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ナップルジャンキーズ  作者: 黒十二色
第二章 ナップルジャンキーズ
8/11

2 「緊急アラーム」

 私の中にあるシゴッツの魂、シゴッツスピリットは、次々に新しいものを生み出し、新しい世界を作り出していく。

 しかし、同時に、既存の製品のグレードアップも忘れなかった。

 私は、ナップルウォッチにさらなる改良を加えることにした。それは、ヘルスケア機能の強化だ。

 従来の製品では、健康に関する機能として、せいぜい万歩計機能だとか、血糖値を計測して警告を発する機能だとか、そういうものくらいしか載っていなかった。だが、私とシゴッツは新しい機能を搭載したナップルウォッチを生み出した。

 ナップルが発売している高機能電子肌着、ナップルスーツと連携した健康機能により、自動で薬剤を投与する機能である。

 開発当初、ナップルウォッチから注入される物体が、腕の筋力を増強し、ナップルブックを持っていても全く重さを感じさせないようにすることを目指したのだが、もっと広い用途に使える可能性を見出したため、ヘルスケア全般の強化に乗り出したというわけだ。

 この新ナップルウォッチは、看護師よりも注射がうまい。それどころか、もう医者も薬局もいらない。世界中のあらゆる医療情報を網羅し、病気の兆候があれば、ナップルウォッチが自動的に診察検査し、決まった時間に決まった薬剤を調合して自動投与する。ナップルスーツの中には、あらゆる薬剤の情報が入っていて、ナップルショップであらゆる薬に変化する万能薬を補充することで、常に病気を打ち負かすことができる。

 病気の予防にも気を配ってあり、ありとあらゆる身体の異変を察知し、常に快適さの中に身を置くことができる。ナップルスーツと連携し、暑くなればナップルスーツの冷却機能で冷やされ、寒くなれば暖房機能で暖かくなる。世の中は春と秋が短くなって過酷になっていくけれど、ナップルスーツの中は、いつも穏やか。

 これ一個とこれ一枚で、仕事の効率も右肩上がり、遊びの面の快適さも、うなぎ上り。

 ナップルスーツと新しいナップルウォッチは瞬く間に売れ、生産が追いつかない状況になった。

 そんな中で、私はシリアルナンバーゼロを身につけ、優越感に浸るのだった。

 年が明けると、ナップルは簡易小型核シェルターを発売した。ナップルが出している車、ナップルカーを基盤に、ありとあらゆる外界の脅威を防ぐ一人乗りの超小型カプセル。これも私の家にシリアルナンバーゼロのシェルターが存在する。

 またしても私がシゴッツと二人三脚で完成させた製品だ。

 このナップルカプセルは、非常に高い密閉性を誇り、衝撃に強く、外から空気を取り込む際には特殊なフィルターが有害物質のみをほぼ確実に防いでくれる。

 常に複数の人工衛星から電気が無線充電され、半永久的に全機能が稼働し続ける。

 いざという時には、ナップルスケボとナップルスケートに搭載されている技術を使って短時間だけなら空中に浮遊することもできる。今のままではパワーが全然足りないが、手を加えて強力な推進装置でも付けようものなら、車輪をつければ車になり、もしかしたら宇宙にだって行ける可能性を持っている、そんな夢の乗り物だ。

 体調管理機能も備わっていて、たとえ食べ物なんか積まなくても、そのカプセルの中だけで、二ヶ月は健康に生きられるはずだ。

 ああ、私は自分の仕事を誇らしく思う。



 一月も終わりに差し掛かって年末年始のセールも落ち着いた頃、私は秋葉原の電気街をナップルスケボに乗ってゆったりと移動していた。ナップル製品開発のための取材をしようとブラブラしていたのだ。

 今年いちばんの冷え込みで、街中はみんな息が白く、コートやマフラーなしでは凍死するような日であった。だけど、私が肌着として着ているのはナップルスーツ。こんな日でも薄着でスマートな服装が可能で、違いを生み出すことができるのだ。

