徴兵制度
海に囲まれた島国、この島国の名前は「神武帝国」この国は軍事国家である。
というのもそうならざる得ない背景があった。海に囲まれているとはいえすぐ隣には西の大陸が、神武帝国からは離れているとはいえ東には東の大陸があった。その二つの大陸に挟まれている形で位置するのこの島はとても状況が複雑だ。
一度この国は西の大陸で北に広大な領地を持つ国から侵略されたことがある。
理由は単純である、その国は不凍港が欲しかった。その国は冬が長く冬季に入るとほとんどの港が凍る。なので経済上ないし軍事戦略上どうしても不凍港の獲得が必要であった。
結果的に見れば今神武帝国という国があるということはその戦争では一応は勝利して侵略は免れたということであるが、そういう経緯もあって軍備には余念がない。
特に海軍には特別に力を入れている。他の列強国に比べて国力が乏しいこの国では一度上陸されればあとはなすすべもなく侵略されてしまうとわかっているからである。
そんな戦争があったのも今から25年前、その国からは未だに狙われているかというと表立った動きはない。
というのも20年前にあった「全滅戦争」にその国も参加しており、結果戦争で国力を使い果たしてしまったその国は戦争が終わった後革命が起きてしまい革命が成功すると帝政だったその国は連邦制に移行して「モスクベルグ連邦」と名前が変わり国が変わった。その後はちょっかいをかけてくることがなくなってしまったのだ。
そんな国家存亡の危機から逃れたこの帝国はその後国を揺るがす大きな戦争もおきず、表向きではでは平和が流れていた…
神武暦2594年そんなところから物語は始まる。
ある朝彼はとある場所に向かっている、手には一つの紙が握りしめられていた。
「多分ここだよね…」と握りしめた紙を広げてジッとみている。
彼の目の前には地元の病院がある、なぜそんなところに彼が赴いたかというと・・・
病院の前には立て看板で徴兵検査受付中と書かれていた。
「徴兵検査かぁ、嫌だなぁ・・・不合格にならないかなぁ‥・」とブツブツ一人で呟いていた。
神武帝国は徴兵制度が敷かれている。国民の男子は二十歳になったら必ずこの検査を受けなければならないのだ。
意を決して扉を開くと目の前に受付所がありそこまで歩いていく。
いつもの病院だったらそこには受付の女性がいるはずだったが今は軍服を着た人間がそこにはいた。
歩いていき受付の前までいくと強面の軍人がぶっきらぼうに彼に言い放つ。
「通知書は?」
彼は一瞬後ずさりしそうになるがそれをグっとこらえてその軍人に手に持っていた通知書を渡す。
軍人はつまんなそうにその通知書をチェックし、確認が終わると一旦受付の後ろのドアに入り何かを持ってくる。そして彼に向って今までの顔はなんだったのかというぐらいの笑顔でニッっと笑い
「田神総一郎君!検査、合格するといいな!頑張れよ!」と言い放ち後ろのドアに入ったときに持ってきたであろう書類と検査着を彼に渡す。
「あ、あははは・・・ありがとうございます。頑張ります・・・」と引きつった笑顔でそれに答える。
「着替え室は受付からみて左にあるからそこで着替えてくれな」
「着替え終わったら2Fに上がって各部屋に番号降られているから書類に書いてある通りに受けるように」
と元の平坦な口調に戻り指示する。
「わかりました」と答え軍人が言った着替え室に向かう。少しして背中からぼくのあとから来たであろう人間に通知書は?とさっきの軍人が同じことを言ってる声が聞こえてくる。
田神は着替えが終わり2Fに上がって書類に書かれた部屋の扉を開ける。
「おお・・・」扉を開けるとそこには検査を受けに来たであろう若者たちが大勢いた。
若者たちは色々な人たちがいた。自信ありげに検査を受けるがっしりした体系の人間もいれば落ち着きなさげに周りをキョロキョロ見渡す人もいた。
田神は色々な人たちがいるなぁ・・なんて思いながら列の最後尾に並び検査に臨む。
「ふぅ、長かったー」しばらくして大体の検査を終えた田神は今は廊下を歩いている。
「やっぱ人多いと時間かかるなあ、最後の検査は早く終わらないかな」そんなことを思いながら最後の部屋の扉を開ける。
そこは今までの部屋とは変わっていた。
みんな椅子に座り目の前石を触っていた。どんな検査するんだろなんて思いながら目の前の受付係に書類を渡す。
受付の人は書類を受け取ると順番来たら呼ぶからと部屋の隅っこのソファーを指差しながら指示する。
「はい、わかりました。ちなみにこれなんの検査なんですか?」と興味本位に聞いてみる。
受付の人はこちらをチラっとみると少し考えながら詳しくは検査するときに教えるからとあっさり言われてしまった。
別にそこで食い下がる理由もないので田神はわかりましたと言って先ほど指差されたとこで座って待つ
そんな待つこともなくすぐに田神は呼ばれた。
田神は手招きする人のとこへ向かい促されるままに席につく。そのままその人に書類を手渡す。
ゴトンと目の前に石を置かれた。
「これは・・・?」田神はその変な石ジッとを見つめながら聞いてみる。
田神に質問されたその担当者はその質問は来ると思ってましたよ。と言わんばかりに質問に答える
「これはね、魔鉱石って言われてる石なんだよ。どんなものなのかは触ったあとに説明するから」
田神は言われるままに持ち上げて触ってみる。
「うわ、重い」思いのほかずっしりとしていて思わず声がでてしまう。
担当者は触っているのを確認すると
「そのまんま持ってて初めてだから難しいかもしれないけどその石に手からエネルギー送るイメージをしてみて」
