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adventure~異界融合~  作者: ふゆねこ
2/3

一話 魔王襲来

けたたましい音が響く。

俺の体は反射的に手を伸ばし、目覚まし時計の頭を叩いた。


リョウ「朝か。」


昨日はかなり疲れていたんだろう久々に夢も見ないほど熟睡だった。

普段なら30分早く起きていた。


リョウ「・・・なんだ?この匂いは?」


微かにだが土?それに妙な生臭さも感じる。

だが部屋に異常は無い。


リョウ「昨日は気付かなかっただけで、ダンボールに匂いが付いてたのか?」


試しに嗅いでみるが、匂いの元とは考えにくかった。


リョウ「気にしてても仕方ないか。今日は1限からだし、そろそろ出る準備でもするか。」


xxxxxxxxxxxxxx


人が疎らな駅に電車が来る。

都会じゃ満員電車なんていう名物があるらしいが、こんな田舎じゃあり得ないな。


リョウ「?」


電車からの景色に違和感を覚える。


リョウ「あの山・・・あんなだっけか?」


少々変わった小山。

頂上に一際大きな木が生えているらしく、妙に目立った。

普段からこの景色を眺めていたはずだが、全く気がつかなかった。

いや、そもそもあの場所に小山自体あっただろうか?

見渡せば山と木造家屋しかないド田舎だが、あんなに特徴的なものを見落とすだろうか?


リョウ「考えすぎか。」


xxxxxxxxxxxxxx


授業が終わった。

やはりadventureは大人気らしく、休み時間、授業中問わず、話題が飛び交っていたようだ。


「よぉリョウ。今日は帰るのか?」


聞き覚えのある声に振り向く。

見れば、見覚えのある人が立っていた。


リョウ「押忍、クラノ先輩。明日提出の課題忘れてて・・・」


クラノ「しゃーねーなぁ。あんまりサボり過ぎんなよ。天才でも努力を怠れば足元掬われるぞ。」


リョウ「柔道始めて以来、一度も足を掬われた事なんて無いですよ。掬った事なら星の数ほどありますけど。」


クラノ「言ってろ。年末にはデカイ大会があるんだ。ちゃんと整えとけよ。じゃあな。」


リョウ「お疲れ様です。」


クラノ先輩。俺の1つ上で柔道無差別級の時期ホープ。

去年にはオリンピックに出場し、銅メダルという輝かしい成績を残している。

冗談でも俺の事を天才なんて囃し立てるが、俺が天才ならあの人は柔道の神だろう。

なんたって柔道を始めたのが大学に入ってからだって言うから驚きだ。


リョウ「・・・とりあえず帰るか。」


今朝から体調が悪い。匂いは徐々に強くなり、妙な振動まで感じ始めた。

場合によっちゃ病院に行かなーーーーーーーーーーーー。


xxxxxxxxxxxxxx


ここは?


部屋には見覚えがある。

adventureで最後にログアウトした宿場だった。


俺は大学にいたはずだが・・・いつadventureの中に来たんだ?