 私が優越感に浸っていると、ふとアラームめいた音があちこちで鳴った。私の腕からも響いていた。かと思ったら、私が巻いているナップルウォッチ四機が、同時にある映像を立体投影した。急に画面が出てきて、私の意志と関係なく流れ出したのだ。

 何だろうかと首を傾げながら事態を見守っていると、知的そうな女性アナウンサーの姿が空中に映し出され、緊急ニュースの放送が始まった。街をゆく人々の端末にも、同様の映像が流れているようだった。

「国際宇宙局が、緊急声明を出し、巨大隕石の急接近を発表しました」

 映像下部のテロップには、『隕石接近。十五日後に太平洋上に落下の見通し』と表示されている。

 私とシゴッツの開発したナップルカプセルが飛ぶように売れるだろうなと思ってしまった私は、もはや人間の心を失ってしまっているのだろうか。

 人々が歩みや滑りを止める中、私はナップルスケボに乗って、ゆったりと地上すれすれを滑りながら、アナウンサーの美声に耳を傾ける。

「えー、国際宇宙局の発表によれば、隕石が巨大すぎるため、完全な破壊は難しく、現在、軌道を逸らすために最大限の努力をしているものの……地球に重大な影響を及ぼすことは、避けられない見通しである、とのことです」

 神妙な面持ちのアナウンサーの背後には、隕石のCGイメージ映像が表示されている。ごつごつしたクレーターだらけの隕石は、月よりも大きく描かれている。

「隕石の接近を受け、国際宇宙局では、関連するあらゆる情報を公開するとしています。政府は、国内の研究機関に国際宇宙局と連携して、事態に対処するよう働きかけていくとのことです」

 そうして緊急放送は終わった。

 私の足は、いつのまにか電気街を抜けて、駅前の広場まで来ていた。

 現実離れした話を聞かされて乾いた笑いを放つ人、事の深刻さを感じ取って怯える人、携帯を身につけておらず何が起きているのかわからず戸惑う人、全てを諦めて路上で寝袋に包まっている人、家に電話をかけて逃げる予定を調整している人、ナップル純製のシェルターを買うためにドドバシカメラに滑り込む人。

 ざわつく秋葉原の雑踏で、私は、ハッとした。

 不意に、重大で神聖な、悟りにも似た気づきを得た。

「すべては、このためだったのか」

 私がナップル製品を無意識の中で買い続けたのも、相次いだナップルの新製品発表も、すべては、人類の危機に備えてのことだったのか。

「私は、選ばれた者だ。勝ちにゆくのが、選ばれし者の運命だ。……どういうことかって? それはつまり、私が、世界を救うってことだ」

 私は、改札を滑り抜け、電車に乗って工場がある家に戻った。

 地元の駅からは、いてもたってもいられず走って帰ったため、両腕のナップルウォッチが何度も体力の使いすぎを警告していた。



 翌日、私はナップル純製のパーツをゴッソリ買い集めて車に載せた。秋葉原にないパーツは、ネットでアメリカ、香港、中国の深セン、それと台湾あたりから取り寄せた。私は、これからロケットを作る。

「時間がない。大掛かりな作業になる」

 隕石を何とかするためのロケットだ。広い部屋、高い天井が必要だ。

 そういう場所を、私はすでに持っている。

 そう、父親が持っていた廃工場だ。

 どうやらスマートフォンに組み込む小型の部品を作っていたらしいのだが、画面に触れない操作法であるナップルタクトの登場など世界の端末の進化についていけず、潰れてしまい、父親は失踪した。

 もう稼働していない精密機械を作るための機械がたっぷりとあり、もとが倉庫として使われていたためか、天井はかなり高い。今は、その倉庫のようなスペースにナップル製品が数多く並べられており、何と言うか、ナップル博物館みたいになっている。

 条件は揃っているのだ。あとは私の頭と身体が、ナップルの精神を体現するだけだ。

 きっとナップルの精神は、地球を守るために全力を尽くすだろう。

 私はナップルに選ばれた人間として、全力で人類のために戦おう。

 通販でガムやカフェイン入りの飲料やエナジードリンクなどを大量に注文し、徹夜に備えることにする。もしかしたら、以前徹夜した時にこれらのものは飲みまくったから、もう耐性ができてしまってさっぱり効かないかもしれない。とはいえ、別に副作用の強い麻薬ってわけでもない。気休めに飲むくらいなら誰にも文句は言われないだろう。

