第一章 天空から雨男?
――キキィィィィィ!!ドンッ!!
11月4日。天気は快晴、最高気温は20℃。最低気温は12℃。
交通量はそこそこ、渋滞は無し。
そして、彼と向かえる3度目の私の誕生日。
目の前に広がる、血の水溜り。血溜りとでもいうの?
と、冗談はココまで。
彼が、車にはねられた。
「亮っ・・・・・!!」
小学生が泣きながら逃げていく。
というのも、トラックに撥ねられかけた小学生(若干3年生くらいの)を助けるためにトラックの前に飛び出し、撥ねられた。
彼らしいといえば、彼らしいけれど。
「ちょ・・・冗談やめてよ・・・・・亮?ねぇ、亮ってば!」
私の彼・菅谷 亮は、殺しても死なないような妙に丈夫なヤツだった。
死ぬわけがない、そう思ってた。
気がつけば周囲は大混乱。
血の海を見た人が泣くわ喚くわ・・・・。
泣きたいのはこっちだっつぅーの。
「亜美・・・・・。悪ぃ、まずったみてぇ・・・・・」
消え入りそうな声で小さく呟く亮。
ふざけんなっ!て、ぶん殴ってやりたかったけど、何かそうはいかないみたいで。
「・・・・死んだら・・・許さないからっ・・・・」
「・・・・・・・ちょっと・・・無理・・・かも・・・・・」
頭から血を流しながら、少し冷えた私の手を弱弱しく握った。
「・・・ごめん・・・・・・・」
その言葉を最後に、すぅっと手から力が抜け、再び血の海に戻っていった。
待って、待って。
こいつ、死んだの?
そんなことって・・・・・しかも、人の誕生日に?
『おーい、やっけに冷静だな。姉さん。』
あれ?今なんか・・・聞こえたような・・・・・気のせい?
『気のせいじゃないって。ほぉら、上上。』
頭の中に直接入ってくるような声が気持ち悪くて、ぶんぶんと頭を振った。
すると、ザァっと雨の音がして、傘を指した男が空から降ってきた。
しかも、神の色は金髪。服は一応真っ黒だけど、ジャラジャラ何か光ってるし。
ちなみに、雨が降っているのは男の上だけだ。
もしかして、ものすごい雨男?
なわけないか。
「・・・・夢、なのかな・・・・そうであってほしいんだけど・・・・」
『ざーんねん、夢じゃないんだな、これが。』
からかうような男の声にいちいち苛々する。
というか、彼氏が死んだ事をどうして嘆かせてくれないわけ?
そして私、何でこんなに冷静?
『あーちょっと、姉さん。全部聞こえてるかんねー。』
「あ、そう。で、誰?」
『そんなことより、なんで姉さん泣かないわけ?これ、彼氏なんでしょ?』
不思議そうな顔して、亮の腹をトントン、と蹴った。
「蹴んな、こら。」
私は、少女漫画の主人公みたいにキラキラキューン、としてるわけでもなければ、少年漫画のヒロインみたいにボンッキュッボンッでもない、平凡な高校2年生。
残念ながら、心ときめくようなセリフを吐けはしない。
『へぇ〜、変わってるねぇ〜。まぁ、確かに貧相な胸だけど。』
「うるさい、空から落ちてきたやつが何を言うか。」
『こりゃまた失礼。』
っていうかこいつ、誰だ?
何で私、話してるわけ?