リョウ「とりあえずログアウト・・・な!?」


意外な物の存在に声が漏れた。

俺の左手に腕時計が巻いてある。

現実でしているものと寸分違わない物が。

追って確認する。衣服もだ。例に漏れず、これも現実の物。


リョウ「・・・ひと昔前にこういう小説が流行ったらしいな。なんでもゲームの世界に取り込まれる。って展開のヤツが。」


地面に触れる。

石畳の地面は固く、陽の熱で微かに温かみを持っている。指先には砂が付着し、試しに匂いを嗅いでみると、微かに土の匂いがした。

指先にはキチンと指紋が刻まれており、夢だとは考えにくかった。


リョウ「だが、それにしては・・・」


閑散とし過ぎている。

ログアウトした時にはかなりの人数がいたはずだが、周囲には人1人居ない。npcすらもだ。

1つ、恐ろしい想像が浮かび上がる。


リョウ「俺だけ・・・なのか?」


直後、声が響いた。


「大変お待たせ致しました。最後の来訪者がようやく着いたようです。

皆さま、訳もわからず死にたくなければ是非広場にお集まり下さい。」


その声は大気ではなく、まるで意識を伝って来たかのように、クリアに脳内に響いた。

脳内に入られたようで多少気分が悪かったが、手掛かりも何もない俺は声に従う事にした。


xxxxxxxxxxxxxx


広場にはかなりの人数が集まっていた。

体感的には東京ドームくらいはあるであろう広場が、今は人で埋め尽くされている。


アキラ「リョウ!」


聞き覚えのある声に振り向く。すると、現実のアキラとも、ゲームのアキラとも違うアキラが居た。

いや、正確には両方のアキラを足して割ったような姿をしていた。

長い黒髪、整った顔立ち、小さな体。だがそこに、明らかに異質な羽根が生えていた。

昨日見た妖精の羽根だ。


リョウ「アキラ!?なんだその格好は?」


アキラ「分からない。気が付いたら此処にいて、こんな格好だった。制服も身体も指紋すらも現実と同じなんだけど、妖精の羽根だけが何故が・・・」


アキラは酷く困惑している。

見渡せば、アキラのように微かにアバターが混ざっている者もいれば、完全にアバターの格好をしている者。また、半分だけ混ざったような者も見えた。


リョウ「この状況・・・どう思う?」


アキラ「ひと昔前に流行った小説に似てる。ゲームの世界に取り込まれて、そこでデスゲームされられるっていう。」


リョウ「だよなぁ。その展開でいくと、さっきの声の主が犯人って事になりそうだけど・・・」


考えた所でどうにもならないが、少しでも落ち着くために状況を整理するための会話をする。


「初めましてみなさん。私は神です。」


突然、広場の北側に巨大な人影が現れた。

黒いローブを被っているらしく顔は分からないが、声から男だということは分かった。


「これから皆様に言う事は慈悲です。感謝して下さい。

聞き飽きた展開やありがちな内容のため、省略させて頂きます。

1つ、死ねば終わりです。蘇る手段も、可能性も何もありません。

2つ、ここは元から現実です。チュートリアルで説明した国のありよう、設定は同じですが、私の魔法により一部の原住民が消滅、世界が上書きされています。

3つ、元の世界の人間は全て此方に来ています。赤子から老人まで全てです。

4つ、これはただの気まぐれです。私からすれば山1つ使った生態系ごっこみたいなものです。

以上で説明を終わります。皆様せいぜい楽しんで下さい。」


ローブの男はそう言うと煙のように消え去ってしまった。


「じょ・・・冗談じゃねぇぞ!しっかり説明しろぉ!!」

「運営仕事しろよ!!」

「仕事の途中だぞ!下らない茶番に付き合わせるんじゃない!」

「今からデートだったんですけど!サイアク!!」

「責任者呼べぇ!!」


周囲からは怒号や悲鳴、そして僅かに歓喜の声も上がっていた。


リョウ「やばいな。」


アキラ「うん、暴動が起きる前になんとか沈静化して真実を確かめないと。」


リョウ「違う。」


アキラ「え?」


アキラの考えも分かる。

極めて馬鹿げた話だ。信じる方がおかしいだろう。事実、この広場のほぼ全員がゲームだと思っている。

俺もその内の1人だ。

だが、もしこれが現実だった時、もっと恐ろしい事がある。


来る途中で拾った世界地図を広げる。

そして再度確認する。


リョウ「あいつは言った。国の在りようは変わっていないと。一部は消えたがこの世界の設定は変わっていないと。」


恐ろしい。

何故あの宿場に人が居ないか理解できる?


