほんと、周り、よく見なよ~?」
標識のポールに突進してしまった。めっちゃ痛い。
彼女は心配するというより、半目になって呆れている。ちょ、ちょっと酷くないか??
え、見慣れすぎたって?!……酷い。ケーキに興奮しすぎて注意力散漫になっているだけですよ!
「みず、そんなことよりっ!ねっ!!
いざ行かん、宝ケーキを我らが手中に!!」
私の抗議を華麗にスルーし、愛が私の背を軽く押す。
酷い娘!と、笑いながら大げさによろけてみる。
いつも通りのやりとりだった。
ふざけて、じゃれただけ。誰が悪いわけじゃないと思う。
ただ、ひたすら運が悪かったのだ。
よろけた先は、曲がり角だった。
そこへ、タイミング悪く、ワックスをぶっかけたのかと思うようなギラギラした派手な車が、道の脇スレスレに突進してきていたのに、私は全く気付けなかった。
愛が泣き叫んでいる。
私にすがり付こうとして、周りの人間に止められている。
私は、轢かれたらしい。
身体の感覚はまったくない。痛みもない。
それ以前に、私の倒れてる身体を見下ろすように、私の意識は宙に浮いていた。幽体離脱とかいうやつなのか?
因みに倒れてる身体は直視できない。
感覚はないが、チラリと横目でみた感じでは、見ただけで痛い、という有様になっていることは分かった。
感覚がないからなのか、血溜りを作っている身体から抜け出ているからなのか、全く実感がわかない。
映画か何かを見ているようだ。
ただ、私の親友が気が狂いそうなほど取り乱して泣き叫ぶ姿を見るのが、そちらのほうが苦しくて堪らない。
「わ、私が押したりしたから…みずっ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいーー」
私に謝りながら、見るのも恐ろしいだろうに、血塗れの身体に駆け寄ろうとしてくれている。
つい先ほどまで傷一つなかった白い指が、アスファルトに爪を立てているせいで血が滲んでいる。
彼女の身体は押さえ込まれて身動きすら出来ずにいる。その姿はあまりにも痛々しい。
「………愛ちゃん、愛ちゃんのせいじゃないよ、わたしが回り見えてなかっただけだから…っ!」
思わず、声をだしてみたが、彼女には今の私の声は届かないようだ。
このまま、私が死んじゃったりしたら…
彼女はどうにかなってしまうんじゃないのか…
頭をよぎる想像に、悪寒が走る。
と同時に、急に「死ぬ」ということに実感が湧いてくる。全身が震え、息ができないような感覚が襲ってくる。
ー私、私は死にたくない!
その時だった。
「生きたいか?」
…中低音の、声が聞こえた。声変わりしたばかりの年頃の少年が、探していた玩具をみつけた、そんな無邪気な色を含んだ声。
驚いて周りをみても、声の主らしい姿はない。
「我と契約するなら、生かしてやるぞ?」
もう一度、聞こえた。幻聴ではないのだろうか?
「……誰?私に言ってるの…?」
つい、返答してしまった。
ひひっという笑い声がした。
なんというか、とても軽薄な感じがする。
「そう、お前だ。
我はお主ら人間に悪魔、などと呼ばれている存在だよ。」
一瞬の間。
その後私の口から飛び出したのは、あの決まり文句だった。
「あ、結構です!」
家にかかってくる押し売り電話の時と同じ対応で即答した。驚くほど、頭が冷静になる。19年間染み付いた迷惑電話の対処法が無意識に発動したのだ。
超常現象だろうがなんだろうが、これは詐欺商法と同じ系統だと確信したのだ。
「えぇ?!ちょ、ちょっと待たんかっ!」
驚いたような声音が返ってきたが、今はそれより何より、壊れてしまいそうな愛のことが心配だ。
「間に合ってます、いりません。」
断り文句part2が口をつく。
しかし相手は食い下がってきた。
「ちょ、話を聞け!お主、このままだと死ぬのだぞっ?それを我の望みをちょちょっと聞いてくれるならば、その命を救ってやろうといっているのだっっ。
我は、こう見えてもそれなりに力のある存在だ。はっきりいって実力者だ、信用してくれていいっ。」
しつこいな。ちょっとイラッとしてきた。
「…信用できるってのは詐欺師の常套句でしょーが。
悪魔なんて最後に魂とるんでしょ、それじゃあホントに命を救うことになんないでしょ!」