「ねぇ、あんた誰?」
『俺?俺はねぇ〜・・・・うーん、そうだなぁ・・・・・天使!』
「嘘付け。まず天使に行き着くまでに間があるのかおかしいでしょ。」
『あ、そうだね。しゃーねー、言うか。』
「いや、いなくなってくれれば別にそれでも構わないといいますか・・・・」
『言います!言うからそんなに急かすなっての。ったくもー、最近の子は・・・・』
はぁ、いつまで引っ張るんだ。と、私はため息をつく。
今さら気付いたが、周りの時が止まっているみたいだ。
まぁ、空から人が振ってきて騒がないわけ無いか。うん。
『俺は、未来の国からやってきた魔法使い様だ。』
「話題引っ張りすぎ。そろそろ読んでる人飽きる頃だよ。」
『本当だって・・・。空から降ってきて、時間止まってるんだから、別に変じゃないだろ?』
「・・・・・・じゃあ、その魔法使い様がこんな一介の平凡な女子高生カッコ悲しみの海に沈むカッコトジに何の御用で?」
はぁ、と今度は魔法使いとなのる男がため息をつく。
そんなことより、何してるんだろう・・・私。
『うっわー、ムカツク。っていうか、カッコなんて作者に任せとけよ。――んんっ。では改めて、俺はミネルヴァ。魔法使い。お前に夢を見せにきた。暇つぶしに。」
「最後の、言わないほうがいいと思うよ。」
『あ、そう?じゃ、忘れて。』
「無理だって。・・・・で、夢って?どういうこと?」
良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりに胸を張って、傘を杖に変える。
その瞬間、雨がザバッと降り注いで、男は一瞬のうちに水でビシャビシャになった。
「っぷ。」
『笑うな。一介の平凡な女子高生カッコ悲しみの海に沈むカッコトジ。俺が、お前の彼氏、生き返らせてやろうって話。』
「え・・・・?」
こんなおちゃらけて馬鹿っぽい雨男が、亮を生き返らせてくれる?
そんなこと、あるわけないじゃん。
馬鹿にするのもいい加減にしてって感じ。
『おちゃらけて馬鹿っぽい雨男で悪かったな。』
だけど、もしこれが現実だとしたら、そりゃあ亮に戻ってきて欲しい。
血の海から這い上がってきて欲しいけど。
『まぁ、ちょっと変わって生き返るわけなんだけど・・・・』
「変わってって、どういうこと?」
『記憶がないんだよ。ま、1度は零れ落ちた記憶だからな、手繰り寄せれば戻るけど。』
「けど?」
『記憶が全て戻ったら、死ぬ。今の状態に戻る、ってことだな。』
私のことも、思い出さないかもしれない。
万が一思い出しても、全部思い出したら再び失ってしまう。
そんなの、悲しすぎる。
『じゃあ、やめる?言っとくけど、これはチャンスだぜ?』
意地悪い条件だ。
こんなに冷静ではいるけど、やっぱり亮が死ぬのは悲しい。
たとえ私の事を覚えていなくなって、また思い出なんて作ればいい。
あくまでも、ポジティブシンキングで行こう!
「・・・・乗ってやろうじゃないの。雨男。」
『ミネルヴァだって言ってんだろ?』
にぃ、と口端を吊り上げて、不気味な笑みを笑う。
そして、ミネルヴァという男は、亮の心臓に杖を突き刺した。
「ちょ・・・・・えっ・・・!?」
一瞬にして、杖が大きな鍵へと変わり、すぅっと吸い込まれていった。
『未来時計・改良版だ。精々頑張れよ、姉さん?』
ミネルヴァがパチン、と指を鳴らすと、周囲が一瞬で騒然となった。
「亮!・・・・亮っ・・・・!!」
「俺、何して・・・・・いっつー・・・」
するとそこに救急車がやってきて、タンカーに亮を乗せる。
「あ、あの・・・・私も乗って行っていいですか?」
「どうぞ。」
優しい(ちょっとかっこよさげな)救急隊員が、ニコッと笑って私を救急車の中に入れてくれた。
***
亮は、手術をして、一命を取り留めた。
まぁこれで万が一死んだら、私は一生あの雨男を恨んだんだろうけど。
さて、運命に抗ってみますか。
おちゃらけてて馬鹿っぽい、けどちょっと怪しい魔法使い様に感謝しつつね。