リョウ「メールに書いてあっただろう。家を建ててもいい。傭兵になってもいい。騎士になってもいい。農家になってもいい。

そして・・・。」


最も恐ろしい。

仮にそいつが消滅していたとしても、そいつの手下は確かにいるのだ。









リョウ「魔王を倒してもいいって。」








いるのだ。

希望的観測を持って言ったとしても、いたのだ。

そして、王がいると言う事は民もいる。即ち、魔物がいる。

そう考えれば、何故この街にNPCの人影が全く無いのか察しがつく。

背筋が凍る思いだ。俺の言葉で何人が死ぬだろう。大きなパニックになる。だが、誰かが一分一秒でも早く言わなければ、手遅れになるかも知れない。


リョウ「アキラ。俺が叫んだら全力で走って付いて来い。振り返っても止まってもダメだ。全力で走るんだ。手を離すなよ。」


俺はアキラの手を強く握った。

アキラも既に気が付いていたのだろう。引きつった顔で周囲を見渡す。

何かいい方法は無いのかと。

だがもう時間は無いだろう。

王都を捨てるほどだ。

どうしようも無かったのだろう。

俺は呼吸を整え、あらん限りの大声で叫んだ。







リョウ「魔王が来るぞォォォォォォォォォォ!!!!!!!」


瞬間、南に向かって走り出す。

周囲の人間は呆気に取られていたが、俺の言葉の意味に気が付いた人間が遅れて走り出した。

後は雪崩のようだった。

気が付いた人間も、そうでない人間も、とにかくこの場から逃げなければならないと理解していた。

そして、人々の足音という轟音をかき消す程の音が、王都に降り始めた。

真っ赤に燃えたぎる巨大な岩石が、無数に空から降り注いだのだ。

振り返れば、広場は既に火と岩に飲まれ、逃げ遅れた人間が小さく見えた。

遠くからでも分かった。

踠いている。

熱から逃げようと必死に手足を動かしている。

だが非常にも、その踠きは異形によって終わらされた。

ここからでも分かる。

五メートル近い巨体が、その身と変わらぬ棒を振り回している。

1つだけではない。

横一列に並び、隊列を組んでいる。

いるのだ、指導者が。

魔王が。


リョウ「走れェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」


俺の叫びを聞き、人々は俺の視線の先、自分たちの後方を確認した。そして今度こそ理解した。魔王が来ていると。


xxxxxxxxxxxxxx


そこから先のことは覚えていない。

ただただ走った。

雨の中。森の中。草原。

3日は走った気がする。

気付けば、周囲に俺とアキラしかいないかった。


リョウ「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」


呼吸が落ち着かない。

アドレナリンが出ているせいか、疲れは感じないが、心臓の鼓動が酷く痛い。


限界を感じ、足を止める。

そういえばアキラは?

平均よりは体力はあるだろうが、3日も走り続けたんだ。俺以上に疲労が溜まっているだろう。


リョウ「ハッ・・・アキラ・・・大丈夫か?」


アキラはうつ伏せに倒れこみ、返事をしなかった。


リョウ「・・・アキラ?」


返事がない。

俺は急いで呼吸を確認する。


リョウ「息は・・・しているが、熱が酷い。」


生きている事に安心した。

だが周囲は見渡す限り平原、民家の1つも見えない。


リョウ「クソォ・・・誰か、誰か居ないのか!!誰でもいい!助けてくれ!!誰か!!だ—————」


見回した視線の先に、月明かりでシルエットが浮かび上がる。

数はザッと20

気が付けば囲まれている。

あの形、見覚えがある。が、知っているものの3倍は大きい。


「「「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」」」


一匹が吠えると、他のものもつられて吠える。

狼だ。

体調は3メールはあるだろうか。

その眼光は血に飢え、口からは涎が滴っていた。

喰われる。

これが野生の感覚というものなのだろうか。

これから自分が喰われるという事がハッキリと理解できた。

狼達はジリジリと距離を詰める。

周囲は平原。

隠れる所も無ければ逃げる場所もない。

もう狼達は10メートル手前まで来ていた。

望みは薄いだろうが、やってみなければ分からない、幸い体格差は包み込める位ある。

俺はアキラを隠すように上から覆い被さり、祈った。

俺だけで満足してくれと。


狼の鼻息が聞こえる。

俺が観念したの分かったのだろうか。

一匹が軽やかな足取りで近づいてくる。

5メートル



3メール








1メートル。








走馬灯というやつだろうか。

いつまで経っても噛み付かれる感覚がない。

いや、もしかしたらもう俺は死んだのかもな。


あぁやっぱりだ。噛み付かれたんだろう首から俺の血が滴ってる。

でも、痛くはないな。

少しザラつく感覚があるくらいだ。



ん?



さすがにおかしく思い、恐る恐る顔を上げた。

巨大な狼がベロベロと俺を舐めている。

なんだ?この世界の狼は舐めて獲物を食べるのか?

ヤギの拷問を思い出すな。


俺が顔を上げた事に気付いたのか、狼が舐めるのをやめた。


・・・来るか?













「オン!」



リョウ「—————シフか!!!」

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