 注文した数十分後には、庭先に置いた宅配受け取り専用の巨大な箱、ナップルボックスに届いていた。ナップルショッピングで注文したものが倉庫内のナップルクレーンによって引き出され、ナップルカーによる自動運転によって私の居場所に届けられ、再びナップルクレーン、もしくは空中を飛べるナップルコプターで受け取り場所に届けられる仕組みだ。全てを自動で行うことによって、人件費が削減され、運転手の労働環境を気にしなくて良いため、今ではナップルを真似て多くの企業が宅配完了までの工程を全自動化した。

 あと数年もしたら、一生の大半を他人と会わずに生きていける社会が到来するのではないかと思う。そのような世界は少しだけ気持ち悪いとは思うけれど、きっとすぐに慣れる。もう人類はこの便利さを手放せないだろう。

 私たちは、ずっとそうやって、生活様式をグレードアップさせてきた。

 そうだ、過去には戦争によって技術が進歩したけれど、技術の進歩がもたらすのは、きっと悲劇だけじゃない。

 実際、幸か不幸か、一握りの人間しかついていけないようなスピードで急激に発達したテクノロジーという名の確かな力が、二週間後に落ちる巨大隕石を何とかする唯一の希望になっている。

 テレビのニュースでは、政府が事前に隕石の情報を掴んでいながら隠蔽していた疑いについて国会で話し合われている風景があった。一分一秒が惜しい人類存亡の危機に責任の所在を確認しようとしていた。きっと、打てる手は全て打ったから暇になったんだろう。あるいは、これが彼らにとっての祈りや儀式みたいなものなのかもしれない。

 テレビの中の政治家たちは、選ばれなかったのだ。

 選ばれたのは私だ。

 世界よ、歴史よ、このボブズという名を永遠に刻み込むがいい。

 人類よ、よく目を見開いて網膜に刻み込むといい、このボブズが脅威を撃ち落とす瞬間を。

 選ばれた私の勇姿を。

 暗くて広い工場跡に一人。分解して、組み立てて、また分解し、考え、新しい機能や構造を考え、試し、また分解する。ありとあらゆるナップル製品をバラバラにしたり組み直したり、新しいケースを作って詰め込んだりし続けた。

 バラした中には、高額の借金をしてまで買ったパイナップルプロだとか、最上位のナップルブックプロ、それからナップルカーやシェルターとなるナップルカプセルなども含まれた。

 私は全てを賭けて地球と人類を救おうとしている。

 選ばれたからには全力で報いるのが、男ってもんだからだ。

 三回くらい、太陽が沈んで昇った。目の前の世界に、どこか現実味がないのは、寝不足と、しばらく外に出ていないせいだろうと思う。

 しょっちゅう響くアラーム。

 お節介なナップルウォッチが、眠れ眠れと言ってくる。けれど、私は世界のために眠るわけにはいかない。

 私は両腕からナップルウォッチを外した。

 メガネ型デバイスのナップルグラスで天気を確認すると、隕石が落下する二週間後は、一日中、冬晴れが続く。ナップルウェザーの精度の高さは折り紙つきだから、当日が晴れることを想定してロケットを作ろう。

 軽量さを重視するためにアルミを多く使用する。そのボディの中に、ナップル製品から取り出したケーブルや基盤を取り付けていく。先端を細く、鋭利に磨き上げ、美しい流線型のフォルムを生み出していく。機体下部にはナップルカプセルを改造したものを配置する。完全な密閉性を持ったナップル製の超小型シェルターに爆発物を入れ、一箇所に穴を開けて、爆発のエネルギーを一気に放出できるようにする。

