日常との別れ
登場人物
俺:高瀬淳
クラスで人気者:早見蒼汰
学校の1、2を争う美女:坂戸沙紀
学校で存在感のない女子:本多柚希
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
涼しいかと思いきや、暑くなり寒くなる。植物でいえば、花が咲き、緑が深まり赤みがまして、やがて枯れ果てる。その繰り返しだろう。いつも通りに起きて、いつも通りの時間が始まる。それは、大人も子供も同じだ。
「あーつまんねえ」
いつの間にか、それが俺の口癖になってしまった。
「おい、高瀬。そんなこと言うと、人生つまんなくなるぞ…」
話しかけてきたのは、クラスでも真面目で人気のあるやつだった。名前は、早見蒼汰。そいつは、人気があるし皆から慕われてるのでクラスのヒーロー的存在だった。
(うるせえな、そんなの人それぞれだろうが)
言っても、意味がないのは分かっている。皆から慕われているからだ。大多数がやつの味方だろう。言った所で、集中砲火をくらうだけ。変わらないこの構図。
昼休み、大抵アニメとか漫画とかだと、可愛くて優しいそんな誰か来てくれるものだが、来てくれるのは、先生だ。だいたい、
「そんな所でなにをしているんだ!」
って怒られる。しかし、今日は違った。
「そんなとこでなにをしてるの?」
ふんわりとした、優しい声だった。俺は見上げた。女子だ。しかも可愛い。
(あれ?どっかで…)
すぐに分かった。学校で1、2番を争う美女で、人気で可愛い人だった。名前は確か、そう坂戸沙紀だったか。
「あの…」
か細い声で、その女子の後ろにいる人は、彼女とは逆に人気がない、というかあまり知られていない、そんな人だった。ある意味で、学校で1、2番を争うじゃないか?そんな感じだ。だから、俺も知らなかった。
「この子は、本多柚希さんよ」
「はぁ…どうでもいいけど…」
まあ、どう考えても、合わない二人だ。
「別に、なにをしてるって見ればわかるでしょ」
「まあ、そうね、隣いいかしら?」
「いいけど」(何故だ、何の目的で?)
恐らく、学校の奴らから見たら、かなり異様な光景だろう。
「頼みがあるの、良いかしら。ちゃんとこの子を連れてきたのにも訳があるの、そしてあなたが必要なのよ」
そして、彼女から放たれた言葉は、衝撃的なものだった。
「この、日常を変えてみない?」
一瞬、時が止まった。
「何を言ってるの、もしかして俺のことを馬鹿にしてる?」
「こっちは真剣よ」
確かな眼差しだった。んまあ、こっちは普段の日常に飽き飽きしていたから、ちょうど良かったってのもあったからか、抵抗感はなかった。
「へぇ…あそこにね」
どうやら、異世界だのなんだのがあるらしい。そこは俺らがいる校舎から、少し離れた旧校舎だった。
「確か、あそこは入れないはずじゃ…?」
「あ、それなら大丈夫です…」
もじもじしながら、本多さんは言った。
「確証は?」
「それなら、私も行ったから大丈夫よ」
(まじかい、行ったのかい…)
到底、坂戸さんがそんなことをするなんて思わなかった。
「まあ、いいのよ…、行くかどうかは、高瀬くん、あなたが決めなさい」
その時、なぜか分からないが、俺はなにか、変わるのかもしれないとなにか感じていた。しかしその理由はまだ、その時の俺は知る由もなかった。
「じゃあ、放課後ね」
俺は、坂戸さんと本多さんと別れた。午後の授業は、全くと言っていいほど集中が出来なかった。まあ、普段、あまり集中していないせいもあるが。俺は、自分の中で意味を整理していた。しかし、頭は働かなかった。気がつけば、授業が終わり放課後になっていた。俺は約束通り、旧校舎の前に立っていた。もしかしたら、来ないのかも俺は釣られたのかもしれないという気持ち半分、興味半分だった。しばらくしていると、坂戸さんと本多さんはやって来た。やっぱり、遠くから見ても二人並んでる姿は極めて異様だ。
「お待たせ」
「高瀬くん、待った…?」
「あれ、名前なんか教えたっけ?」
「坂戸さんが教えてくれた…」
「え?」
「なによ、教えちゃ、やましいことでもあるの?」
「いや、別に…」
そうでは、ないのだ。これは、坂戸さんが俺の名前を知っているということの驚きであった。
「まあ、いいわ。入りましょう」
恐る恐る、俺は中に入った。坂戸さんと本多さんは、一回入っているからか慣れたような感じだった。
「こっちよ」
(あれ?旧校舎に地下なんてあったか?)