田神は担当者は何を言ってるんだとまぬけな顔で思ったがとりあいず目をつぶり言われるままに手から何かを出すイメージをしてみる。何かが手から石に流れてるようなのを感じ、少し戸惑っていると不思議なことが起きた。石が軽くなってきたのだ。
「なんですかこれ!なんか軽くなってきました!」田神は少し興奮して担当者に話しかける。
「お、上手く行ったかい、良かった良かった」そういうと興奮する田神から石を取り上げ横にあった機械にその石を放り込む。
少しして機械からデータがでてくる。そのデータを担当者が真剣に見ている。
しばらくして担当者が口を開く。
「おー君中々素質あるね」と言われる。
はぁ…と何が何やらと思わず田神はまぬけに答えてしまった。
担当者はそのあと詳しく説明してくれた。
なんでも人間の「何か」に魔鉱石は反応するそうだ、それに反応すると軽くなり硬くなる。その「何か」の込める量が多ければその分反応も強くなるようだ。研究者の間では「魔力」なんて呼ばれてるらしい。
「便利な石ですねー」なんて呑気に答えながら担当者が机に石を置くとこを見ながらふと疑問に思って質問してみる。
「これ体には影響ないんですか?」と恐る恐る聞いてみる。
「大丈夫大丈夫、25年ぐらい前にこの特性発見されて今まで研究されて使われているけど特に悪影響起きたって事例はないから」とあっさりと担当者は答える。
「よかった・・・」全部が全部信じた訳ではないが田神は少しホっとする。
ただ・・・と担当者が言う
「魔力を使うと疲れる」と一言加えた。
話に夢中だったから気づかなかったが確かに倦怠感がある気がする・・・担当者に言われて改めて自分の体に意識を向ける田神。
その様子を知ってか知らないか、担当者は話しを続ける。
「ただこの鉱石にも弱点があってね。魔力の供給が途絶えると元に戻ってしまうんだ。」
百聞は一見に如かずださっきの魔鉱石持ってみと担当者は促す。
言われるがまま田神は机に置いてある魔鉱石を持つ。
「本当だ、元に戻ってる。」持ってみると最初の時と同じようにズッシリとした重さの魔鉱石に戻っている。
「戻る時間はその魔鉱石に込める魔力量によって変わってくるんだよね」と付け加えるよう担当者は言う。
「はい、それでは検査をおしまい」そういって手渡した書類に何かを書いている。
「この検査って中々上手く行かなくてね、人によって君みたいに上手くできる人もいれば全然ダメな人もいる」なんて書類を書きながら担当者は話している。
「では、お疲れ様最初に受け付けたとこに戻って書類渡してね」と書類を渡した。
「ありがとうございました。」そういって書類を受け取り田神は席を離れた。
その後着替えを終え最初の受付の強面の軍人に書類を渡して病院をあとにした。
田神は病院を出て軽く背伸びする。
「やっと終わった…」検査が終わってみるともう昼過ぎてある。
お腹すいたと腹をさする。
「早く家に帰ってご飯食べよう。」そう思い家に向かってとぼとぼ歩いていると
「おーい、総一郎ー」聞きなれた声が背中から聞こえてくる。
振り返るとそこには走ってこっちに向かってくる幼馴染の米山司がいた。
「お前も今日検査だったんだな。どうだった?」走り寄ってきてそんな風に聞いてくる。
「司か普通だよ普通、特に問題もなく終わったよ」田神は答える。
「まあ、ただの検査だもんなそれもそうか。」別に大した答えを期待してたわけではないのだろうあっさり流す。そして思い出したかのように
「あっ、あの検査どうだった?あの最後の検査?」米山はなんとも的を得ない質問をしてくる。
「あの検査?」田神は首を傾げる。
「あれだよなんか石触るやつ、まこーなんだっけ」と名前を思い出そうと目線を左上に向けながらとぼけたように言う。
それを聞いて田神はハッとする。
「ああ、魔鉱石とかいう変な石触るやつね」田神はそう言い。上手く行ったよなんか疲れたけどなんて答えると
「おお、本当かすげえな俺全然ダメだったよ」と少し興奮しつつも首を振りながら喋る。軽くなるとか言ってたけど重いまんまだしよーほんとかよって思ってたけどよーなんて口を尖らせながら言う。
「で、どうだった?本当に軽くなった?」米山は興味ありげに聞いてくる。
「うん、本当に軽くなったよ不思議な石だよねあれ」と質問に答える。
「おお、やっぱり本当なんだな」米山は大げさに反応する。
「担当の人は今は上手くいかなくても練習すればできるようになる人もいるって言ってたけど俺にはできる気がしないぜ」とやれやれのポーズをしながら米山はそう言う。
「あはは…」幼馴染の大げさな言動をみつつ頬をかきながら愛想笑いを浮かべる。
「ま、そういうのできたってことは合格待ったなしだな!」と米山はニヤッと笑いそう言う。
「うっ」田神は思わず言葉に詰まってしまう。
「おいおい、そんな嫌そうな顔すんなよ不合格なんてよっぽど病弱でもない限りはならないんだからよ腹をくくれよ」と言う。
田神は動揺を隠すように喋る。
「ま、まあ結果が来るのが1ヶ月後だからそれまで楽しみに…してるよ…」段々と声を小さくしながら田神は答える。
「それもそうだな、引き留めて悪かったな。腹減ったし家帰るわまたな。」自分の言いたいことだけ言うと米山は走り去っていった。
田神は一人ポツンと取り残されてしまった。
少しの間そこに立っていたが思い出したかのように歩き出す。
「不合格にならないかな・・・」なんて思いながら家に向かっていった。
1ヶ月後田神の想いとは裏腹に合格通知書が届くのであった。もちろん米山にも
20代の若者には長いとても長い陸軍への2年の兵役期間が始まる。