 すぐ近くに富士見坂というどこにでもありそうな名前の坂があるのだが、その急勾配の坂を滑走路として発射台がわりに使う。昔、このあたりに住んでいたころ、アリッサと一緒に歩いた坂だ。この急坂をナップルスケボやナップルスケートによって地上を滑らせることで実現できるだろう。いずれにしても、事故防止のための速度制限や衝突防止機能など、安全重視の制御装置は外さなくてはならないが、開発者は私なのだ。たとえ私が眠っている間に私の中のシゴッツが組み立てたプログラムだったとしても、私だってナップル製品を知り尽くしている。三日以内にやってみせる。

 それから、どうやって隕石にロケットをぶち当てるかっていう問題には、ナップルカーやナップルスケボなどに搭載された自動運転機能を使う。自動運転機能っていうのは、センサーによって外の状況を把握し、その条件によって機体を制御する機能だ。だから、進行方向にある巨大物体に突っ込むようにプログラムを書き換える。このプログラムをロケットの離陸後に起動させれば、人類の脅威を破壊できる。

 大丈夫。やれるはずだ。

 私は、そのために、ナップル製品を開発させられていたんだからな。

 私がやらねばならない。私が鍵を握っているのだ。



「くそッ! なんでだ!」

 私は思わずナップル純製のテーブルを叩いた。ナップルブックプロが一瞬だけ浮き上がり、机に着地した。

 この五日で、どれだけの文字列を打ち込んだだろうか。

 もう、ナップル純正ロケットのプログラムを改良しはじめて随分長い時間が経つのに、一向に問題解決のメドが立たない。安全装置が解除できないのだ。三日で終わらせるとか言っていた自分が恥ずかしくなるくらいの停滞ぶりだ。

 ナップルスケートや、ナップルスケボ、ナップルカーとナップルカプセル。それぞれに搭載されている安全装置は、どうあっても解除できそうになかった。しかも、それらすべての安全プログラムはそれぞれ違っていて、四種類のプログラムを書き換えないといけない。

 はっきり言って無理だ。どうやら知識が全然足りないらしい。

 私の中にいるシゴッツの魂に頼もうにも、私の思い通りに動いてくれるとは思えない。

「どうすりゃいいんだ」

 いっそ、シゴッツを信じて眠ってみるか。何をするかわかったもんじゃないが、人類存亡の危機だ。シゴッツが私のロケットを完成させてくれるかもしれない。

 でも、もしも目覚めた時に、全てを台無しにされていたら?

 ここまで組み立てたロケットを分解されたら?

 全く違うコンセプトの、そうだな……一人で逃げるためのロケットに改変されて、目覚めたら一人で安全地域に飛び立ってしまっていた、なんてことになったどうする?

 危険だ。あまりに危険な賭けだ。

 私は、判断しなくてはいけない。寝不足の脳みそで正確な判断を下すのは困難なことだが、選ばないことには何も進まない。

 世界の終わりには、あと一週間と少しある。人間が眠らないでいられる最長の時間はどれくらいだろう。インターネットは、人類最長でも十日間くらいと言っているし、記録に挑むと危険だからという理由でギネスから不眠記録は抹消されているし、普通に考えれば最低でも三日に一度は眠らないといけないし、一日一回は眠らないと寿命が縮まるって話もある。私だって、一日一回は眠りたい。八時間くらい眠る健康的な生活をしていたい。日が沈んだら眠って、朝陽とともに起きるような、ナップルウォッチいらずのナチュラルな生活に憧れている。

 私の肉体と精神は、もうとっくに限界を超えている。

 私が眠れば、私の身体の支配権がボブズからシゴッツに移ってしまう。

 その時、寝不足にしては、なかなか良い考えが閃いた。

 私はチャールトンをメールで呼び出すことにした。夜中の三時だったが、彼はあっという間にチャリで速攻駆けつけてくれた。緑がかったコート、メガネ、フリース。いつもと同じ服装だった。彼は信じがたいほどの夜型なのだ。