「ちょっと待って!」
「なに?」
「ここは一体…?」
そういうと、坂戸さんはこう言い放った。
「そうね…言うなれば、日常と非日常の狭間かしらね」
「はい?」
確かに、俺はこの日常にうんざりしている。でもいきなり、そんなことを急に言われても分からないし理解が追いつかない。そうしているうちに、どうやら異世界の、入り口という場所に着いたらしい。そこには、古く闇で覆われている旧校舎の中に、場違いな光を放つ空間があった。
「着いたわよ」
「はぁ…」
「坂戸さん、やっぱりあったんですね…!」
本多さんの目が輝いた。それは、この非日常的な光景に対する希望の眼差しであった。その時だった。
「おい!そこで何をしてるんだ!」
「まずいわね…」
坂戸さんが、唇を噛んだ。そして現れたのは、俺と同じクラスの人気者、早見蒼汰であった。
「なんだ…お前かよ」
「なんだとはなんだ。高瀬。そしてこれはなんだ。」
「知られねえよ」
「なに、知り合いだったの?」
坂戸さんの表情が緩んだ。本多さんは、相変わらずびくびくしているが。
「まぁ、同クラだし。」
「早見蒼汰です。初めまして。坂戸さんですよね?話は聞いていますよ…」
はいはい。やつは、こういう所からポイントを稼いでいくのだ。ちなみに、俺はこのやり方は嫌いだ。どうやら、坂戸さんも嫌いらしい。表情が曇っている。一通り、坂戸さんから早見へ今回の件について話した。早見は、驚いた表情だったがすぐに理解したようだった。なんで、すぐに理解できるのだろう。俺が馬鹿なのか?と思うほどだった。でも、俺はそれよりも。
「おい、早見。なんで立ち入り禁止の旧校舎にいるんだよ」
「それはだな…」
珍しく、やつが口ごもった。そして数秒の間を、置いた後にこう言った。
「俺も、たぶん…皆と同じ理由だ」
「は?クラスでヒーロー格のお前が?」
「まあ、いろいろとあるんだよ。そこは坂戸さんも分かってくれると思うが…」
俺は、坂戸さんを見る。彼女は少しだけ、コクりと頷いた。なるほど、ここにいる4人は、理由は違えど、皆共通のことがあるのだと気づいた。それは、この日常に少なからず、決別したい、変えたいと思っていることだ。坂戸さんと早見は、ちやほやされたりなにか期待されたりすることだろう。俺にとっては、羨ましい限りだが。本多さんは、坂戸さんと早見とは逆で、誰からも目をかけられない、避けられてしまうことに対して。そんなことだろう。そして俺は。俺は、このごく普通の日常だ。そんな訳で、普通なら絶対に集まらない4人が奇跡的に、ここに集まった。
「いい?一回行ったら、基本的には戻れないわよ。それでも行く?」
皆は頷いた。
「じゃあ、行くわよ」
そして、俺は行く前に、
「ねえ、坂戸さん。本多さんを連れてきた訳って?あと、なんで俺が必要だったんだ?」
彼女は微笑みながら。
「後々、分かるわよ」
俺は、その意味を考えながら、そして、俺を含む皆は期待と不安を抱きながらその場違いな光へと飛び込んでいった。そして、ぼそっと坂戸さんは言った。
「この日常にさようなら…」
俺は、その言葉が何を意味するのかは、まだ到底理解は出来なかった。そして、その光から抜けた時そこに広がっていたのは、見たことのない世界であった。
初めて、投稿させて頂きました。ですので、いろいろと至らない点があると思います。そんな中、最後まで読んでくれた方に感謝いたします。