……まぁ、漫画の知識だけど、まちがってないよね。
とりあえず、どっかいってくれ。
しかし、私の思いとは裏腹に、自称信用できる悪魔の次の言葉は、まさに悪魔のささやきだった。
「安心しろ、我の望みはお主の魂ではない。ある場所に我を連れていってもらいたいだけなのだ。それが済めば我はお主の側から消えてやる。自由を約束しよう。」
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
草加瑞希、19歳。路上にて車両に轢かれ救急搬送されるも、搬送先の根塚大学附属病院にて死亡を確認…したはずだった。
死亡確認した医師、宇治宮正樹は呼吸することすら忘れていた。
搬送当時、草加瑞希の身体は折れた肋骨が体外に突き出し、さらに内臓にまで突き刺さるという無惨な状態であった。すでに心拍は完全に停止していた。病院ではなく警察に検死にまわすことになるな、と考えていると、それは起こった。
宇治宮と2名の看護師の目の前で、瑞希の傷ついた身体が逆再生するように修復されていく。折れて突き出た肋骨が音もなく形を形成しながら体内に戻っていく。寝台を赤く染めていた血液が、染みひとつ残さず還っていく。
夢か、と思うほど一瞬の間に、草加瑞希は傷ひとつない姿で安定した呼吸を繰り返していた。
看護師達は声も出せずに顎が外れるのではないか、というほど口を開けて微動だにできずにいる。そして宇治宮は、奇跡を目前にし、ただ、うち震えていた…
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
19歳なんてまだ子供だ。人生経験なんて言えるほど生きていない。だから悪魔のささやきに耳を貸してしまうのも仕方ないことだと思う。
それも、親友にとんでもない心の傷を自分がつけてしまったこの状況では、尚更だ。
もし、この悪魔のいうことが本当ならば、愛の心を壊さずに済むかもしれないと思ってしまった私は、悪魔の言葉に釣られてしまった。
「…魂とらないって…自由になれるって本当に?」
そう聞いた瞬間の、姿が見えない自称悪魔の食い付きっぷりは凄かった。
「もちろんだともぉ!!我は嘘はつかん!誠実さが売りなのだっ!」
…こいつ、犬だったら尻尾千切れるほど振りながら涎だらだら垂らしてるんだろうか…アホな子みたい…。
不覚にも親しみを抱いてしまった。
しかし待て。提示条件が私に有利すぎる。明らかに対等ではない。
「でも行きたいとこ連れてくだけなんて…そんなのが条件っておかしくない?
悪魔がいけないような所ってこと?それにしてもこっちばっかり有利な条件に聞こえるけど?」
「うむ、疑問はもっともだな!我は誠実なので契約前に説明してやろう!」
私が話を聞く気になったのが、よほど嬉しかったのだろう。悪魔はますます饒舌に話し出した。
「まず、我らはお主らが生きているこの世界で自由に活動するためには依り代がいる。
それがなければ行きたい場所に行くことすら叶わんのだ。
つまり我はお主と契約しお主に依り代になってもらおうと思っている!
本来なら召喚されん限りこちらに一切干渉すらできぬが、我は最高位の実力者なので召喚されずともこの程度の干渉はできるのだ!恐れ入ったろう!!!ふんっ!」
…いやいやいや、今、さらっととんでもないこといってなかったかな???
「…今、私の身体を乗っ取るみたいに聞こえたけど…」
「うむ!お主の身体を使って活動する予定だ!」
…本性がでたよ、この詐欺師!甘い話には裏があるんですよ!
「やはりこのお話は無かったことに…」
「えぇー?!!何故だぁ?!!」
「生き返っても身体を乗っ取られたら意味ないでしょーが!依り代なきゃ活動できないなら自由にしてくれるはずないじゃん!この詐欺師!!」
…思わずきれてしまった。
しかし、次の悪魔の言葉は、私の考えを真っ向否定するものだった。
「失敬だな!詐欺などではない!
教えてやろう、我の望みとは我の消滅を迎える場所へ行く事だからな。」
そこそこ書き溜めたものを、気に入らなくてリメイクしながら書き始めてみるというわけのわからないことをしています。