「ボブズさん、どうしたんすか。急に」

 もう長いこと連絡を取っていなかったのに、当たり前のように駆けつけてくれた。どうやら深夜の急なメールが、彼の類稀なるボランティア精神に火をつけたようだった。

「悪いな、急に呼び出して」

「いいんすけどね。暇だったし」

「この状況で暇とはな。隕石が落ちてくるってのに、平然としているんだな」

「まあ、うちにできることは何もないっすからね。これが運命なら受け入れますよ」

 チャールトンは諦めがよすぎる男だった。

「しかし、チャールトン、できることがあるとしたら、どうする? そのために私は君を呼んだんだ」

 私の言葉から、ただならない雰囲気を感じたのだろう。チャールトンは私の頼みを、私が依頼する前に全て快諾した。

「手伝いましょう。何でもやりますよ」

 そこで私は、こう言ってやるのだ。大真面目に、一切の遊びを含まず真剣に、

「ではチャールトン、私を縛ってくれ」

「え」

 チャールトンは、変態に出会った時のような目で私を見た。いつも冷静な彼にしては珍しい反応を見ることができた。



 私は、チャールトンの細腕によって縄でぐるぐる巻きにされ、手錠をかけられながら、これまでのことを語った。ドドバシカメラでナップルウォッチを手に入れた日からナップルジャンキーとなり、シゴッツの魂を継承していることを告白した。そして今、世界を救うためのロケットを作っていることも語った。

「なるほど、それでボブズさんは、あの時いきなりナップルブックエアーを買いに行ったんですね。ようやく合点がいきましたよ」

「そうなんだ、チャールトン。だから、眠っている間の私を動けなくすることが重要なんだ。シゴッツが動き出したら、どんなことになるか想像もできない」

「でも、良い結果になる可能性もあるんすよね」

「おいおいチャールトン、妙な考えは起こすなよ。シゴッツ状態の私は、本当に何をしでかすかわからないんだ。私の人生最大の仕事をいじられては困る」

「じゃあ、こうしたらどうっすかね」

 チャールトンは、ポケットから漢字が羅列された紙を取り出して、その裏側に現状を整理するためのメモ書きを開始した。メモを取りながら思考を整理するのが彼のスタイルだ。

「ボブズさんの話では、難航しているのはソフトウェアの調整で、とりわけ安全装置の解除に手間取っているということでした。そして、いじられて困るのは、ロケット本体ということ。だったら、こんなふうにガチガチに縛ったりしないで、絶対に抜けられない部屋に閉じ込めるというのは、どうですかね。そこにネットワークから完全に遮断したパソコンを一台だけ置いて、外部からロケットにアクセスされないようにした上で、ナップル浮遊技術とナップル自動運転のプログラムファイルを置いておくんですよ。それで何か有益なものが出来上がれば組み込めばいいし、何も完成しなくても害を及ぼすことはない」

 さすが、私たちの研究室が誇るご意見番である。私はチャールトンのアイデアに乗っかることにして、パソコンを一台準備した。十年前の古いナップルブックだ。まだアリッサがいる時に私の中のシゴッツが勝手に購入した思い出深いロースペック機体。制御を解除するためのプログラム改変だけなら、そんなにハイスペックなパソコンは必要ないから、これで十分だろう。ひとまず手慣れた手つきで大量のネジを外して分解し、基盤から無線ネットワークに接続するための二センチ四方サイズの小さなパーツを取り去ってから組み立て直した。有線インターネットケーブルについては、この部屋には設置されていないから問題ないだろう。

 もうすぐ、ここは完全な密室となる。

 工場の隅にある十二畳の部屋。見るからに堅牢な鉄扉がついていて、脱出できそうな窓もない。もともと倉庫を改良して作られた工場にあって、その中でも倉庫として使われていた部屋だ。私が男の中の男であるように、この部屋も倉庫の中の倉庫みたいなものだ。

 中央の椅子に肉体を縛り付け、机にはナップルブックだけを置いた。

 チャールトンは手錠を外し、かわりに、両手にナップルウォッチを巻いてくれた。

 私の胴体は椅子に括り付けられ、タイピングする腕だけが自由になるように放置された。

 外側から鍵をかけ、蹴破られることを考えて内外にバリケードを築かせた。

 チャールトンは、どうもこの状況を楽しんでいるようで、ものすごく楽しんで協力してくれた。

 彼がいてくれて本当に助かる。私は安心の中で目を閉じ、そして意識を失った。




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